聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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6章 決戦! 正義の鉄槌

50話 VSファルマ

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 「外か?」

 進む通路の先に光が見える。俺は慎重に近付いていく。むろん、後ろからついてきている少女に対しても警戒は怠ることはできない。

 通路を抜ける。だが、洞窟を抜けたわけではないようだ。頭上に空は見えない。代わりに発光するこけが天井と壁をびっしりと埋め尽くしている。奥には泉が湧き出ていた。そのほとりたたずんでいた人物は、俺の存在に気付いていたらしい。口元に笑みを浮かべ、緑の瞳で俺を見ている。

 腰まで伸ばした黒髪を首の後ろで結っている。中性的な顔立ちではあるが、おそらくは男だろう。年は40代前半といったところか。後ろにいる少女と同じ黒装束をまとっている。

 「師匠!」

 背後から少女が声をあげた。

 「アシャ。やはり、アルフォスを倒すのは無理だったようですね。しかし、あなたの命があっただけでも嬉しく思いますよ」

 男が涼やかな声で答えた。どうやら後ろの少女はアシャという名らしい。ここにいるということは彼も正義の鉄槌ハンマー・オブ・ジャスティスなのだろう。

 「お初にお目にかかります。お察しのとおり、私は正義の鉄槌ハンマー・オブ・ジャスティスのファルマと申します。まずは、アシャの命を奪わずにいてくれたことに感謝いたします」

 言って、ファルマは深く頭を下げる。

 「随分と礼儀正しいんだな」

 俺が言うとファルマはフッと息を漏らす。

 「意外そうですね。ですが、私としても意外でしたよ。魔神リュカリオンの配下は全て冷酷非情な輩かと思っておりましたものですからね」

 「そのわりには、弟子を一人で俺と戦わせたんだな?」

 「違う! あれはあたしが勝手にやっただけだ!!」

 ファルマに代わってアシャが答える。

 「とはいえ、その気になれば、この場を離れてアシャのあとを追うこともできたのは事実です。その事に関しては弁解するつもりはありません」

 ファルマは潔く認める。

 「で、やはり戦うのか?」

 一応、確認する。

 「ええ。あなたのことを誤解していたようですが、ジュベック殿に雇われた我が身なれば、戦いは避けられそうもありません」

 「そうか。なら、しかたない」

 出会い方が違えば……とも思うが、こればかりはどうしようもない。俺は魔剣カラドボルグと聖剣エクスカリバーを構える。

 「アシャ、あなたは泉のほとりにいなさい。アルフォスとは私ひとりで戦います」

 腰の鞘から片手剣を抜く。だが、アシャは納得できずにファルマのほうへ駆け寄るとジッと見つめた。

 「嫌です! あたしも……」

 「お断りします」

 ファルマはアシャの言葉を遮る。

 「おそらく、彼は私がこれまで戦ってきただれよりも強い。そんな敵との戦いとなれば、あなたを守りきることはできないでしょう。むろん、あなたのことですから、その必要はないと言うでしょう。しかし、師匠としてら愛弟子をむざむざ殺されるわけにはいかないのですよ」

 「しかし!」

 なおも諦めようとしないアシャに、ファルマの一瞬語気が強くなる。

 「アシャ! あなたは師である私の命令が聞けないのですか?」

 アシャは押し黙っていたが、やがて泉のほとりへと移動した。

 「申し訳ありませんでした。しかし、これで心置きなく戦うことができます」

 俺とファルマ、双方が臨戦態勢をとった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「参る!」

 ファルマは間合いを詰めると同時に左手をかざして火属性初級魔術フレイム・ボールを無詠唱で撃つ。

 横っ跳びにかわす。

 (なに!?)

 その瞬間、俺の足元に魔法陣が出現し火柱をあげる。

 「くぅ!」

 咄嗟に防御膜魔術プロテクションで防御するがダメージは軽くはない。

 そこにファルマの片手剣による斬撃が繰り出された。魔剣で弾き返して、聖剣で反撃する。が、エクスカリバーは身を屈めたファルマの頭上を斬る。

 ファルマからの反撃に対処するため、地面を蹴って後方の空中へと移動し、カラドボルグの魔力を解放してふるう。

 「飛雷ひらい!」

 魔剣から発せられた紅い雷がファルマに向かって飛ぶ。

 ファルマは低い姿勢のまま前進し、飛雷ひらいを避ける。さらに左手を動かす。

 「かはっ!」

 突然、背中から強い衝撃を受けて地面に叩きつけられてしまう。

 (なん……だ?)

 何が起きたのか理解できず、さっきまでいた空間を見る。だが、何もない。

 (何があった? やつが左手を動かしていたが、あれと関係がたるんだろうが……)

 「はっ!」

 敵は、俺に考える時間を与えてはくれない。俺の横をすり抜け様に斬撃を入れ、すぐに離れる。距離をとったあとは火属性初級魔術フレイム・ボールで攻撃し、再び斬撃を浴びせる。

 (速さだけで言えばやつの方が上か……なんとも厄介な相手だな)

 何度目かの火属性初級魔術フレイム・ボールのあと、斬撃を繰り出すために近付いてきたファルマに対して、俺は後方に軽く飛び退きながら聖剣と魔剣を構える。だが、俺の攻撃範囲に侵入する前に立ち止まったファルマは、またしても左手を印を結ぶように動かす。

 防御膜魔術プロテクションをかけて警戒する。

 (上か!?)

 かすかな魔力を感じて頭上を振り仰ぐ。俺の視界に魔法陣が映る。直後、落雷の直撃を受けて片膝をつく。再び視線を頭上の天井に戻すが何もない。

 「そうか。空間中に魔法陣のトラップを仕掛けているのか」

 合点がいく。先ほど背中に受けた攻撃も壁に隠されたトラップ魔法陣から放たれたものなのだろう。

 「ご明察です。こう言ってはなんですが、今、この空間にいる限りはジュベック殿にも敗ける気がしません」

 なるほど。自分にとって絶対的に有利なこの空間を作り出すためにアシャを追えなかった。そういうわけか。

 「しかし、仕掛けが解ったからといって、私に勝てるわけではありません!」

 言って、ファルマは間合いを詰めてくる。対し、俺は魔剣の縛鎖ばくさでファルマの拘束を試みる。

 「む!?」

 危険を察知したファルマは即座に俺から離れるように移動する。

 「逃がすか!」

 聖剣の魔力を解放して水刃すいじんを撃つ。だが、ファルマを捉えることができない。

 「今度はこちらの番ですよ!」

 ファルマが左手で印を結ぶ。後方から魔力を感じる。俺は振り返ることなく横に移動し、続けて前進してファルマとの距離を詰める。

 そうはさせまいと、ファルマは印を結んで迎撃する。俺の足元に魔法陣が現れる。

 「ちっ!」

 俺は地面を蹴って跳躍した。刹那、俺の背後に火柱が巻き起こる。それにかまわずカラドボルグの魔力を解放して飛雷ひらいで反撃する。飛び出した紅い雷がファルマが回避した直後の地面に当たる。

 飛雷ひらいを回避することに成功したファルマが反撃に転じようとする。が、目を見開いたまま固まっている。俺は予め解放しておいたエクスカリバーの魔力を水刃すいじんとして放つ。

 「くっ!!」

 聖剣から飛び出した水の刃がファルマの右肩を掠める。痛みに初めて表情が歪む。

 「まだだ!」

 俺は動きを止めない。着地と同時に地面を強く蹴って前方への推進力を生み出す。

 「ぬぅ!」

 ファルマは俺から離れるべく後方へと移動する。それを魔剣の縛鎖ばくさが追う。

 「なに!?」

 ファルマの表情に焦燥が見える。それでも、どうにか冷静さを保っているようだ。迫る魔剣の縛鎖ばくさを片手剣で薙ぎ払う。同時に左手をかざし、無詠唱で火属性初級魔術フレイム・ボールを撃ってくる。

 火炎の球が俺の頬を掠めていく。それにかまわず、さらに強く大きく一歩を踏み込む。

 「せやぁ!」

 裂帛れっぱくの気合いとともに聖剣を横に薙ぐ。閃いたエクスカリバーの刃がファルマの腹を捉える。

 「師匠!?」

 アシャが悲痛な叫び声をあげる。

 「心配無用です!」

 ファルマは自分の身を案じる愛弟子に短く答える。それは強がりなどではない。俺がつけた傷痕は浅く、ダメージとしてはほとんど与えていないに等しい。

 跳躍し空中に移動したファルマは左手で印を結んだ。

 次はどこから何を仕掛けてくるのか警戒する。

 正面からだ。氷の槍が一直線に飛んでくる。カラドボルグを横に一閃して氷の槍を切り裂く。

 「水刃すいじん・5連!!」

 次々に迫ってくる水の刃をファルマは片手剣で防いでいく。

 (相当に器用な相手だ……な!)

 俺は右手に握った魔剣を振りかざし、紅雷こうらいで追撃する。紅い雷は今度こそ見事にファルマに命中した。

 「ぐっ……」

 雷撃を受けたファルマがうめく。

 「はぁぁ!」

 ファルマの落下地点に見当をつけて駆け、着地した瞬間を狙ってエクスカリバーをふるう。が、ファルマは流れるような動きで片手剣を使って聖剣を受け流す。

 「くっ!」

 俺はカラドボルグで追撃にでる。しかし、それよりも一瞬早くファルマが距離をとる。

 「させるかよ!」

 なおも追撃を諦めない俺は視線で追う。だが、俺が見たのはまたしても左手で印を結ぶファルマだった。

 (くそっ!)

 足元に魔法陣が現れる。俺は素早く飛び退く。その直後に火柱が立つ。俺は怯むことなくその脇をすり抜けた。しかし、ファルマは既に次の印を結び終えている。

 (ちっ!)

 心の中で舌打ちしながらも僅かな魔力に神経を傾ける。

 頭上からの落雷を寸前のところで回避する。

 「うぁぁぁ!」

 魔法陣から続け様に放たれた落雷が俺に直撃した。崩れ落ちそうになる身体を聖剣で支える。

 「終わりですよ!」

 ファルマが畳み掛けるように猛攻を仕掛けてくる。左手で次々に印を結んでいく。氷の槍・火炎の球・雷・真空の刃などが怒涛の如く襲ってくる。

 「ぐぅぅぅぅっ!!」

 うめき声が漏れる。防御膜魔術プロテクションで守りを固める。だが、さすがにこれだけの攻撃を受けてはダメージは大きい。

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 攻撃を撃ち終えた今が反撃に転じる好機だ。そう判断した俺は全身の痛みを振り切るように、一気に間合いを詰める。

 「しまった! まだ動けるのか!?」

 虚を衝かれたファルマは対応が僅かに遅れる。普段は防御膜魔術プロテクションや身体能力の強化に充てている俺自身の魔力だが、今は防御膜魔術プロテクションを捨て、身体能力の強化に絞る。これで完全に攻撃特化したわけだ。

 「くっ!」

 エクスカリバーとカラドボルグによる斬撃を矢継ぎ早に繰り出す。ファルマは片手剣で受け流し、あるいは受け止め、可能ならばかわす。しかし、攻撃特化した俺の連続攻撃を捌ききることはできなかったようだ。聖剣の一撃がファルマの左腕に深手を負わせる。

 「ぬぐっ」

 ファルマは、血が流れ出る左腕をだらりと垂らして後ろによろめいた。

 「なめるなぁ!」

 眼光を鋭くしたファルマが片手剣を俺の首へと閃かせる。

 「ちっ!」

 片手剣の切先が首筋を掠めていく。

 「紅雷斬こうらいざん!」

 ファルマの攻撃を回避した俺は紅い雷を纏わせたカラドボルグで斬りつける。

 「がはっ!」

 紅雷斬こうらいざんをくらったファルマは倒れた
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