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4章 少女を救え!
33話 解決
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謁見の間にいる全員の視線が俺とメルティナに注がれる。
「そいつが魔剣ダインスレフか?」
ヴェルムは俺の右手に握られている剣に注目する。
「ああ。そこにいるリーシャと引き換えにならダインスレフを渡すが?」
交渉を持ちかけられ、ヴェルムは黙考する。
「解せないな。貴様はなぜ人間の小娘と魔剣を交換する? 釣り合いが取れているとは思えんがな」
「価値観はそれぞれだろう? 俺にとっては、リーシャはダインスレフと引き換えにする価値がある。それだけだ」
「本物なのだろうな?」
視線をダインスレフから俺へと移したヴェルムが問う。
「愚問だな。偽物を用意したところで無駄なんじゃないか? 刀剣好きのおまえの目利きには見抜かれてしまうだろ?」
納得したのか、ヴェルムはフッと息を漏らす。
「いいだろう。その剣をこっちへよこせ」
投げ渡された魔剣を受け取ったヴェルムは、すぐに鞘からダインスレフを抜く。
「おぉ! さすがは魔剣ダインスレフだな!!」
妖しい輝きを放つ剣身から迸る魔力を感じ、恍惚としている。
「本物であることは確認できただろう? 交渉成立ということでいいな?」
確認した直後、ヴェルムが冷笑を浮かべた。
「ああ、交渉成立ってことでかまわない……ぜ!」
ヴェルムは手にしたダインスレフを後ろにいたリーシャに向けて振りかざした。
しかし、その刃がリーシャに届くことはなかった。リュカリオンが、武具製造魔術によって作り出した魔力の剣を右手で握り、ダインスレフを受け止める。そして、左手に握った魔力の剣の切先をヴェルムの喉元に突き付けていた。
「ヴェルムよ。これはどういうつもりだ?」
静かな口調で訪ねるリュカリオン。だが、その目には明らかな怒りを宿している。
「い、いや。これは……後ろにリーシャがいたことを失念していたというか……けっして悪気があったわけでは!」
必死に弁解するヴェルム。これは相手が悪いとしか言いようがない。
「ならば、この娘に詫びるべきではないか?」
「なっ!? この俺が人間の小娘に?……」
「……どうした?」
リュカリオンに鋭い視線を受けては、さしものヴェルムも反論できないようだ。
「……すまなかった……」
ヴェルムは、微かな声で詫びると早々に退散していく。その後ろ姿を見送りながらリュカリオンがため息をつく。
「やれやれ、困ったものだな」
それから、リーシャへと視線を移す。
「よく頑張ったな。ラミーネルならばそなたも平穏に暮らせよう」
リュカリオンは、リーシャの髪を優しく撫でながら言う。
「さて。あとのことは任せる」
「了解」
俺は言い置いて寝室へと向かう。そのあとをメルティナがついてくる。
ルットはリーシャの側に歩み寄る。
「今日のところはピファと一緒に寝るといいよ。明日からはこの城で働いてもらうけど、それでいいかな?」
「……あの、私は何をすればいいんですか?」
リーシャに訊かれて、ルットは微笑む。
「洗濯や洗い物、掃除なんかをしてもらおうと思ってる。慣れるまで大変だろうけど、危険なことはないし、何かあれば遠慮なく相談してくれていいからね」
安心させるように静かな口調で伝えるルットだったが、リーシャはなにやら黙っている。俺は気になって立ち止まり、様子をうかがうことにした。
「どうかしたのかい?」
ルットが訊く。
「……いえ、なんでもありません……」
一瞬、何かを言いかけたが、すぐに目を伏せてしまう。
「そうか。とにかく今日はゆっくり休むんだ」
「それじゃ、おやすみなさい。行こ、リーシャちゃん!」
ピファはリーシャの手を取り、寝室へと向かう。
「ルットよ。アルフォスを甘やかし過ぎてはならんぞ?」
ピファとリーシャを見送りながらリュカリオンが言う。俺も寝室に向かおうとしていたが、その一言でまたしても足を止める。
「と、おっしゃいますと?」
聞き返すルットに、リュカリオンは口角をあげ、俺をチラリと見た。嫌な予感がする。
「アルフォスはラミーネルを統治しておる立場にもかかわらず、城にはほとんどおるまい?」
「えぇ。それは、そうですが……」
ルットは答えながらも質問の意図を探るようにリュカリオンを見る。
「……そうだな。明日はルットの負担を減らすためにもアルフォスには城で書類整理をしてもらうとしよう」
リュカリオンがとんでもないことを言い出した。
「ちょっと待て。どうしてそうなる?」
すかさず反論する俺にリュカリオンはすました顔で答える。
「ラミーネルを統治する者として、たまにはそれくらいするべきであろう。明日はアルスフェルトから出ることは許さぬ」
「冗談だろ?」
「いや。余は本気だが?」
「命令の拒否権を行使する」
「それも認めん。魔剣ダインスレフをくれてやったのだぞ。これくらいのことは我慢してもらわねばな」
「今さら交換条件を出すなんて卑怯だぞ?」
「なにを言っておる。余は最初から無条件でやるとは言っておらぬぞ? アルフォスが勝手に都合よく受け取っただけであろう?」
あっさりと論破されてしまう。
「決まったな。ルットよ、明日はアルフォスを存分に使うがよい」
「承知いたしました。お気遣いいただき、ありがとうございます」
憂鬱な気分のまま、メルティナとともに寝室に向かう。
「あら? メルティナ、どこへ行くんですの?」
セラが不意に訊く。
「アルフォスと一緒に寝る約束をしてるから……」
メルティナが返答した刹那、セラは凄まじい勢いで俺の前にやってきた。
「アルフォス様! それは本当ですの!?」
「あ、あぁ……」
間近に迫ったセラの顔を見つつ答えた。
「認めませんわ! それでしたら、わたくしもご一緒します!」
「えぇ!? そんなぁ……」
メルティナがセラに抗議の眼差しを向ける。
「そもそも第一従者のわたくしを差し置いて、というのが気に入りませんわ!」
「そんなの関係ないじゃない!」
「おおありですわ!」
いつものようにセラとメルティナが俺を挟んで言い争う。
「……はぁ……」
俺は途方もない脱力感に襲われながら、足取りも重く寝室へと向かうのだった。
「そいつが魔剣ダインスレフか?」
ヴェルムは俺の右手に握られている剣に注目する。
「ああ。そこにいるリーシャと引き換えにならダインスレフを渡すが?」
交渉を持ちかけられ、ヴェルムは黙考する。
「解せないな。貴様はなぜ人間の小娘と魔剣を交換する? 釣り合いが取れているとは思えんがな」
「価値観はそれぞれだろう? 俺にとっては、リーシャはダインスレフと引き換えにする価値がある。それだけだ」
「本物なのだろうな?」
視線をダインスレフから俺へと移したヴェルムが問う。
「愚問だな。偽物を用意したところで無駄なんじゃないか? 刀剣好きのおまえの目利きには見抜かれてしまうだろ?」
納得したのか、ヴェルムはフッと息を漏らす。
「いいだろう。その剣をこっちへよこせ」
投げ渡された魔剣を受け取ったヴェルムは、すぐに鞘からダインスレフを抜く。
「おぉ! さすがは魔剣ダインスレフだな!!」
妖しい輝きを放つ剣身から迸る魔力を感じ、恍惚としている。
「本物であることは確認できただろう? 交渉成立ということでいいな?」
確認した直後、ヴェルムが冷笑を浮かべた。
「ああ、交渉成立ってことでかまわない……ぜ!」
ヴェルムは手にしたダインスレフを後ろにいたリーシャに向けて振りかざした。
しかし、その刃がリーシャに届くことはなかった。リュカリオンが、武具製造魔術によって作り出した魔力の剣を右手で握り、ダインスレフを受け止める。そして、左手に握った魔力の剣の切先をヴェルムの喉元に突き付けていた。
「ヴェルムよ。これはどういうつもりだ?」
静かな口調で訪ねるリュカリオン。だが、その目には明らかな怒りを宿している。
「い、いや。これは……後ろにリーシャがいたことを失念していたというか……けっして悪気があったわけでは!」
必死に弁解するヴェルム。これは相手が悪いとしか言いようがない。
「ならば、この娘に詫びるべきではないか?」
「なっ!? この俺が人間の小娘に?……」
「……どうした?」
リュカリオンに鋭い視線を受けては、さしものヴェルムも反論できないようだ。
「……すまなかった……」
ヴェルムは、微かな声で詫びると早々に退散していく。その後ろ姿を見送りながらリュカリオンがため息をつく。
「やれやれ、困ったものだな」
それから、リーシャへと視線を移す。
「よく頑張ったな。ラミーネルならばそなたも平穏に暮らせよう」
リュカリオンは、リーシャの髪を優しく撫でながら言う。
「さて。あとのことは任せる」
「了解」
俺は言い置いて寝室へと向かう。そのあとをメルティナがついてくる。
ルットはリーシャの側に歩み寄る。
「今日のところはピファと一緒に寝るといいよ。明日からはこの城で働いてもらうけど、それでいいかな?」
「……あの、私は何をすればいいんですか?」
リーシャに訊かれて、ルットは微笑む。
「洗濯や洗い物、掃除なんかをしてもらおうと思ってる。慣れるまで大変だろうけど、危険なことはないし、何かあれば遠慮なく相談してくれていいからね」
安心させるように静かな口調で伝えるルットだったが、リーシャはなにやら黙っている。俺は気になって立ち止まり、様子をうかがうことにした。
「どうかしたのかい?」
ルットが訊く。
「……いえ、なんでもありません……」
一瞬、何かを言いかけたが、すぐに目を伏せてしまう。
「そうか。とにかく今日はゆっくり休むんだ」
「それじゃ、おやすみなさい。行こ、リーシャちゃん!」
ピファはリーシャの手を取り、寝室へと向かう。
「ルットよ。アルフォスを甘やかし過ぎてはならんぞ?」
ピファとリーシャを見送りながらリュカリオンが言う。俺も寝室に向かおうとしていたが、その一言でまたしても足を止める。
「と、おっしゃいますと?」
聞き返すルットに、リュカリオンは口角をあげ、俺をチラリと見た。嫌な予感がする。
「アルフォスはラミーネルを統治しておる立場にもかかわらず、城にはほとんどおるまい?」
「えぇ。それは、そうですが……」
ルットは答えながらも質問の意図を探るようにリュカリオンを見る。
「……そうだな。明日はルットの負担を減らすためにもアルフォスには城で書類整理をしてもらうとしよう」
リュカリオンがとんでもないことを言い出した。
「ちょっと待て。どうしてそうなる?」
すかさず反論する俺にリュカリオンはすました顔で答える。
「ラミーネルを統治する者として、たまにはそれくらいするべきであろう。明日はアルスフェルトから出ることは許さぬ」
「冗談だろ?」
「いや。余は本気だが?」
「命令の拒否権を行使する」
「それも認めん。魔剣ダインスレフをくれてやったのだぞ。これくらいのことは我慢してもらわねばな」
「今さら交換条件を出すなんて卑怯だぞ?」
「なにを言っておる。余は最初から無条件でやるとは言っておらぬぞ? アルフォスが勝手に都合よく受け取っただけであろう?」
あっさりと論破されてしまう。
「決まったな。ルットよ、明日はアルフォスを存分に使うがよい」
「承知いたしました。お気遣いいただき、ありがとうございます」
憂鬱な気分のまま、メルティナとともに寝室に向かう。
「あら? メルティナ、どこへ行くんですの?」
セラが不意に訊く。
「アルフォスと一緒に寝る約束をしてるから……」
メルティナが返答した刹那、セラは凄まじい勢いで俺の前にやってきた。
「アルフォス様! それは本当ですの!?」
「あ、あぁ……」
間近に迫ったセラの顔を見つつ答えた。
「認めませんわ! それでしたら、わたくしもご一緒します!」
「えぇ!? そんなぁ……」
メルティナがセラに抗議の眼差しを向ける。
「そもそも第一従者のわたくしを差し置いて、というのが気に入りませんわ!」
「そんなの関係ないじゃない!」
「おおありですわ!」
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