聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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5章 海賊討伐

36話 リーシャの苦悩

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 クラッツェルンの南に位置する港町ワントナ。その町の宿屋ガリバーの庭で、ウィナーがクレイモアを片手にリーシャと対峙している。

 「いきます!」

 リュカリオンから授けられた深紅の鎧をまとった、グリーンの瞳の少女は大槍を手にウィナーに斬りかかった。

 ウィナーは難なくかわし、クレイモアをふるう。リーシャは身をかがめ、地面を蹴ってウィナーと距離をとり、大槍を構え直す。

 (あれっ!?)

 リーシャの視界にスキンヘッドの巨躯が映らない。いつの間に見失ってしまったのか。

 「おせぇぞ」

 既に背後へと回り込んでいたウィナーがクレイモアを横に一閃する。

 「きゃあっ!」

 大槍の柄でどうにか受け止めた。しかし、弾き飛ばされて庭の上を転げ回らされる。

 これが実戦であれば、今の一撃で確実に勝負は決していた。リーシャは悔しさに唇を噛む。

 「どうした、もうしまいかよ?」

 ウィナーが欠伸あくびをしながら挑発的な視線を向けてくる。

 「まだまだ!!」

 立ち上がった赤鎧の少女は姿勢を低く保ちながら駆ける。

 「やぁ!!」

 振りかざした大槍はまたしても何もない空間を斬り裂くだけだ。手応えは全くない。

 ウィナーは、後方へと跳ぶことで回避をあっさりと成功させた。

 「同じ事を何度も言わせてんじゃねぇ! 魔力による身体強化がまだまだあめぇぞ。もっと集中しろ!」

 「はい!」

 ウィナーのアドバイスを受け、リーシャは呼吸を整えて集中する。

 「かはっ!」

 ウィナーがリーシャを勢いよく蹴り飛ばす。

 「バカか? てめぇが集中力を高めるまで待ってくれるわけがねぇだろうが!」

 ウィナーは、庭で仰向けに倒れているリーシャを見下ろす。

 「す、すみません!」

 リーシャは痛む身体で立ち上がる。

 「オレの連続攻撃を受けてみな!」

 言うが早いか、リーシャとの間合いを一気に詰めたウィナーがクレイモアを連続で閃かせる。あらゆる角度からくり出させる斬撃をリーシャは懸命にさばく。が、対応しきれなかった攻撃が容赦なく少女の身体を傷つけていく。

 「おらおら、この程度もさばけないようじゃ話にならねぇぞ! それに……」

 ウィナーは、クレイモアをふるいながら、自分の足でリーシャの足を払う。

 「ぐぅっ!」

 地面に仰向けに倒されたリーシャは起き上がる間もなく、胴体を踏みつけられてしまう。

 ザクッ

 顔の横の地面にクレイモアの切先が突き刺さる。ウィナーは、恐怖から声も出せない少女にため息をつく。

 「ったく。この程度じゃ、見習い騎士から昇格するのはいつになるんだかわかったもんじゃねぇぜ」

 クレイモアを引き抜いたウィナーが呆れたように言い捨てる。

 「明日はこの近海を荒らし回ってる海賊を探しだして壊滅させる。せいぜい足を引っ張らねぇように、今日は休んでおけよ」

 言い置いて、宿屋の中へと入っていくウィナー。リーシャは、その後ろ姿を悔し涙でにじんだ瞳で見送る。

 ラミーネルの見習い騎士としてウィナーに修行をつけてもらうようになって数ヶ月……。一日も欠かすことなく地獄の猛特訓を受け続けている。それにもかかわらず、成長の実感を得られないまま、時だけが無駄に過ぎている気がしていた。少女は、自分の不甲斐ふがいなさにあふれる涙を止めることができない。

 「リーシャちゃん」

 不意に声をかけられて振り向く。

 「メルティナ様……」

 リーシャは声の主の名を口にする。

 メルティナは優しく微笑みながら、治癒初級魔術ヒールをかける。身体中の傷が癒やされていく。

 「ありがとうございます」

 疲労感は抜けないものの痛みが消えたことで随分と楽になった。

 「あまり無理しなくてもいいのよ?」

 メルティナの気遣いをありがたく思いながらも、リーシャは首を横に振る。

 「ウィナー様は、私を早く一人前の騎士にしようも厳しくしてくれてるんです。だからこそ、それに応えたいんです」

 メルティナを見つめるリーシャの瞳には強い意思が込められている。リーシャはさらに続ける。

 「それに、メルティナ様だって、セラ様の厳しい修行についていってるじゃないですか。きっと、メルティナ様の頑張ってる姿を知ってるから、私も頑張れるんだと思います」

 思いもよらない言葉にメルティナは瞳をうるませる。それから照れたような微笑を浮かべた。

 「わたしはそんな大したことないよ! でも、そういう風に評価してくれてありがと! すごく嬉しい。……それじゃ、今日は早く休んで明日に備えなきゃね」

 「はい!」

  メルティナとリーシャは互いに笑みを交わし、宿屋へと入っていった。
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