聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

文字の大きさ
56 / 97
6章 決戦! 正義の鉄槌

48話 潜入

しおりを挟む
 正義の鉄槌ハンマー・オブ・ジャスティスのアジトへの入り口となっている洞窟。俺たちはほぼ同時に到着し、無事に合流した。

 「アルフォス様、お怪我はありませんか!?」

 俺の姿を目にした瞬間、セラは驚くべき速さで抱きついてきた。

 「ああ、大丈夫だ。セラたちも無事か?」

 「はい。問題ありませんわ」

 セラが俺の顔を見つめながら答える。

 「ちょっと、セラ! 敵地なんだからベタベタしないほうがいいんじゃないかしら?」

 メルティナはムスッと不機嫌そうな態度をとる。

 「あらあら、未熟なあなたたちならともかく、わたくしやアルフォス様は易々と奇襲されたりしませんわよ」

 言いつつ、セラは鞭を振るった。

 何かが地面に落ちる音がして、ルットとメルティナとリーシャが視線を向ける。そこにはナイフが転がっていた。

 「けっ……せっかく毒ナイフで仕留められるところだったのによ!」

 洞窟の闇の中から黒いローブを纏った男が顔をしかめながら出てくる。

 「あら、おバカさんですわね。わたくしはもちろん、アルフォス様もあなたの存在に気付いておられましたわ。そもそも、そのローブには隠密魔術ステルスが付与されているようですが、そんなお粗末な付与では、気配を隠しているとは言えませんわ」

 セラが呆れたように言う。

 「このクソアマァ!」

 自慢の逸品をけなされた男は怒りをあらわにする。

 「許さねぇ!」

 黒ローブの男は新たなナイフを取り出し、セラとの距離を縮めてくる。

 「あなた、アサシンですわよね? 不意討ちに失敗したうえ、怒りにまかせて突っ込んでくるなんて、暗殺者として失格ですわよ」

 セラは、俺から離れながら黒ローブの男にダメ出しをする。

 「るせぇ!!」

 それが男の怒りを余計に増幅する。

 「はぁ……」

 黒ローブの男が振りかざした毒ナイフをしゃがんでかわし、セラはため息をつく。そして、隙だらけの男の顎を蹴り上げる。

 続いて、宙に浮いた男の身体に鞭を巻き付けると地面に叩きつけた。

 「げふっ!」

 短く声をあげる黒ローブの男を鞭から解放すると、今度は左手を向けた。

 「覚悟なさい、三流アサシンさん。火属性初級魔術フレイム・ボール

 容赦なくトドメの一撃が放たれ、男は炎の包まれて死亡した。

 「こ、こえぇ……」

 ウィナーが率直な感想を呟く。

 「あら、敵の情けをかける必要なんてありませんわ。戦いでは非情にならなければ足元をすくわれますわよ。何か反論はありますの?」

 セラはウィナーに視線を向ける。

 「いえ、ありません……」

 ウィナーはあっさりと引き下がった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「いよぉし! このまま一気に突入して終わりだな!」

 ウィナーは愛剣クレイモアを肩に担いでニヤリと笑みをこぼす。

 「いや。突入するのは俺とセラだけでいい。あとはこの場で待機だ」

 「あ? なんでだよ?」

 ウィナーが納得できないといった様子で抗議の眼差しを向けてくる。

 「おバカさんですわね。全員で突入したとして、もし、わたくしたちがこの洞窟に誘い込まれていたとしたらどうしますの?」

 俺に代わってセラが聞き返す。

 「どういうこった?」

 だが、ウィナーはセラの質問の意味を理解していないようだ。

 「つまりは、この洞窟が出口のない行き止まりだったとする。その場合、全員で突入して奥までたどり着いたタイミングでこの入り口を封鎖されれば俺たちはあっさりと閉じ込められることになる」

 「だったら、中から魔術か何かでぶっ飛ばせばいいじゃねぇか」

 ウィナーが自信満々に返すのを聞いてセラは深くため息をつく。

 「そんなことをして、もしも洞窟が脆くなっていたとしたらどうするというんですの? 一瞬で生き埋めになりますわよ?」

 セラに指摘され、ウィナーは絶句する。

 「そういうことだ。そこで、ウィナー、ルット、メルティナ、リーシャにはここを守ってもらう」

 「だったら、わたしもアルフォスと一緒に行く!」

 メルティナが俺たちと共に突入すると言い出す。

 「いや、メルティナにもここに残ってもらう。魔族の目は暗闇の中でも視界が利くからな」

 メルティナの申し出を断った。

 「だったら、オレが一緒に乗り込むぜ!」

 今度は魔族であるウィナーが名乗り出る。

 「ダメですわ。もしも接近戦を得意とする手練れが現れた場合、リーシャひとりでは対処しきれない可能性もありますわ。そのためにもあなたは残るべきですわ。それに……」

 「まだ、何かあるのかよ?」

 セラに却下されたウィナーが問う。

 「わたくしとアルフォス様、二人きりの時間はだれにも邪魔させませんわ!」

 セラが堂々と言い放った一言にメルティナがピクリと反応する。

 「と……とにかく、ここを押さえておくことはかなり重要だ。それに、4人いれば何かあれば二手に別れて行動することもできるだろ? そういうわけだから頼んだぞ」

 面倒なことになる前に、俺はセラとともに洞窟内へと足を踏み入れていくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

処理中です...