白き狼と黄金羊は見る夢が違う -白金の乙女と幻想騎士団-

りんごパイ

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その想いは届かない 2

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領都ファティニール
繁華街
貴族御用達宿泊施設 『離宮ラーミリ』

冷やしてあるワインとグラス。
二つが奥のバーカウンターに置いてあるが『彼』は出来上がっていた。

この世界で酒を冷やして飲むこと出来るのは貴族と商人、冷却魔法の使える魔法使いぐらいだ。
冷やした方が旨いなどの知識は一般には広まっていない。
食材の鮮度…云々の知識がないせいだ。
品物を取り扱っている商売人には常識なのだが…学校という知識機関が貴族と裕福な商人のものだからである。

空気の読めない者同士の逢瀬が始まった…はずである。

アブローラが、部屋の内部を見回す。
外からは覗けない特殊ガラスの窓が壁面を覆い、ダブルベッドとソファー一式、ワインセラーにバーカウンターがり、暖炉があるが薪ではなく魔煌油を使ったイミテーションストーブがあった。

”また、この部屋か…防諜が行き届いた部屋なのだが、嫌な思い出しかない。”
雷神が溜め息つく。
若い時につまらない賭けに負けて…一晩中ニャンニャンさせられたことがあった。
仮に、勝ったとしても、一晩中アブローラのOOOをXXX!と言い切る『彼』に絶句したのを思い出したのだ。
アブローラは頭がくらくらして来るのを感じた。

その日は、朝までずっと元気な聖剣を手入れをさせられ続けた…冗談ではなかったのだ。
次の日、顎がかっくんかっくんになってしまい外れそうだった。
しばらくの間、顎が痛くて柔らかい物しか食べられなくなってしまう始末だ。
侍女達に病気の心配をされ、治療ギルドの受診を勧められたが、理由は明白であり恥ずかしくて行けるはずがなかった。
もし仮に、ニャンニャンしていなかったら…一晩中パンパンになるのは明白だった。
究極の選択になっていたことだろう。

”奴は、シュバリエではない、キラーマシンでもない、○ックスマシーンだ!”と毒吐く。

”聖剣が腫れて死ぬほど痛いから看護してくれとか”

泣きつかれたので、返す刀で叩き斬る。

”沢山いる妻達に優しくしてもらったらどうだ?”

言い返してやると、『彼』は黙ってしまった。

そんなやり取りを思い出し、アブローラはご機嫌斜めだった。

「今日はなんだ?私は忙しいのだ!」
と、アブローラは突き放すように言う。


「そんなに大きな声を出されたら酔いが覚めちまうよ」
苦虫を潰したような顔し、ボヤく。
淹れ直したグラスになみなみと注いだエールと唇を突き出して飲む。
勿体無い、もったいないとその様は酔っ払いである。

「要件は手短に頼む、今日はこのあと用事があるのだ。」
色々な事を思い出したせいか、棘のある言葉になってしまうアブローラ。
だが、『彼』は気にもせず聞き返す。
「どんな用事なんだい?気になるじゃ無いか?」
ウィンクしながら、アブローラの顔を見上げる。

「質問に答えろ!」
銀髪の雷神が一喝する。
キラキラと煌めいた。大気が一瞬に氷つき光を乱反射させたのだ。

『彼』は驚き、分かった分かったと両手を上げる。
チラリと見上げ、アブローラのご機嫌を伺うが、ご機嫌斜めなのはどうしようもないと判断したのか応えた。

「当分会えなくなるから、会いに来た…それじゃダメか?」

アブローラの口角が吊り上がる。
ふふーん
腕を組み、話に興味が湧いたらしく食いついてきた。
『彼』は、アブローラが何に興味を持ってくれたか気になったが、すぐに諦めた。

「ふーん、いい事だ。不出来だから飛ばされたのか?」

”少しくらい…心配しろよ”
口を尖らせボヤく。

今日のアブローラは、辛口である。
彼の飲んでいる酒も辛口で、相性が良いようだ。
だが、彼は気にも留めない。

「気長な列車の旅の途中さ」
もう一つグラスを取り出しアブローラに渡す。

「サインが先だ。」
グラスに一瞬視線が向くが書類の束を『彼』の顔面に突き立てる。

「一杯ぐらい付き合ってくれよ、半年は会えないんだから。」
一瞬思案顔になるが、
「まぁ、いいだろう」
と、グラスを受け取った。

そうだ、これを…と、ベッドに置いておいた花束を取ろうと振り向くが、

「花束はいらない…食べ物がいい」
事も無げに突き返され溜息をついた。

「…男かよ」
舌打ちをする

「何か言ったか?」
流石のアブローラも、ここまでつっけんどんなのは失礼かなとも思うのだが、今まで『彼』にされた仕打ちを考えると、まだ甘いと思うのだ。

「いいえ、何も」

「私のような男女のどこがいいのだ?いくらでも股を開く女などいるだろうに?」
と、皮肉交じりだが、気になる事を聞いた。

「…いっ…いいだろ、そんな事」
視線が交錯する二人…一秒、二秒、三秒、互いに視線を外した。

アブローラは、花束を『彼』から捥ぎ取った。流石のアブローラでも感じ入るものを感じたのだ。
「まぁ、いい、もらってやろう。……ありがとう」
と、消えてしまいそうな声で礼を言った。

「…どぅ…致し、まし…て」
『彼』は噛みまくる。

ばんバン、と何を思ったか、アブローラが自らの頬を両手で叩く。

「そうか、先ずは仕事だ!これに全てサインしろ!」

書類の束を突き出す、そう気合いを入れ直したのだ。
「内容は読む必要ない!厳選してあるからな。」

「…へいへい。」
呆気にとられるが…釈然としないのだが、『彼』は意外にもすんなりと仕事を始めた。

目の前には、腕を組みジロリと睨むアブローラ。
キツい女教師に嬲られる男子生徒…そのシチュエーションに『彼』は、ぞわぞわしていた。

アブローラが丈の短いボディラインを強調するスカートの隙間に絶対ゾーンが存在する。
足を組み替える度に、『彼』の視線はある一点…絶対ゾーンに意識が集中する。
射抜かんばかりに熱意のこもった熱い視線だ。

腑抜けた顔をする男子生徒に告げる。

「自分の名前を間違えるなよ?」

アブローラは心配気に声をかけた。

「…いくらなんでも、お前から見える俺は何者なんだ?」

「ヤリチンの野郎だが?」
『彼』はあからさまに失望した、絶望した、もう生きて行けない…嘘だが。

”酷過ぎないか”と、ブツブツ念仏を唱え始めた。

そのやり取りを、二つのあやふやな何かが共に肩を竦めているのに気付くものはいなかった。
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