199 / 224
第12章 アークデーモンとの死闘、そして旅立ち
12―16 エルフェリオンの成長
しおりを挟む
「うげ!」
「ぐわ!」
「ぎゃ!」
ティクの町の冒険者ギルドの演習場。エルフェリオンによってあっさりとノックアウトされた複数人の冒険者たちが、次々と倒れていく。
「おいおい、こんなんじゃ訓練にならねぇぞ?」
木剣を肩に乗せたエルフェリオンが地面でのびている冒険者たちを見下ろす。
「……こ、こいつ、強すぎだろ……」
冒険者のひとりが、息ひとつ乱していない青髪の青年に怪物でも見るような視線を向ける。
「ガハハハハ! さすがはエルフェリオンだな」
「まったく、君という人は向上心の塊のようですね。無理をし過ぎるのはよくないですが、見習わなければならない部分も多々あるようです」
演習場にやってきたザラギスとルアークが声をかける。
「二人はもう大丈夫なのかよ?」
エルフェリオンに訊かれ、ザラギスはニカッと笑う。
「まぁな。仕事に復帰するのはまだ先になりそうだが、日常生活くらいなら問題ねぇよ」
「はぁ……なにを言ってるんだい? 本来ならば入院してなければいけない状態なのに、無理やり退院してきたのはだれだったかな?」
ルアークはザラギスをジトリと睨む。
「それを言うなら、おまえだって同じだろうが。なのに、ギルドマスターの仕事があるからって働いてんじゃねぇかよ」
「それは、まぁそうだけどさ。責任のある立場だから、あまり休むわけにはいかないんだよ」
ルアークとザラギスのやり取りを聞いていたエルフェリオンがフッと口角を緩める。
「ほんとに仲が良いんだな」
「……ん? そうだな。こいつとは同期で冒険者ギルドに加入したからな。いわゆる腐れ縁ってやつだ」
ザラギスがルアークの肩に手を置く。
「ところで、アルナさんの様子はいかがですか?」
ルアークが訊くとエルフェリオンは視線を逸らす。
「あいつは、まだ立ち直れていないみてぇだぜ」
「そうですか……それもしかたありませんね。彼女も頭では理解しているのでしょう。しかし、感情がそれについてきておらず、ネティエさんの死を受け入れられないのかもしれませんね」
ルアークは心配そうに俯く。
「ところで、ルアーク。あんたに訊きたいことがあるんだ。以前受けた、処刑場のウォリアー級スケルトン討伐依頼に関わっていた緑髪の女についてだが、なにか情報は? ラフィカはあんたがなにか知ってるかもしれないみたいなことを言ってたが?」
エルフェリオンから投げかけられた質問に、ルアークは表情を暗くする。
「あぁ、報告にあった女のことですね。ボクも詳しくは知りません。しかし、各地に現れてはモンスターを活性化させたり、クーデターを扇動したりといった行動している疑惑があるようです。しかし、その正体や目的などなにもつかめていません」
ルアークからの返答にエルフェリオンは口元に手を当てる。
「なるほど。となれば、いつか出会ったときに直接尋問するしかなさそうだな」
「出会ったときに、ですか。もしや、近々旅立つご予定ですか?」
ルアークが訊く。
「あぁ。俺はベルストラインへ向かうつもりだ」
「王都ベルストラインか。たしかに、おまえさんほどの実力があれば王都でも充分にやっていけるだろうぜ」
「俺がベルストラインに行く目的は、冒険者として名を上げるためじゃねぇよ。詳しくは言えねぇがな」
エルフェリオンのエメラルドグリーンの瞳には確固たる決意が宿っていた。
「そうですか。ボクとしてはこの町に残ってくれたほうが嬉しいのですが、それを強要することはできませんね」
「今まで世話になったな。二人には感謝してる」
素直に謝意を伝えるエルフェリオンにザラギスとルアークは顔を見合わせる。
「へっ、おまえさんからそんな言葉を聞くとは驚いたぜ!」
「まったくですね。それだけエルフェリオン君も成長したということですかね」
「おまえらなぁ!」
茶化す二人にエルフェリオンが反論しようとする。が、ルアークは表情を改めてから「さて」ときりだした。
「実は、エルフェリオン君とアルナさんの個人としての冒険者ランクの昇級が確定しました。これでお二人はB級冒険者です。おめでとうございます」
「やったじゃねぇか!」
エルフェリオンとアルナの昇級を自分のことのように喜ぶザラギス。
「しかし、旅立つといってもアルナさんは大丈夫なのですか?」
ルアークが、ネティエの死に落ち込んでいるアルナが旅立てるのかと心配になるのは当然であった。
「どうだかな。最悪の場合、俺ひとりでも旅立つさ。俺にはなにがなんでもやらなきゃならねぇ事が……」
「あんたひとりに押し付けるつもりなんてないわよ」
エルフェリオンの言葉を遮って、近付いてきたアルナが発言する。
「もういいのかよ?」
「ええ……というか、いつまでも落ち込んでたらネティエさんに叱られそうだしね」
ぎこちない笑顔を作りながらアルナが言う。それから、改めてエルフェリオンを見つめる。
「それで、いつ旅立つつもりだったわけ?」
「特に決めていたわけじゃねぇが早いほうがいいか。今日とか明日とか……」
エルフェリオンが答える。
「それなら、明日にしてもらえませんか? 今夜、ささやかですが、お二人の送別会を開きたいのです」
「いえ、しかし!」
ルアークからの提案をアルナは辞退しようとする。が、ザラギスがその華奢な肩を手をかける。
「オラたちはあんたらのことを気に入ってんだ。それくらいはさせてくれよ。いいだろ? いや、これはもう決定事項ってやつだ」
こうして半ば強引にエルフェリオンとアルナの送別会が開かれることとなった。
「ぐわ!」
「ぎゃ!」
ティクの町の冒険者ギルドの演習場。エルフェリオンによってあっさりとノックアウトされた複数人の冒険者たちが、次々と倒れていく。
「おいおい、こんなんじゃ訓練にならねぇぞ?」
木剣を肩に乗せたエルフェリオンが地面でのびている冒険者たちを見下ろす。
「……こ、こいつ、強すぎだろ……」
冒険者のひとりが、息ひとつ乱していない青髪の青年に怪物でも見るような視線を向ける。
「ガハハハハ! さすがはエルフェリオンだな」
「まったく、君という人は向上心の塊のようですね。無理をし過ぎるのはよくないですが、見習わなければならない部分も多々あるようです」
演習場にやってきたザラギスとルアークが声をかける。
「二人はもう大丈夫なのかよ?」
エルフェリオンに訊かれ、ザラギスはニカッと笑う。
「まぁな。仕事に復帰するのはまだ先になりそうだが、日常生活くらいなら問題ねぇよ」
「はぁ……なにを言ってるんだい? 本来ならば入院してなければいけない状態なのに、無理やり退院してきたのはだれだったかな?」
ルアークはザラギスをジトリと睨む。
「それを言うなら、おまえだって同じだろうが。なのに、ギルドマスターの仕事があるからって働いてんじゃねぇかよ」
「それは、まぁそうだけどさ。責任のある立場だから、あまり休むわけにはいかないんだよ」
ルアークとザラギスのやり取りを聞いていたエルフェリオンがフッと口角を緩める。
「ほんとに仲が良いんだな」
「……ん? そうだな。こいつとは同期で冒険者ギルドに加入したからな。いわゆる腐れ縁ってやつだ」
ザラギスがルアークの肩に手を置く。
「ところで、アルナさんの様子はいかがですか?」
ルアークが訊くとエルフェリオンは視線を逸らす。
「あいつは、まだ立ち直れていないみてぇだぜ」
「そうですか……それもしかたありませんね。彼女も頭では理解しているのでしょう。しかし、感情がそれについてきておらず、ネティエさんの死を受け入れられないのかもしれませんね」
ルアークは心配そうに俯く。
「ところで、ルアーク。あんたに訊きたいことがあるんだ。以前受けた、処刑場のウォリアー級スケルトン討伐依頼に関わっていた緑髪の女についてだが、なにか情報は? ラフィカはあんたがなにか知ってるかもしれないみたいなことを言ってたが?」
エルフェリオンから投げかけられた質問に、ルアークは表情を暗くする。
「あぁ、報告にあった女のことですね。ボクも詳しくは知りません。しかし、各地に現れてはモンスターを活性化させたり、クーデターを扇動したりといった行動している疑惑があるようです。しかし、その正体や目的などなにもつかめていません」
ルアークからの返答にエルフェリオンは口元に手を当てる。
「なるほど。となれば、いつか出会ったときに直接尋問するしかなさそうだな」
「出会ったときに、ですか。もしや、近々旅立つご予定ですか?」
ルアークが訊く。
「あぁ。俺はベルストラインへ向かうつもりだ」
「王都ベルストラインか。たしかに、おまえさんほどの実力があれば王都でも充分にやっていけるだろうぜ」
「俺がベルストラインに行く目的は、冒険者として名を上げるためじゃねぇよ。詳しくは言えねぇがな」
エルフェリオンのエメラルドグリーンの瞳には確固たる決意が宿っていた。
「そうですか。ボクとしてはこの町に残ってくれたほうが嬉しいのですが、それを強要することはできませんね」
「今まで世話になったな。二人には感謝してる」
素直に謝意を伝えるエルフェリオンにザラギスとルアークは顔を見合わせる。
「へっ、おまえさんからそんな言葉を聞くとは驚いたぜ!」
「まったくですね。それだけエルフェリオン君も成長したということですかね」
「おまえらなぁ!」
茶化す二人にエルフェリオンが反論しようとする。が、ルアークは表情を改めてから「さて」ときりだした。
「実は、エルフェリオン君とアルナさんの個人としての冒険者ランクの昇級が確定しました。これでお二人はB級冒険者です。おめでとうございます」
「やったじゃねぇか!」
エルフェリオンとアルナの昇級を自分のことのように喜ぶザラギス。
「しかし、旅立つといってもアルナさんは大丈夫なのですか?」
ルアークが、ネティエの死に落ち込んでいるアルナが旅立てるのかと心配になるのは当然であった。
「どうだかな。最悪の場合、俺ひとりでも旅立つさ。俺にはなにがなんでもやらなきゃならねぇ事が……」
「あんたひとりに押し付けるつもりなんてないわよ」
エルフェリオンの言葉を遮って、近付いてきたアルナが発言する。
「もういいのかよ?」
「ええ……というか、いつまでも落ち込んでたらネティエさんに叱られそうだしね」
ぎこちない笑顔を作りながらアルナが言う。それから、改めてエルフェリオンを見つめる。
「それで、いつ旅立つつもりだったわけ?」
「特に決めていたわけじゃねぇが早いほうがいいか。今日とか明日とか……」
エルフェリオンが答える。
「それなら、明日にしてもらえませんか? 今夜、ささやかですが、お二人の送別会を開きたいのです」
「いえ、しかし!」
ルアークからの提案をアルナは辞退しようとする。が、ザラギスがその華奢な肩を手をかける。
「オラたちはあんたらのことを気に入ってんだ。それくらいはさせてくれよ。いいだろ? いや、これはもう決定事項ってやつだ」
こうして半ば強引にエルフェリオンとアルナの送別会が開かれることとなった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる