スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第4章 狙われた親子

4―2 少年を守れ

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 「さぁて。街に入れたのはいいが、見知らぬ土地でどうやって探したものかだな」

 レバルフの街を徒歩で移動しながらエルフェリオンが思案する。

 『見知らぬ土地じゃと? おぬしはこの街の出身ではないのか?』
 「ああ。俺はレバルフの出身じゃねぇよ。それに、普通はスラムの連中がレバルフの街には入れないからな。ドッズは何かツテがあったみてぇだけどさ……ん?」

 レヴィジアルに答えたエルフェリオンは、路地裏から駆け出してくる青髪の少年に気付き、一瞬だけ視線が交わる。見た目では10歳くらいだろうか。

 「兄ちゃん!」

 青髪の少年はエルフェリオンの元まで駆け寄ってくると満面の笑みを向ける。しかし、それはぎこちないものであった。

 「おい、なにを言ってる? 俺には弟なんかいな……」

 否定しようとしたエルフェリオンだったが、少年を追いかけるようにして現れた、いかつい二人連れの男に視線を流す。

 「今度はなんだ? できれば、揉め事には巻き込まれたくないんだがな?」

 手で払いのけるような仕草をするエルフェリオンに、男たちは短剣を取り出す。その状況に周りが騒ぎ始める。

 『ふむふむ。相手は殺る気満々じゃぞ? ほれ、おぬしも早く邪龍剣わしを召喚せぬか』

 魂を喰らう好機の到来にレヴィジアルが声を弾ませる。が、エルフェリオンには召喚する気はなかった。

 「てめぇがそのガキの兄貴だってんなら、まとめてつらをかしてもらおうか? 先に言っとくが拒否権なんかないからな!?」
 「いや、なにを聞いてたんだ? だから、俺には……」
 「るせぇ! 抵抗するんならおとなしくさせてやらぁ!!」

 誤解を解こうとするエルフェリオンだったが、男たちは問答無用で襲いかかってくる。

 (ちっ、街に入るなり災難だぜ。だが、問題を起こすわけにもいかねぇか。子供ガキを差し出せばなんとかなるか?)

 エルフェリオンは龍衣の裾を掴んでいる少年へと視線を落とす。

 「ちっ」

 オレンジ色の潤んだ瞳で助けを求めて見上げている少年を突き離すこともできず、咄嗟に名も知らぬ少年を抱きかかえ、その場から逃走する。

◎★☆◎

 レバルフの公園。抱きかかえていた少年をおろし、ベンチに腰を落ち着かせたエルフェリオンが「ふぅ……」と一息つく。

 「あんがとな、兄ちゃん!」
 「おまえなぁ、いきなり他人ひとを巻き込んでんじゃねぇよ」
 「……ごめん……」

 エルフェリオンに文句を言われ、しょんぼりと肩を落とす少年。

 「なんだって、あんなやつらと揉めてたんだよ?」

 エルフェリオンが訊くと少年はかぶりを振る。

 「どうしてかなんて知らないよ。ボクはただ父さんに弁当を届けにいっただけなんだ……」
 「……まぁ、なんにせよ俺には関係ねぇ事だ。これ以上は巻き込まねぇでくれよ」

 速やかに立ち去ろうとベンチから腰を上げたところで、エルフェリオンは顔をしかめる。

 「ちっ、もう遅いってか?」

 二人を包囲するように数人の男たちが歩み寄ってくる。

 「完全に囲まれる前に抜けるぜ?」

 おびえた様子の少年の頭に手を置いたエルフェリオンが一瞬だけ視線を落とす。

 「うん、わかった!」

 それに気付いた少年が答える。

 「行くぞ!」

 言って駆け出したエルフェリオンの後を少年が追う。

 「逃さん!」

 男たちのひとりがエルフェリオンたちの進路に立ちふさがって身構える。

 「うらぁ!」

 男が右ストレートをくり出した。が、エルフェリオンはそれを容易く受け流して懐へと飛び込み、右拳でボディブローを決める。

 「げふ!」

 男は、エルフェリオンの反撃によって両膝をついて悶絶する。

 ただならぬ雰囲気に公園にいた人たちは逃げ去る。

 「警備隊に駆けつけられると厄介だ。一気にかたをつけろ!」

 指揮官とおぼしき男が指示を飛ばす。

 (おいおい、子供ガキひとりをさらうのに、この人数は大人気おとなげなさすぎだろ。こいつを守りながらこの数を相手にしても勝つ自信ならある。けど、こんな所でおいそれと邪龍剣レヴィジアルを使うわけにもいかねぇし、警備隊がくる前に退散したいところだ)

 エルフェリオンは可能な事と不可能な事を素早く判断する。結果、少年を抱えるときびすを返して逃走することに決めた。
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