転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
39 / 53
最終章 ヤクザが来たでござる

語尾にコルァのつく種族

しおりを挟む
「森の中か……」

 どうやら昼間のようではあるが、木々の葉に遮られて薄暗い森の中、俺は白亜の神殿……じゃなかった、『事務所』から転移してきた。

正直助かった。あの針の筵みたいな場所にいるよりは異世界でイヤグワしてる方がよっぽど気が楽だ。あと、サブさん、ごめんなさい。俺がお茶を拒否したせいでやっさんにぶん殴られて。

 それにしても周りに何もない。俺は試しにサーチをかけてみたが、しかしやはり索敵画面にも緑色の光しか浮かばない。この緑色は、人か、それとも獣か。俺はとりあえず光に向かって歩き始めた。

 緑の光は俺が近づいてくると気配を感じてか、すぐに逃げてしまったから、おそらく動物だったんだろう。

 しかし。

 人に会えない。

 もう2時間ほども歩いているが……全く人の気配もしない。俺は立ち止まってしばし考え込む。

 これまずい状況じゃないのか。

 『アレ』をすべきだろうか。あまり気が進まないが。しかし考えている時間も惜しい。ぐずぐずしていたら日が暮れてしまう。夜の森で一人で過ごすのは怖い。

 も怖いけど。さらに十分ほど考え込んだ挙句、俺は結局『アレ』を実行することにした。

「あの~……やっさん?」

 神様へのタスケテコールである。

『なんやコルァ!』

「ひっ」

 いきなりコルァはやめて欲しい。俺は深呼吸をして気分を落ち着けてからゆっくり話し出す。

「あの、ですね……もう2時間も歩いてるんですけど、誰にも会えてなくて……」

『なんやとコルァ』

 語尾にコルァやめて。ファンタジー世界の語尾で許されるのは『ニャ』とか『のじゃ』とかであって、決して『コルァ』ではないの。やっさんだってファンタジー漫画とかで語尾に『コルァ』のつく種族とか見たことないでしょう。

 何やらごそごそと音がする。何か調べてくれてるんだろうか。

『……座標まちごうたっぽいな……』

 なんやとコルァ。

 このクソヤクザ、偉そうにしておきながら間違えやがったのか! ふつふつと怒りが湧いてくる。一体どうしてくれようか。文句を言うだけでは気が済まない。何か、チート能力でも貰うか……いや、これを機にベアリスに担当を戻してもらおう。そう言おうと思った時だった。

『サブ』

『うス』

 あっ……

 ごっ、という鈍い音が聞こえた後、がしゃん、と何かが割れる音、人が倒れる音が聞こえた。

『お前のせいで座標間違えたやろがいいぃぃ!!』

『ぅス、すいませ……ん、アニキ……』

 俺は何も言えなくなってしまった。

 サブに酷いことしないで。ていうか直接見てはいないけど目の前でそんな事されたら俺なんて何も言えなくなってしまう。

『おう、ケンジ』

「あ、はい」

 もう完全に俺も舎弟みたいな感じになってしまっている。

『今召喚者に連絡したさかい、そのうち来るわ』

「あ、はい」

 だめだ……勝てない。完全に雰囲気に飲まれてしまう。やっさんはそれで用事は済んだとばかりにもう話しかけてはこない。はぁ、ベアリスが懐かしい。

 結局その日は誰も来ず、俺は森の中で一夜を明かした。

 次の日の朝、俺が目を覚ますと、まさにちょうど、朝日に照らされて人がこちらへと近づいてくるところであった。

 格好としては全身鎧に身を包んだ、数人の騎士、そして中央にはかなり小柄な……女性? というか少女か。赤毛の、やはり全身鎧に身を包んだ女の子がいた。

 全身鎧と言ってもシルエットはかなり女性らしい装飾がされており、イーリヤと同じように下半身はスカートタイプの鎧だ。

 まだあどけない様子を窺わせる、赤毛で八重歯の生えた少女が俺に向かって話しかけてくる。

「イサァ、ソバーネンデ バイヤードゥ フルゥ?」

「えっ?」

 言葉が……

「バイヤードゥ?」

 小首を傾げながら小鳥のさえずる様な可愛い声で尋ねてくる。

 ヤバい。何言ってるか全然分からないぞ。そういえばやっさん普段は転生関係のシノギやってないって言ってたな。翻訳が機能してない。俺はまたやっさんに話しかけようとしたが、少女は続けて話しかけてくる。

「ソー、デネンツ アッラ、ペカ・リィンスース!」

 最後のペカ・リィンスースのところは自分の胸に手を当てていた。もしかして名前だろうか。俺がおどおどしていると、騎士の一人が険しい顔で腰に差してる片手剣に手を伸ばす。まずい。非常にまずい。

 とりあえず名乗ろう。俺は自分を指さして言葉を発した。

「けっ、ケンジ! コバヤシ・ケンジ!」

「コヤヤシ……ケンジ……?」

 コヤヤシじゃなくてコバヤシ、だけど、俺はこくこくと頷いてもう一度「ケンジ」と元気よく言った。

 騎士はとりあえずこちらに敵意はないと見て剣にかけていた手はひっこめた。少女は騎士達の方に振り向いて何やら話している。向こうも言葉が通じないことに気付いたようだ。この隙に俺はやっさんにコンタクトを取る。

「やっさん、やっさん!」

『…………』

 おい。

『…………』

 答えろよ。

「やっさん? カルムヌス トゥットゥ……」

 騎士達が小声でぶつぶつと言っている。嫌な予感しかしない。早くこたえてやっさん。

「やっさん! 非常事態です、やっさん!?」

『あぁ~~いぃ……』

 やっと反応があった。だが言葉の調子がなんかおかしい。

『なぁんやねんなぁあ……コルァ……』

 また語尾にコルァが。と言うかこの言葉の調子、まさか寝起きか? しまった、この世界と時差ないのか。まずい時に連絡してしまった。というかこっちもまずい時なんだが。

「あのぅ……ですね……ええと、言葉、が……」

 非常事態に怯えてしまい、俺はうまく喋れない。要点をまとめて、単刀直入に言わないと!

『なんやねんなぁ! 早よ言えやコルルァ!』

 語尾が「コルァ」から「コルルァ」にレベルアップした。ヤクザの巻き舌超こえぇ。

「言葉がですね! 通じなくて!!」

『通じとるやないかコルルルァ!!』

 また「ル」が増えた。いや通じないのはやっさんじゃなくて異世界人なんですけど。確かにやっさん話が通じないけども!

「その、この世界の人と、言葉が通じないんです! あの、翻訳! 翻訳は!?」

『あぁ? 翻訳ぅ? なんやねんそれ』

 やっさんホンマ勘弁して。

『サァ~ブゥゥゥ……』

 サブを呼ばないで。

『うス』

 サブ早い。

 なんなの? サブはいつもやっさんの傍に控えてるの? とか考えてたら「ガシャァン」と破壊音が聞こえた。ガラスっぽい……ビンか何かで殴られたか?

『寝てんじゃねぇぞぉサブゥ!! 転生者様が困っとるやろがい!!』

 あんたが殴ったから倒れたんでしょうが。

『う……ス……』

 サブもさすがに辛そう。ホントごめんね?

「――――――――ッ!!」

赤毛の少女が何か話しかけてくるけど全く聞き取れない。まあ聞き取れたところで意味分からないんだけども。

「ちょちょ、ちょっと待ってて! 今大事なところだから!」

 俺が手のひらを見せて制止すると、少女は怪訝そうな表情でとりあえず黙った。早く、早く翻訳を!

『あぁ~……これは、アレやな……』

 なに? なんか問題発生? やっさん!?

『取説読まな分かれへんな……』

 取説なの!? 転生って取説があるの!? ってかすぐできないって事!?

「――――――――ッ!!」

 少女が俺の手を引っ張って引きずっていく。

「あ、ちょ、ちょっと! あのね? まだ言葉がね!」

『まあ、あれや。ちょっと時間かかりそうやから適当に手品でもして場を持たせとけや』

 『場を持たす』? どうやって? 吉本の舞台じゃないんですけど!?

 俺は涙目で、抵抗もできず、少女に引っ張られていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...