聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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6章 決戦! 正義の鉄槌

49話 VSガネヴァ

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 「妙ですわね……」

 隣を歩くセラが呟く。

 「ああ。敵の気配がなさすぎるな」

 俺の言葉にセラは同意を示すように頷く。

 「はい。やはり罠と考えるべきですわね。引き返しますか?」

 「……いや、このまま進む。入り口はルットたちが守ってくれているからな。閉じ込められる可能性は少ないだろ」

 「随分と信用してらっしゃるのですわね」

 「そうだな。セラも含めて、俺は仲間に恵まれていると思うよ」

 「あら、アルフォス様だから集まってくるんですわ」

 「そうか。そう言ってもらえると悪い気はしないな」

 俺とセラは会話しながらも常に索敵魔術エネミーサーチで警戒を怠らない。しかし、敵の気配が全く感じられないまま左右の別れ道に差し掛かった。

 「いかがいたしますか?」

 セラが意見を求めてくる。

 足元から小石を拾い上げ、それぞれの通路に投げ込み、反響音に耳を傾ける。

 「どちらも先に続いてそうですわね」

 同じように耳を澄ませていたセラが言う。

 「……二手に別れよう。ただし、危険と感じたらすぐに引き返すんだ」

 セラに指示を出す。

 「了解ですわ。それでは、わたくしは右の通路を進みますわ」

 「わかった。無理はするなよ」

 気遣う俺にセラは微笑する。

 「アルフォス様こそお気をつけください」

 言い残し、セラは通路の先へと姿を消した。

 「さて、俺も行くか」

 セラを見送ったあと、左の通路へと歩を進める。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 かなり奥まできたはずだが、相変わらず何者の気配もない。

 「くっ!」

 突然だった。殺気を感じて立ち止まった俺に暗闇から現れた小柄な少女が短剣を振りかざしてきた。咄嗟に左腕の籠手で防御する。

 短い黒髪に黒装束、まだ幼さを残した顔立ちの少女だ。

 不意打ちに失敗したと認識した少女は後方へと軽く跳躍する。

 「火属性中級魔術フレイム・アロー!」

 少女は、跳躍と同時に練り始めていた魔力を火炎の矢に変えて撃つ。無駄のない動きだ。相当に戦い慣れしているとみて間違いないだろう。

 慌てることなく、防御膜魔術プロテクションでダメージを大幅に軽減する。

 通路の幅と高さは戦闘を行うには十分とは言い難い。俺の使うエクスカリバーもカラドボルグも大振りの剣だ。この場で同時に使用しては動きがとりづらくなる。俺は右手で魔剣を鞘から抜き放つ。

 「やめておけ。おまえじゃ俺を倒すことはできない。無駄に命を捨てることもないだろ?」

 少女を斬り捨てるには忍びなく、投降することを勧告する。

 「ふん! 余裕をかましてられるのも今のうちよ!」

 少女は地面を蹴って猛然と突っ込んでくる。

 「はっ!」

 少女は裂帛れっぱくの気合いで短剣を振り抜く。後退してかわした俺の胸の前を少女の短剣が通り過ぎる。

 「くそっ! なにをする!?」

 少女の攻撃を回避した俺は魔剣の縛鎖ばくさを使って少女を捕らえた。少女はどうにかしてけ出そうと動き回る。

 「無駄なことはやめておけ。おまえはまだ子供じゃないか。なぜ、やつらの仲間になって危険に身を投じるんだ?」

 諦めずに身をよじっている少女に訊く。が、鋭く睨み付けてくるばかりで返答はない。ため息を漏らす。少女は俺に対して敵意をむき出しにしている。少しでも魔剣の縛鎖ばくさを緩めれば襲いかかってくるに違いない。とはいえ、このまま命を絶つ気にもなれない。

 (さて、どうしたものか……)

 俺は少女を見つめながら考えを巡らせる。

 「なぁ、おまえ。俺に言いたいことがあるなら後で聞く。だから、とりあえず今は退いてくれないか?」

 俺からの提案に対しても外方そっぽを向いてしまう。取り付く島もない状態だ。

 「ジュベックはこの奥にいるのか?」

 訊くが、予想どおりに黙秘を決め込む。

 (やれやれだな……)

 少女を拘束していた魔剣の縛鎖ばくさをほどいて解放する。

 「どういうつもり!?」

 キッと突き刺すような視線を投げかけながら少女が問いかけてくる。

 今度は俺が黙秘する番だ。何も答えず少女を置き去りに洞窟の奥を目指す。

 「ちょっと! 無視するなんてひどいじゃない!?」

 いったいどの口がそんな台詞セリフを吐けるのかと思えてくる。魔剣の縛鎖ばくさから解放された少女は俺の後を追ってきた。

 「おまえと戦うつもりはない。洞窟の入り口に俺の仲間がいる。そいつらの所へ行っておとなしくしてるんだな」

 「ふん! だったら、その仲間たちも死ぬね」

 「なんだと? どういう意味だ?」

 聞き捨てならない言葉に俺は振り返る。

 「ジュベックさんやラースさんがやっつけてくれるんだから!」

 「なに? ということは、この洞窟の中にはジュベックはいないというかとか!?」

 俺が訊くと、少女は敵に情報を与えてしまったことに気付いて口をつぐんでしまった。

 (ここはセラと合流して一度外に出るほうがいいか)

 来た道を引き返そうとした刹那、背後から強烈な殺気を感じた。振り返りながらカラドボルグを構える。

 先が鋭く尖った何かが勢いよく伸びてきていた。咄嗟に魔剣で斬り払う。カラドボルグによって弾かれたそれはシュルシュルと闇の中へと消えた。

 (何がいる? さっきのは尻尾のように見えたが……)

 通路の先へと目を凝らす。が、何も見えない。索敵魔術エネミーサーチでも存在を確認することができない。おそらくは隠密魔術ステルスで自らの存在を隠しているのだろう。

 「クシシシシシ……! さすがは七世大将軍といったところかね?」

 通路の先から声がする。それに続いてゆっくりと近付いてくる足音が聞こえてきた。

 「何者だ?」

 やがて姿を現したその異形に訊く。異様に大きな目がこちらを凝視していた。耳元まで裂けた口には鋭い牙が見える。四肢の指の爪は鋭く、尾てい骨のあたりから伸びた尻尾の先端は鋭利な刃状で、槍の穂先を彷彿とさせた。先程の攻撃はこの尻尾によるものだろう。しかし、見た目の感じでは通路の奥から俺を狙えるほどの長さはない。ということは……

 (あの尾は伸縮自在なのか?)

 「ガネヴァ様……」

 背後で少女が呟く。やつの名前か。それにしても、あの異様な姿はウィナーたちの報告にあった、かつてタハルジャが取り組んでいたという人間を怪物化する研究の成果か。

 ウィナーが戦ったのは全身の筋肉が発達したタイプだったそうだが、あいつはそれほどでもないように見える。いくつかのタイプがあるってことだろうか? いや、今は考えても答えなど出るはずもない。

 今度は俺から仕掛ける。地面を蹴ってガネヴァとの間合いを一気に詰める。それに反応してガネヴァが身構える。

 「は!」

 カラドボルグを横に一閃する。ガネヴァは後方へ飛び退く。

 「シャァァ!!」

 奇声を発しながら右手の爪で反撃にでてくる。

 「くぅ!」

 魔剣で爪を防ぐ。しかし、左足の爪が俺の腹に突き刺さった。

 「かはっ!」

 少量の吐血をしてヨロヨロと後退する俺に、ガネヴァの左手の爪が迫る。

 地面を強く蹴って間合いを確保し、カラドボルグを構え直す。傷は浅い。

 「逃がさん!」

 ガネヴァは追撃の手を緩めない。通路の壁や天井を蹴って縦横無尽に移動しながら、尻尾を伸ばして攻撃してくる。

 「紅雷斬こうらいざん!」

 解放された魔力をまとわせ、紅き稲妻を帯びた魔剣を伸ばされた尻尾に向けて振りかざす。

 「ギャア!」

 斬撃と電撃を同時にくらったガネヴァは悲鳴をあげて動きを止める。

 「はぁ!」

 その隙を逃さない。カラドボルグの切先をガネヴァに向け、その懐へと飛び込む。

 魔剣が幾度となく軌跡を描いてはガネヴァを斬りつけていく。確実にダメージを与えている。だが、やつは余裕の笑みさえ浮かべている。

 「クシシシシシ……! 多少は強力の技もあるようだが、この程度では究極の生命体と化したワシの敵ではないぞ?」

 言うと、自身の魔力を高める。

 (なに?)

 身体中についていた傷がみるみる塞がっていく。

 「クシシシシシ……! みたかね? この回復力を!!」

 (あれは、治癒初級魔術ヒール……いや、治癒中級魔術ヒーリングによる回復か)

 回復する直前に感じた魔力の高まりから推測する。

 「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 通常の斬撃に紅雷斬こうらいざんを織り混ぜた連続攻撃を叩き込む。

 ガネヴァは通常の斬撃は防御膜魔術プロテクションでガードし、紅雷斬こうらいざんが放たれた瞬間に素早く身をかわす。元々俊敏な動きをするやつだ。多少のダメージは覚悟で紅雷斬こうらいざんに意識を集中すれば回避は不可能ではないというわけか。

 「今度はこちらからゆくぞ!」

 ガネヴァの眼光が鋭さを増す。両手の爪と尾を使った怒涛の連続攻撃を仕掛けてくる。

 防御膜魔術プロテクションでダメージを抑え、可能な限りかわし、あるいは魔剣で弾いて対処する。

 「クシシシシシ……! 究極の生命体となったワシの動きについてこれるか。じゃが、いつまでもつかね?」

 たしかにそうだ。腹に受けた傷がうずいている。このまま長期戦になるのはまずい。かといって、魔眼の力は温存しておきたいところだ。

 「ぬっ!?」

 ガネヴァが優勢に立っていると思い、油断している隙に魔剣の縛鎖ばくさを巻き付ける。それに気付いたガネヴァの表情に僅かな焦りの色がにじむ。だが、既に遅い。

 「紅雷こうらい!」

 カラドボルグの魔力を解放して雷を流し込む。

 「ギャアアア!!」

 洞窟内にガネヴァの悲鳴が反響する。当然、回復の隙など与えはしない。拘束を解き、間髪入れず魔剣による斬撃に次々に繰り出していく。

 「ヌゥゥゥゥッ!!」

 ガネヴァは痛みに顔を歪めている。カラドボルグを後方の中段に構えて稲妻を纏わせる。あとは紅雷斬こうらいざんで首を切り落として終わりだ。魔剣を握る手に力を込めて振り抜こうとした時だった。

 「拘束魔術バインド

 少女が背後から俺に魔術を行使する。

 (しまった!)

 少女は戦いに加わらないと考えていたため、魔力の高まりに対しての反応が遅れる。即座に自身の魔力を解放して強制解除するが、ガネヴァがこの好機を逃すことがなかった。鋭く尖った尾の先端が俺の顔面へと一直線に伸びる。回避は間に合わない!

 「ギャアッ!!」

 絶叫がし、吹き出した血が周囲に赤い模様をつけた。

 ゴト……

 ガネヴァの頭部が地面に落ちる。振り抜いた魔剣が異形の生命体の首を切断したためだ。

 「そ、そんな……どうして?……」

 回避や防御が間に合うはずもないタイミングで、拘束魔術バインドを仕掛けたはずだった。それにもかかわらず、ガネヴァが敗れたことに信じられないといった表情をする少女。

 実際、かなり危なかったのは間違いない。ほんの一瞬でも魔剣をふるうのが遅れていたら、俺がやられていたかもしれない。

 「まだやるつもりか? いい加減にしないと、こいつの二の舞を踏むことになるぞ?」

 振り返り様に魔剣をふるい、少女の首筋にその刃を付ける。今、彼女の首を落とすことは容易だ。以前の俺ならばそうしていただろう。それをしなくなったのはメルティナの影響か。だが、あくまでも抵抗するというのなら話は別だ。

 「降伏か死か、どっちがいいんだ?」

 幼い少女に迫るには少々酷な選択かもしれないがやむを得ないだろう。

 「……う……あ……」

 恐怖からか、言葉を発することができないようだ。俺はため息をつく。

 「次はないからな」

 魔剣を鞘に収めて少女に言う。それから通路を奥へと向かった。少女は黙って俺の後ろをついてきていた。少女の動きにも注意を払っておく必要がありそうだ……
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