転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
52 / 53
最終章 ヤクザが来たでござる

やっさん流

しおりを挟む
「ぷふぁ~」

 ローテーブルを挟んだ先、やっさんの口から大量の紫煙が吐き出され、俺に吹きかけられる。俺は咳き込むこともできず、ただ耐えるのみ。何故こうなった。俺はただやっさんに相談したかっただけだったのに。

「あのですね……」

「サブ」

「うス」

 緊張が走る。何か悪いことしたか? サブは両手に持った灰皿を静かにやっさんの横に差し出す。

 ジュッ……

「んッ……」

 やっさんがタバコの火を消すのに使ったのは、灰皿ではなくサブの手首だった。サブが声にならない悲鳴を上げる。

「んで? なんやったコルァ」

 本当に何なのこの空気。もしかしてまたチェンジしようとしてると思ったのか? 純粋に相談したかっただけなのに。

「いや、今日お呼びしたのはですね……その、人生経験豊富なやっさんにちょっと相談に乗ってほしいな~? って思ったわけでして……」

 不機嫌そうだったやっさんの表情が緩み、笑顔になった。よかった。思った通り、この手のタイプの人間は『人に頼られる』のが好きなんだ。上手く使って、スジさえ通せば強力な味方になるはず。

「その、敵対してる魔王と人間の王がですね。互いに統合失調症で、相手が自分を敵視してると思い込んで、話を聞けないくらいに怒ってまして……どうにかして冷静に話を聞いてもらうにはどうしたらいいかなぁ? と思って何か助言はいただけないかと……」

「なんやそんな事かいな……」

 そう言いながらやっさんは次のタバコに火を点けた。

「できるんですか?」

「簡単な話や」

 俺の問いかけにやっさんは『簡単』だと答える。腐ってもさすがは神様だ。人を冷静にさせる特殊能力でもあるんだろうか。

「かましたれ」

「か、かます?」

「せや、かましたれ」

 かます? 何をかますのか? どういう意味だろうか。

「ええか、ケンジ。ヤクザってのはな、舐められたら仕舞いや」

「やっさんは女神様ですよね? ヤクザじゃなくて」

「一般論の話や」

 ヤクザは一般ではないとは思うが。しかしやっさんの話が続いているようなのでとりあえず黙って聞く。ホントに神族って何なんだろう。ベアリスもそうだけど転移以外に神様らしいこと何にもしてないよな。

「ケンジは夜の繁華街歩いたことあるか?」

 もちろんない。死ぬ前は高校生だったからな。なんか酔っ払いとか客引きとかいてカオスなイメージだけど。ていうかやっさんは歩いたことあるの? 女神様って夜の繁華街ふらふらしてるもんなの?

「夜の飲み屋街はな、酔っぱらって気の大きくなったおっさんがぎょうさんおるもんや」

 確かにそういうイメージはある。酔っぱらったタチの悪いおやじが通行人に絡んだりしてそう。

「訳の分からん事言うて通行人に絡む酔っ払いでもな、あんな前後不祥になってる奴でも避けて通るのがヤクザとガイジンや」

 酔っぱらってるようでも意外に冷静に相手を吟味して絡んでるのか?

「ええか? 冷静な判断力を失ってるように見える人間でもな、『こいつはアカン』って奴には絶対に絡まへんのや。人間はどんな状態でも、自分の生存に関わる部分では冷静になるもんなんや」

 やっさんはサブの持ってる灰皿にタバコを放り込み、俺に顔を近づけて念押しした。

「ええかケンジ? 『かましたれ』……そのための力と経験は、自分はもう持っとる」

 俺は、光に包まれた。

――――――――――――――――

「も、戻ってきた!!」

 ペカがまた心配そうな表情で俺を見つめてる。いや、ペカだけじゃない。魔王もエイヤレーレも、唐突に光りだして消えたり現れたりしてる俺を唖然とした表情で見つめている。

 そうだ。やっさんは「そのための力は、もう持ってる」と言っていた。俺は、その力をもう手に入れてるんだ。

「ステータスオープン!!」

 何も出ない。

そう。「そのための力をもう持ってる」とは、そういうアクティブスキルを手に入れたとか、そういう話ではない。もちろんそれは分かってる。ただ、念のため。一応やってみただけだ。別に本気でステータスウィンドウが現れると思ってやったわけじゃない。子供じゃないんだから。

「ど、どうしたのケンジ? また急に点滅しだしたり、変な大声出したり……大丈夫?」

 ペカが心配してる。安心しろ。俺はこの世界を救う勇者だ。決して統失なんかじゃない。

「と、とにかく……魔族側が人間に対する攻撃をやめない限り……」

「よく言うわ! 我らに電磁波攻撃を仕掛けているのは貴様らだろうが!!」

 エイヤレーレの言葉を皮切りにまた醜いののしり合いが始まる。だが、既に『ヒント』は出ていたんだ。

 二人は、自分の妄想に囚われながらも、しかし相手の妄想についてはドン引きしていた。自分の事に冷静な判断ができなくなっていただけで、状況の把握が全くできなくなっているわけじゃないんだ。

 そして、場の空気を支配する方法は、何度も見せられていたんだ。やっさんから。

「カルナ=カルア」

「ん? なに?」

「イヤーッ!!」

「グワーッ!!」

 カルナ=カルアが炎に包まれた。

「なっ、何をするのだ!?」

 ラムが近くのワゴンに乗せてあった布巾数枚をバサバサとカルナ=カルアに叩きつけて慌てて炎を消す。

「な……なに? なんで、急に……?」

 カルナ=カルアは何が何だか分からない、という恐怖の表情でこちらを見ている。エイヤレーレと魔王も、余りの事態に言葉を失って呆然としている。

「お茶がきれとんのになんでお代わりを注がんのじゃぼけぇええぇぇ!!」

 嵐のようなストンピングを食らわせる。カルナ=カルアは突然の事態にカメになって耐えるのみ。

「魔王様とエイヤレーレがまだ話しとるのに喉渇くやろがあぁぁぁいいぃぁぁぁああ!!」

「ケンジ! ケンジやめて!! 急にどうしちゃったの!? 冷静になって! 前の優しいケンジに戻って!!」

 ペカが涙を流しながら俺を止める。

「はぁ、はぁ……冷静……?」

 俺は返り血を拭い、ゆっくりと答える。

「俺はいつも冷静やぞ……冷静に見えへんかったか……?」

 俺の言葉にペカは無言で首を横に振るだけだった。もはや恐怖で言葉も出ないようだ。俺は今度はエイヤレーレの方に視線を向ける。

「エイヤレーレはどう思う? 俺、冷静じゃなかったか?」

「あ、大丈夫ッス」

「魔王は……?」

「あ、冷静です」

 しん、と静まり返る食堂。聞こえるのはカルナ=カルアが咳き込む音だけ。

 恐怖という空気が、その場を支配していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...