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最終章 ヤクザが来たでござる
語尾に♡のつく種族
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『これちゃうか?』
『あ……いえ、うス』
『っかしぃな……』
サブ、自分の意見ちゃんと言おう。多分やっさんその機械詳しくないから。
結局翻訳が上手く作動することなく、俺は森の外に止めてあった少女と騎士達の乗ってきたであろう馬車に乗せられて揺られている。
「――――! ――――ッ!!」
騎士達は外でそれぞれの馬に騎乗し、俺は少女と二人で馬車の中。貴族が使うような豪華なものではないものの、しかし細かい装飾の入った馬車はなかなかに乗り心地はいい。
乗り心地はいいが……
「ケンジ! ――――?」
「ああ……ハハ……」
相変わらず何を言っているか分からないが、少女はずっと話しかけてくる。当然何を言っているのか分からないので、俺は曖昧な笑みで返すのみ。いつまで続くんだこれ。
身振り手振りと名前くらいしか分からないけど、それにしてもこの女の子よくしゃべるな……すんごく可愛いんだけど、ちょっとなんか偉そうな態度で喋ってるし。今の状態で重要な情報出されてたりしたら困るな。
馬車が止まった。
外を見てみると、騎士達とは違った軽装の鎧をまとった兵士がいる。町の城門か、関所についたんだろうか。
しかし随分と待たされる。騎士達と兵士は揉めてはいないものの、大分長い事話している。しばらくすると、騎士が馬車のドアを開けて手招きした。え? オレ?
ペカ(多分少女の名前)の方を振り向くと、彼女は笑顔で俺の背中をバン、と叩いた。降りろって事か。
すごく心細いけど、ペカが笑顔な分まだいくらか気が楽になる。この子は癒しだ。
外に出てみるとやはり町を囲む城壁の門だった。
少し広い場所にまで通されて立ち止まる。
「イプランッ スムミッティア トゥットゥ」
騎士が話しかけてくるが……何? 全然分からない。やっさん、まだかなあ……
それきり全員押し黙ってしまった。どうやら俺のターンか。
……ていうか、え? これマジで何すりゃいいの? 俺が何かする流れ?
「スムミッティア……」
騎士に何かまた促される。どうすれば……俺が何か言うか、するんだよな。少し考える。
……ここは関所。少女と騎士達は鎧から見てもかなり身分のある立場。それでも関所で止められてるってことは、おそらく『俺が何者か』ってことだ。出た時と帰ってくるときで人数が違うから止められてるんだ。
で、俺について全く言葉も通じないから説明に困ってる……そんなところだろうか。勇者としての力を示せばいいのか? でもいきなり魔法なんかぶっ放したら逆に立場が悪くなったりしないか? 城壁内に入る前に神様にお祈りか宣誓でもしろ、とかだったら完全に逆効果だ。
神様……やっさんに? 祈る? 早く翻訳できますように、って?
まあいいや、とりあえず俺は片膝をついて両手を組み、祈る姿勢を取る。
ちらりと薄目を開けて周りを見ると、騎士は小首を傾げている。ペカの目つきが厳しくなる。
よし……違うな。
お祈りじゃない。なら、力を見せる方か。俺はそのまま右手を前に差し出し、ゆっくりと魔力を込めながら立ち上がる。あたかも「最初っからそうするつもりでしたよ? 今のお祈りは魔法を使うために精霊にお願いしたんですよ?」とでも言わんばかりに。
まだ騎士は険しい表情になってないし、剣に手をかけてもない。もちろん首を傾げてもいない。多分これであってるはずだ。
ここはいっちょ格好良く呪文詠唱して空に強力な魔法をぶっ放してやるとするか。さらに魔力を練ると、騎士の一人が「オオ……」と感嘆の声を漏らす。よしよし、いけるいける。
「炎の聖霊よ、猛り狂うその力の一端を我に貸し与え給え。ファイ……」
『これか』
「……アボール!」
え? 今のやっさん? なに?
ぷすん、と掌から煙が出て、炎は出なかった。
「なによぉ、全然ダメダメじゃない!」
「おかしいな……神託通りに迎えに行ったんだが、人違いだったか?」
「身分の分からない者を通すわけには……」
な、何が起こった?
『おうケンジ! どや? 言葉分かるか?』
なるほど。呪文詠唱の途中で翻訳がオンになったからおかしくなったのか。こんなことなら無詠唱でやるんだった。
「イヤーッ!!」
ガォン!! と、轟音を上げて空に炎を撃つ。レーザーのように光が走り、空の雲に穴が開いた。俺は「ここまでが呪文ですよ? 最初っからこのつもりでしたよ?」とでも言わんばかりのすまし顔をしている。
『おいサブゥ!!』
「あ、すいません! 大丈夫です! 言葉分かりました。ありがとうございます!!」
っぶねー、危うくまたサブがやっさんに殴られるところだった。返事はすぐしないとまずいな。こういうところはサブに学ばなきゃ。
「ありがとう? 何言ってんの?」
ペカが話しかけてくる。ああもう、あっちもこっちも忙しい。
「いや、ええと……その、魔法の力を貸してくれた精霊様に感謝を……」
実際にはヤクザに感謝を言ったんだけど。
「そんなことまでしないといけないのぉ? 思ったんだけど勇者って意外と弱っちぃんじゃないの? あんな長い詠唱しないと魔法使えないなんてザコじゃん♡」
あれ? コイツ……
「ペカ様、口をお慎み頂く様……神より遣わされた使徒様ですよ」
「こぉんなよわよわ勇者に頼ってるようじゃこの国もおしまいよ?」
メスガキやんけ。
わからせなきゃ。
「こんなよわよわ勇者に頼らなくっても、この勇者ペカ様がザコ魔王なんてとっちめてあげるし♡♡」
メスガキ勇者!
「申し訳ありません、勇者様。ペカ様はあの通り口は悪いのですが、本心では慈愛深き、聖女のようなお方なのです。お気を悪くしないで下さい」
「いえ、大丈夫です。好物ですから」
「好物?」
どうやらこいつは語尾に♡がつく種族のようだが、そんなやり取りをしているとき、俺のお腹がぐうう、と鳴った。仕方ない。昨日の夜から何も食べてないんだから。
「あはは♡ なに、ケンジお腹すいてるの? しょうがないわねえ、すぐ近くの食堂に連れてってあげるから感謝しなさい♡♡♡ このザコ胃袋♡ よわよわ代謝♡」
メスガキツンデレ勇者!
代謝を煽られたのは生まれて初めての事だが、とにかく俺達は勇者としての力を見せたことで関所もパスして城壁内に入り、すぐ近くにあった食堂で昼食をとることにした。
俺とペカは席について食事をオーダーし、騎士達はどうやらテイクアウトでサンドイッチか何かを頼んだようだった。
騎士は二人が同席し、残りの人は外で警戒しながら立ったまま食事をとる。なかなかに万全の体勢だ。
ほぼ一日ぶりくらいの食事。プレートが運ばれてくると俺はさっそく食事にがっついた。
「あはは♡ ほんとに腹ペコだったのぉ? 育ちの悪さが出てるわよ♡」
こいつはいちいち煽らないと話ができないんだろうか。しかし確かにペカは綺麗な所作で食事をしている。さすがは勇者だ。
「全く、しょうがないわね♡」
その♡はどうやって発音してるんだろう。俺がそう思っているとペカが俺の顔の方に手を伸ばしてくる。
どうやら俺の口の周りに何かついてたみたいで、ペカは俺の頬から何かつまむと、自分の口の放り込んだ。マジか。
「ケンジはペカが面倒見てやらなきゃ食事もできないのね。うふふ♡」
メスガキツンデレ勇者ママ!
もはや口を開くたびに一つずつ属性が添加されていくペカ。だが悪くない。属性てんこ盛りだ。
俺は食事を終えて一息つき、タンブラーに注がれている水を飲み干した。ああ、ホントに美味かった。食い終わってからなんだけど、多分鶏肉のソテーだ。
「ケンジも大変ねぇ♡ こんな時に異世界から召喚されちゃうなんて。魔王軍は町の中だからって油断できないのよ♡」
「どういうことだ? 町の中に魔族が入り込んでるのか?」
てっきりここは、この国の首都か何かだと思ってたんだが、まさかこんな本丸にまで敵が? そう言えば騎士の警戒態勢は尋常なものじゃない。スパイでもいるのか?
「そうよ……今も窓のところにいるわね♡」
「窓……?」
食堂の開け放たれた窓、そこには小鳥が止まっている。まさかあれが……?
『あ……いえ、うス』
『っかしぃな……』
サブ、自分の意見ちゃんと言おう。多分やっさんその機械詳しくないから。
結局翻訳が上手く作動することなく、俺は森の外に止めてあった少女と騎士達の乗ってきたであろう馬車に乗せられて揺られている。
「――――! ――――ッ!!」
騎士達は外でそれぞれの馬に騎乗し、俺は少女と二人で馬車の中。貴族が使うような豪華なものではないものの、しかし細かい装飾の入った馬車はなかなかに乗り心地はいい。
乗り心地はいいが……
「ケンジ! ――――?」
「ああ……ハハ……」
相変わらず何を言っているか分からないが、少女はずっと話しかけてくる。当然何を言っているのか分からないので、俺は曖昧な笑みで返すのみ。いつまで続くんだこれ。
身振り手振りと名前くらいしか分からないけど、それにしてもこの女の子よくしゃべるな……すんごく可愛いんだけど、ちょっとなんか偉そうな態度で喋ってるし。今の状態で重要な情報出されてたりしたら困るな。
馬車が止まった。
外を見てみると、騎士達とは違った軽装の鎧をまとった兵士がいる。町の城門か、関所についたんだろうか。
しかし随分と待たされる。騎士達と兵士は揉めてはいないものの、大分長い事話している。しばらくすると、騎士が馬車のドアを開けて手招きした。え? オレ?
ペカ(多分少女の名前)の方を振り向くと、彼女は笑顔で俺の背中をバン、と叩いた。降りろって事か。
すごく心細いけど、ペカが笑顔な分まだいくらか気が楽になる。この子は癒しだ。
外に出てみるとやはり町を囲む城壁の門だった。
少し広い場所にまで通されて立ち止まる。
「イプランッ スムミッティア トゥットゥ」
騎士が話しかけてくるが……何? 全然分からない。やっさん、まだかなあ……
それきり全員押し黙ってしまった。どうやら俺のターンか。
……ていうか、え? これマジで何すりゃいいの? 俺が何かする流れ?
「スムミッティア……」
騎士に何かまた促される。どうすれば……俺が何か言うか、するんだよな。少し考える。
……ここは関所。少女と騎士達は鎧から見てもかなり身分のある立場。それでも関所で止められてるってことは、おそらく『俺が何者か』ってことだ。出た時と帰ってくるときで人数が違うから止められてるんだ。
で、俺について全く言葉も通じないから説明に困ってる……そんなところだろうか。勇者としての力を示せばいいのか? でもいきなり魔法なんかぶっ放したら逆に立場が悪くなったりしないか? 城壁内に入る前に神様にお祈りか宣誓でもしろ、とかだったら完全に逆効果だ。
神様……やっさんに? 祈る? 早く翻訳できますように、って?
まあいいや、とりあえず俺は片膝をついて両手を組み、祈る姿勢を取る。
ちらりと薄目を開けて周りを見ると、騎士は小首を傾げている。ペカの目つきが厳しくなる。
よし……違うな。
お祈りじゃない。なら、力を見せる方か。俺はそのまま右手を前に差し出し、ゆっくりと魔力を込めながら立ち上がる。あたかも「最初っからそうするつもりでしたよ? 今のお祈りは魔法を使うために精霊にお願いしたんですよ?」とでも言わんばかりに。
まだ騎士は険しい表情になってないし、剣に手をかけてもない。もちろん首を傾げてもいない。多分これであってるはずだ。
ここはいっちょ格好良く呪文詠唱して空に強力な魔法をぶっ放してやるとするか。さらに魔力を練ると、騎士の一人が「オオ……」と感嘆の声を漏らす。よしよし、いけるいける。
「炎の聖霊よ、猛り狂うその力の一端を我に貸し与え給え。ファイ……」
『これか』
「……アボール!」
え? 今のやっさん? なに?
ぷすん、と掌から煙が出て、炎は出なかった。
「なによぉ、全然ダメダメじゃない!」
「おかしいな……神託通りに迎えに行ったんだが、人違いだったか?」
「身分の分からない者を通すわけには……」
な、何が起こった?
『おうケンジ! どや? 言葉分かるか?』
なるほど。呪文詠唱の途中で翻訳がオンになったからおかしくなったのか。こんなことなら無詠唱でやるんだった。
「イヤーッ!!」
ガォン!! と、轟音を上げて空に炎を撃つ。レーザーのように光が走り、空の雲に穴が開いた。俺は「ここまでが呪文ですよ? 最初っからこのつもりでしたよ?」とでも言わんばかりのすまし顔をしている。
『おいサブゥ!!』
「あ、すいません! 大丈夫です! 言葉分かりました。ありがとうございます!!」
っぶねー、危うくまたサブがやっさんに殴られるところだった。返事はすぐしないとまずいな。こういうところはサブに学ばなきゃ。
「ありがとう? 何言ってんの?」
ペカが話しかけてくる。ああもう、あっちもこっちも忙しい。
「いや、ええと……その、魔法の力を貸してくれた精霊様に感謝を……」
実際にはヤクザに感謝を言ったんだけど。
「そんなことまでしないといけないのぉ? 思ったんだけど勇者って意外と弱っちぃんじゃないの? あんな長い詠唱しないと魔法使えないなんてザコじゃん♡」
あれ? コイツ……
「ペカ様、口をお慎み頂く様……神より遣わされた使徒様ですよ」
「こぉんなよわよわ勇者に頼ってるようじゃこの国もおしまいよ?」
メスガキやんけ。
わからせなきゃ。
「こんなよわよわ勇者に頼らなくっても、この勇者ペカ様がザコ魔王なんてとっちめてあげるし♡♡」
メスガキ勇者!
「申し訳ありません、勇者様。ペカ様はあの通り口は悪いのですが、本心では慈愛深き、聖女のようなお方なのです。お気を悪くしないで下さい」
「いえ、大丈夫です。好物ですから」
「好物?」
どうやらこいつは語尾に♡がつく種族のようだが、そんなやり取りをしているとき、俺のお腹がぐうう、と鳴った。仕方ない。昨日の夜から何も食べてないんだから。
「あはは♡ なに、ケンジお腹すいてるの? しょうがないわねえ、すぐ近くの食堂に連れてってあげるから感謝しなさい♡♡♡ このザコ胃袋♡ よわよわ代謝♡」
メスガキツンデレ勇者!
代謝を煽られたのは生まれて初めての事だが、とにかく俺達は勇者としての力を見せたことで関所もパスして城壁内に入り、すぐ近くにあった食堂で昼食をとることにした。
俺とペカは席について食事をオーダーし、騎士達はどうやらテイクアウトでサンドイッチか何かを頼んだようだった。
騎士は二人が同席し、残りの人は外で警戒しながら立ったまま食事をとる。なかなかに万全の体勢だ。
ほぼ一日ぶりくらいの食事。プレートが運ばれてくると俺はさっそく食事にがっついた。
「あはは♡ ほんとに腹ペコだったのぉ? 育ちの悪さが出てるわよ♡」
こいつはいちいち煽らないと話ができないんだろうか。しかし確かにペカは綺麗な所作で食事をしている。さすがは勇者だ。
「全く、しょうがないわね♡」
その♡はどうやって発音してるんだろう。俺がそう思っているとペカが俺の顔の方に手を伸ばしてくる。
どうやら俺の口の周りに何かついてたみたいで、ペカは俺の頬から何かつまむと、自分の口の放り込んだ。マジか。
「ケンジはペカが面倒見てやらなきゃ食事もできないのね。うふふ♡」
メスガキツンデレ勇者ママ!
もはや口を開くたびに一つずつ属性が添加されていくペカ。だが悪くない。属性てんこ盛りだ。
俺は食事を終えて一息つき、タンブラーに注がれている水を飲み干した。ああ、ホントに美味かった。食い終わってからなんだけど、多分鶏肉のソテーだ。
「ケンジも大変ねぇ♡ こんな時に異世界から召喚されちゃうなんて。魔王軍は町の中だからって油断できないのよ♡」
「どういうことだ? 町の中に魔族が入り込んでるのか?」
てっきりここは、この国の首都か何かだと思ってたんだが、まさかこんな本丸にまで敵が? そう言えば騎士の警戒態勢は尋常なものじゃない。スパイでもいるのか?
「そうよ……今も窓のところにいるわね♡」
「窓……?」
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