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3章 さらわれた元王女様
17話 ウィナーの新装備
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「遅いな……」
ルットは窓から暮れゆく空を眺めながら不安げに呟く。メルティナとピファがカーヤの元へ向かったのが朝のこと。既に夕暮れ時である。
ガチャ……
執務室の扉が開く。ルットは期待を込めて振り向いた。
「よぉ」
入ってきたのはウィナーだ。
「どうしたのですか、ウィナー殿?」
内心では落胆しながらも、それを悟られまいと平静を装って訊く。
「メルティナ嬢ちゃんとピファ嬢ちゃんなんだがよ、ちっと遅すぎなんじゃねぇかと思ってよ」
ウィナーはスキンヘッドを撫でる。
「……そうですね。僕もそれが気になっていたんです。あの二人の身に何かあったんじゃないかと。やはり、護衛を付けるべきでした……」
ルットは、メルティナとピファの意思を尊重し、護衛を付けなかったことを悔やんでいた。
「……しょうがねぇ。オレが迎えに行ってきてやるよ。その婆さんの家はわかるんだろ?」
「ほんとですか!? ウィナー殿に行ってもらえれば安心です! 住所と地図を描きますので少々お待ち下さい」
ウィナーからの申し出をありがたく受け、机に向かうルット。
「しかしよぉ、オレやセラ嬢ちゃんやアルフォスの旦那ならともかく、メルティナ嬢ちゃんやピファ嬢ちゃんはそれほど敵視されてないんじゃねぇのか?」
「たしかに、数だけならウィナー殿たちを憎む者よりはるかに少ないですね。しかし、アルフォスやリュカリオン様を受け入れた僕やメルティナ様、ピファ、さらにはジルバーナ様を売国奴とする者がいるのも事実です。それを知っていたのに!……これは僕のミスです……」
「けど、ルットはあの二人の意思を尊重して、婆さんと三人だけにしてやりてぇって思ったんだろ? オレはそういうの嫌いじゃねぇぜ」
「ありがとうございます。しかし……」
「ふむ。たしかに、ルットの判断ミスではあるな」
執務室のドアが開けられ、白いローブをまとった長く艶やかな銀髪の青年が入ってきた。
「リュカリオンじゃねぇか! アルフォスの旦那ならいねぇぞ」
ウィナーは自らの創造主の名を口にする。時折、アルスフェルト城を訪れていたが、ここ数日は来ていなかった。
「そうなのか。アルフォスは出掛けておるのか。だが、今回はウィナーよ、そなたに渡す物があって来たのだ」
「オレに?」
リュカリオンは頷き、持っていた円形の小型盾を手渡す。
「何だ、こりゃ?」
「ラウンドシールドですね」
地図を書き終えたルットが言い当てる。
「うむ。しかし、ただの盾ではない。元々、ウィナーは防御膜魔術を最も得意としておるだろう? というより、それと身体強化以外は使えぬのだがな」
「う、うるせぇよ」
ウィナーは拗ねたように唇をとがらせる。
「まぁ聞け。その盾には既に防御膜魔術を付与しておいた。つまり、その盾を装備しておくだけで常に防御膜魔術がかかっている状態となる。そこに自らの防御膜魔術を重ねがけすることで強固な防御力を得ることができるのだ」
「おぉ、すげぇじゃねぇかよ!」
「それだけではないぞ。さらに、その盾には武器を魔空間に収納する機能も付加してある。これによりクレイモアの持ち運びが楽になる」
「サンキューな、リュカリオン!」
早速、ウィナーはラウンドシールドを左手に装備し、クレイモアを魔空間に収納する。
「うっし! そんじゃ、行ってくるぜ」
ウィナーは、ルットからメモを受け取ると執務室を退出していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「団長! お出掛けですか?」
アルスフェルト城の正門にやってきたウィナーに、背後から追ってきた若き騎士が声をかけてくる。
「ラースか。ちっと用事で出掛けてくるぜ」
「あの、どのような用事なのでしょうか? お教え願えませんか?」
ラースの真剣な様子にウィナーは漸く迷っていたが、やがて口を開いた。
「メルティナ嬢ちゃんとピファ嬢ちゃんの帰りがあまりに遅ぇからよ、迎えに行くことになった」
「でしたら、俺もご一緒させてください、お願いいたします!」
ウィナーは、深く頭を下げて志願してくる部下の肩に手を置く。
「いいだろう。ついてこい!」
「はい!」
ラースは、ウィナーの大きく広い背中を追っていく。
ルットは窓から暮れゆく空を眺めながら不安げに呟く。メルティナとピファがカーヤの元へ向かったのが朝のこと。既に夕暮れ時である。
ガチャ……
執務室の扉が開く。ルットは期待を込めて振り向いた。
「よぉ」
入ってきたのはウィナーだ。
「どうしたのですか、ウィナー殿?」
内心では落胆しながらも、それを悟られまいと平静を装って訊く。
「メルティナ嬢ちゃんとピファ嬢ちゃんなんだがよ、ちっと遅すぎなんじゃねぇかと思ってよ」
ウィナーはスキンヘッドを撫でる。
「……そうですね。僕もそれが気になっていたんです。あの二人の身に何かあったんじゃないかと。やはり、護衛を付けるべきでした……」
ルットは、メルティナとピファの意思を尊重し、護衛を付けなかったことを悔やんでいた。
「……しょうがねぇ。オレが迎えに行ってきてやるよ。その婆さんの家はわかるんだろ?」
「ほんとですか!? ウィナー殿に行ってもらえれば安心です! 住所と地図を描きますので少々お待ち下さい」
ウィナーからの申し出をありがたく受け、机に向かうルット。
「しかしよぉ、オレやセラ嬢ちゃんやアルフォスの旦那ならともかく、メルティナ嬢ちゃんやピファ嬢ちゃんはそれほど敵視されてないんじゃねぇのか?」
「たしかに、数だけならウィナー殿たちを憎む者よりはるかに少ないですね。しかし、アルフォスやリュカリオン様を受け入れた僕やメルティナ様、ピファ、さらにはジルバーナ様を売国奴とする者がいるのも事実です。それを知っていたのに!……これは僕のミスです……」
「けど、ルットはあの二人の意思を尊重して、婆さんと三人だけにしてやりてぇって思ったんだろ? オレはそういうの嫌いじゃねぇぜ」
「ありがとうございます。しかし……」
「ふむ。たしかに、ルットの判断ミスではあるな」
執務室のドアが開けられ、白いローブをまとった長く艶やかな銀髪の青年が入ってきた。
「リュカリオンじゃねぇか! アルフォスの旦那ならいねぇぞ」
ウィナーは自らの創造主の名を口にする。時折、アルスフェルト城を訪れていたが、ここ数日は来ていなかった。
「そうなのか。アルフォスは出掛けておるのか。だが、今回はウィナーよ、そなたに渡す物があって来たのだ」
「オレに?」
リュカリオンは頷き、持っていた円形の小型盾を手渡す。
「何だ、こりゃ?」
「ラウンドシールドですね」
地図を書き終えたルットが言い当てる。
「うむ。しかし、ただの盾ではない。元々、ウィナーは防御膜魔術を最も得意としておるだろう? というより、それと身体強化以外は使えぬのだがな」
「う、うるせぇよ」
ウィナーは拗ねたように唇をとがらせる。
「まぁ聞け。その盾には既に防御膜魔術を付与しておいた。つまり、その盾を装備しておくだけで常に防御膜魔術がかかっている状態となる。そこに自らの防御膜魔術を重ねがけすることで強固な防御力を得ることができるのだ」
「おぉ、すげぇじゃねぇかよ!」
「それだけではないぞ。さらに、その盾には武器を魔空間に収納する機能も付加してある。これによりクレイモアの持ち運びが楽になる」
「サンキューな、リュカリオン!」
早速、ウィナーはラウンドシールドを左手に装備し、クレイモアを魔空間に収納する。
「うっし! そんじゃ、行ってくるぜ」
ウィナーは、ルットからメモを受け取ると執務室を退出していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「団長! お出掛けですか?」
アルスフェルト城の正門にやってきたウィナーに、背後から追ってきた若き騎士が声をかけてくる。
「ラースか。ちっと用事で出掛けてくるぜ」
「あの、どのような用事なのでしょうか? お教え願えませんか?」
ラースの真剣な様子にウィナーは漸く迷っていたが、やがて口を開いた。
「メルティナ嬢ちゃんとピファ嬢ちゃんの帰りがあまりに遅ぇからよ、迎えに行くことになった」
「でしたら、俺もご一緒させてください、お願いいたします!」
ウィナーは、深く頭を下げて志願してくる部下の肩に手を置く。
「いいだろう。ついてこい!」
「はい!」
ラースは、ウィナーの大きく広い背中を追っていく。
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