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罪と天使

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___神様は言いました

人の心をよく理解するべきだ、と。


死んだ人間の魂は善悪で天国か地獄へ導かれるが
例えば、人々の世で言う【法律】のように
誰かを殺めても罪に問われない場合があるとしたら、それは"悪"となるのか。

そして例えば、見聞きする人によってその判断が変わるとしたら
何を思って明確な"罪"がそう判断されるのか
魂を導く天使達はそれをよくよく理解しなければならない。

だから神は、九歌隊と言う組織を創り
その彼らに命じた

___『哀れな"罪人"たちの魂を、その清らかな心と歌で救いなさい』


そうして、九人の天使達と、十人の罪人が集められた。


………

………

………


「私は納得できません」

九歌隊第6階級
能天使アイズ

彼女は九人の天使の中で最も純粋で正義感が強く、悪を嫌う天使。
そんなアイズが怪訝な顔を浮かべ異議を申し立てた相手は

九歌隊第1階級
熾天使セラ

彼は天使と人間19名が集められたこの小さな世界を神様に任された総責任者だった。

「なぜ人の命を奪った者達を救わなければならないのです?
殺人は間違いなく"悪"なのですから、迷わず地獄へ導かれるべきです」

険しい面持ちで自分の思想に描く"悪"への嫌悪を語るアイズ。
セラは落ち着いた口調で、君のような天使の為にあの子達は集められたんだ、と言った。
いまいちピンと来ない様子のアイズに、セラは言葉を続ける。

「人の子には、僕達とは比べ物にならない程に複雑な心がある。
罪が生まれると言うことは、その罪を生んでしまった罪があると言うこと。
生存能力の秀でた生物と言うだけで、心があるからこそ人間はとても弱い。

集められたあの子達は、いわゆる"哀れなヒト殺し"だ。
そしてあの子達の魂は、後悔したり、混乱したり、絶望したりを繰り返している。
今の僕達には、人の心と言うものを紐解いて哀れな魂を救うと言う使命があるんだよ」

しばらく黙って聞いていたが
少し間を置き、セラが話し終えたのを確認したアイズは
「神様から与えられた使命ですので全う致しますが
それでも、私があの人間達を許し天国へ導く事など到底あり得ないと思いますよ」
とだけ淡々と言い放ち、セラの目前から姿を消した。

ひとり苦笑を浮かべた熾天使は、小さく呟く

「何の罪も犯した事のない人間なんて存在しないのだろうけど
果たして、悪と呼ばれ蔑まれるべきなのは、あの子達だけだったのだろうか」
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