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第4章 狙われた親子
4―21 ガージンの過去
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ガージンたちを全滅させたエルフェリオンはアルナを縛っていたロープをほどく。
「ありがと。助かったわ」
素直に礼を言うアルナにエルフェリオンはキョトンとした表情をする。
「なによ?」
アルナが自身にヒールをかけながら聞く。淡い黄緑色の光がアルナの傷口をふさいでいく。
「いや、おまえのことだから、人殺しだの殺人鬼だの言うんじゃねぇかと思ってたが……」
「失礼ね! 殺人鬼なんて言ったことないでしょ!?……そりゃあ、あなたが人を殺めることに納得なんてしてないけど、助けてもらったのは事実だし……」
複雑な心境を表情に宿し、アルナが言う。
「まっ……なんにせよ、これで一件落着だな」
「……って、ちょっと! どこ行くのよ!?」
踵を返して立ち去ろうとするエルフェリオンをアルナが呼び止める。
「あん? 面倒くせぇことになる前に消えるんだよ」
「なに言ってるのよ! このままいなくなったらマズいに決まってるでしょ!? 警備隊に連絡して事情を説明して……」
「それが面倒くせぇって言ってるんだよ。そもそも、スラム育ちの俺が何か言ったところで信用されるかよ」
「だからって、このままにしておいたら、あんたが殺人犯にされかねないのよ!?」
「るせぇな。だったら、おまえが警備隊に連絡して説明すればいいじゃねぇかよ?」
「あんたねぇ!……って、どうしたのよ?」
口論の最中、エルフェリオンの意識が逸れていることに気付いたアルナが聞く。
「だれか来たみたいだぜ」
「え?」
エルフェリオンの視線の先を追ったアルナの視界に警備隊の隊服に身を包んだ若い女性の姿が映る。胸にはレバルフ警備隊の隊員であることを示すエンブレムが付けられていた。
「デルマ隊長!?……それに、ラッケル君!!」
駆け寄ってきた女性隊員は、地面を赤く染めて息絶えている二人を発見して愕然とする。
「これは、いったいどういうこと!?……あなたたちは捜査に協力してくれていたはずよね!?」
女性隊員は、エルフェリオンとアルナが容疑者である可能性を考慮し、腰から提げた剣の柄に手をかけて問う。
「待ってください! ちゃんと説明しますから落ち着いてください!」
アルナは女性隊員をなだめる。もしも、彼女が剣を抜いて攻撃をしかけてくれば、エルフェリオンは確実に敵と判断してしまうだろう。そうなれば、弁解は困難なものになり、お尋ね者になってしまうことも考えられる。
「……わかったわ。とりあえずレバルフ警備隊の本部まで同行してもらいましょうか」
いくらか冷静さを取り戻した女性隊員は、二人の動向に警戒しながらも剣の柄から手を放した。
◎★☆◎
「なるほど。事情はだいたいわかりました」
レバルフ警備隊本部の一室。エルフェリオンとアルナから事の顛末を聴いた女性隊員は「ふぅ……」と息をつく。
「あの、あたしたちは本当にデルマ隊長やラッケル君を殺してなんかいません!」
アルナは懸命に無実を主張する。
「たしかに、保護していたはずのラッケル君を連れ出すことができるとすれば警備隊の関係者しかいないでしょう。となれば、ガージン副長を疑わざるを得ない。さらに、誘拐未遂事件の実行犯だったクラビーヌとダバンドを殺害した際に使われた矢、そしてラッケル君を殺害した矢は、我々レバルフ警備隊が使っている物と同一でした……」
女性隊員は、少なからずショックを受けたように沈痛な面持ちで話す。
「あの、エルフェリオンさん。差し支えなければ、その邪龍剣というものを見せていただけませんか? 一応は確認しておきたいのです」
「ったく、しゃあねぇな。そういうわけだ。こい、レヴィジアル」
エルフェリオンは、面倒くさそうにしながらも左手を開いて相棒を喚ぶ。
「すごい! これが邪龍剣ですか! 強大な力を感じますね!」
『ほほぉ! この女、このわしの凄さが少しはわかっておるようじゃのぉ!』
女性隊員の反応にレヴィジアルは声を明るくする。
「なんだったら、そのへんの悪人で試し斬りでもしてやろうか?」
「怖いことを言うのはやめてください。剣を見せていただいただけでけっこうです!」
エルフェリオンからの提案を女性隊員は即答で断る。
「ちょっと、エルフェリオン! 余計なことは言わないで!!……すみません、こいつも冗談半分で言ったことなので気にしないでくださいね」
「……半分は本気なんですね……」
アルナがフォローするも、女性隊員は顔を引きつらせる。
「……それにしても、やはりガージン副長はデルマ隊長のことを憎んでいたのですね……」
女性隊員は表情を暗くする。
「やはり、というと?」
アルナに訊かれ、女性隊員は苦笑して語り始めた。
「ガージン副長は貧しい家庭に生まれ育ち、苦労の末にレバルフ警備隊で自分の存在が認められるようになり、次期隊長とまで噂されるようになったんです。しかし、そんなある日、デルマさんの隊長就任が決定しました。デルマ隊長のお父上もレバルフ警備隊の隊長だったこともあり、ガージン副長の心中は……」
女性隊員はそこまで言って、深いため息を漏らす。
「もちろん、デルマ隊長も素晴らしい方でした。部下からも信頼されてましたし、ガージン副長の能力だって高く評価されてました……わたしとしたことが、つまらない話をしてしまいましたね」
女性隊員はそう言って席を立つ。
「大変申し訳ないのですが、お二人には捜査が終わるまでの数日間はレバルフに滞在していただくことになります。むろん、その間の食事や宿泊先はこちらでご用意いたしますので、どうかご協力をお願いします」
深く頭を下げる女性隊員にエルフェリオンとアルナは了承の意を示すのだった。
「ありがと。助かったわ」
素直に礼を言うアルナにエルフェリオンはキョトンとした表情をする。
「なによ?」
アルナが自身にヒールをかけながら聞く。淡い黄緑色の光がアルナの傷口をふさいでいく。
「いや、おまえのことだから、人殺しだの殺人鬼だの言うんじゃねぇかと思ってたが……」
「失礼ね! 殺人鬼なんて言ったことないでしょ!?……そりゃあ、あなたが人を殺めることに納得なんてしてないけど、助けてもらったのは事実だし……」
複雑な心境を表情に宿し、アルナが言う。
「まっ……なんにせよ、これで一件落着だな」
「……って、ちょっと! どこ行くのよ!?」
踵を返して立ち去ろうとするエルフェリオンをアルナが呼び止める。
「あん? 面倒くせぇことになる前に消えるんだよ」
「なに言ってるのよ! このままいなくなったらマズいに決まってるでしょ!? 警備隊に連絡して事情を説明して……」
「それが面倒くせぇって言ってるんだよ。そもそも、スラム育ちの俺が何か言ったところで信用されるかよ」
「だからって、このままにしておいたら、あんたが殺人犯にされかねないのよ!?」
「るせぇな。だったら、おまえが警備隊に連絡して説明すればいいじゃねぇかよ?」
「あんたねぇ!……って、どうしたのよ?」
口論の最中、エルフェリオンの意識が逸れていることに気付いたアルナが聞く。
「だれか来たみたいだぜ」
「え?」
エルフェリオンの視線の先を追ったアルナの視界に警備隊の隊服に身を包んだ若い女性の姿が映る。胸にはレバルフ警備隊の隊員であることを示すエンブレムが付けられていた。
「デルマ隊長!?……それに、ラッケル君!!」
駆け寄ってきた女性隊員は、地面を赤く染めて息絶えている二人を発見して愕然とする。
「これは、いったいどういうこと!?……あなたたちは捜査に協力してくれていたはずよね!?」
女性隊員は、エルフェリオンとアルナが容疑者である可能性を考慮し、腰から提げた剣の柄に手をかけて問う。
「待ってください! ちゃんと説明しますから落ち着いてください!」
アルナは女性隊員をなだめる。もしも、彼女が剣を抜いて攻撃をしかけてくれば、エルフェリオンは確実に敵と判断してしまうだろう。そうなれば、弁解は困難なものになり、お尋ね者になってしまうことも考えられる。
「……わかったわ。とりあえずレバルフ警備隊の本部まで同行してもらいましょうか」
いくらか冷静さを取り戻した女性隊員は、二人の動向に警戒しながらも剣の柄から手を放した。
◎★☆◎
「なるほど。事情はだいたいわかりました」
レバルフ警備隊本部の一室。エルフェリオンとアルナから事の顛末を聴いた女性隊員は「ふぅ……」と息をつく。
「あの、あたしたちは本当にデルマ隊長やラッケル君を殺してなんかいません!」
アルナは懸命に無実を主張する。
「たしかに、保護していたはずのラッケル君を連れ出すことができるとすれば警備隊の関係者しかいないでしょう。となれば、ガージン副長を疑わざるを得ない。さらに、誘拐未遂事件の実行犯だったクラビーヌとダバンドを殺害した際に使われた矢、そしてラッケル君を殺害した矢は、我々レバルフ警備隊が使っている物と同一でした……」
女性隊員は、少なからずショックを受けたように沈痛な面持ちで話す。
「あの、エルフェリオンさん。差し支えなければ、その邪龍剣というものを見せていただけませんか? 一応は確認しておきたいのです」
「ったく、しゃあねぇな。そういうわけだ。こい、レヴィジアル」
エルフェリオンは、面倒くさそうにしながらも左手を開いて相棒を喚ぶ。
「すごい! これが邪龍剣ですか! 強大な力を感じますね!」
『ほほぉ! この女、このわしの凄さが少しはわかっておるようじゃのぉ!』
女性隊員の反応にレヴィジアルは声を明るくする。
「なんだったら、そのへんの悪人で試し斬りでもしてやろうか?」
「怖いことを言うのはやめてください。剣を見せていただいただけでけっこうです!」
エルフェリオンからの提案を女性隊員は即答で断る。
「ちょっと、エルフェリオン! 余計なことは言わないで!!……すみません、こいつも冗談半分で言ったことなので気にしないでくださいね」
「……半分は本気なんですね……」
アルナがフォローするも、女性隊員は顔を引きつらせる。
「……それにしても、やはりガージン副長はデルマ隊長のことを憎んでいたのですね……」
女性隊員は表情を暗くする。
「やはり、というと?」
アルナに訊かれ、女性隊員は苦笑して語り始めた。
「ガージン副長は貧しい家庭に生まれ育ち、苦労の末にレバルフ警備隊で自分の存在が認められるようになり、次期隊長とまで噂されるようになったんです。しかし、そんなある日、デルマさんの隊長就任が決定しました。デルマ隊長のお父上もレバルフ警備隊の隊長だったこともあり、ガージン副長の心中は……」
女性隊員はそこまで言って、深いため息を漏らす。
「もちろん、デルマ隊長も素晴らしい方でした。部下からも信頼されてましたし、ガージン副長の能力だって高く評価されてました……わたしとしたことが、つまらない話をしてしまいましたね」
女性隊員はそう言って席を立つ。
「大変申し訳ないのですが、お二人には捜査が終わるまでの数日間はレバルフに滞在していただくことになります。むろん、その間の食事や宿泊先はこちらでご用意いたしますので、どうかご協力をお願いします」
深く頭を下げる女性隊員にエルフェリオンとアルナは了承の意を示すのだった。
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