鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
24 / 211

仕掛け部屋

しおりを挟む
「な……」

 沈黙を破ったのはアルグスさんだった。といっても、言葉に詰まってしまったが。

「なにしてくれてんだ、ドラーガ……」

 部屋に入ったところに、ちょうど手をかけられるくらいの具合の良いでっぱりがあった。それに手をかけてドラーガさんが休憩したところ、ガコンという音と共に入ってきた入り口に岩戸が下りてきたのだ。

 まあ、まず間違いなく今のが仕掛けになって扉が閉まったのだろう。

 ダンジョンに入る前、アルグスさんに口を酸っぱくして言われていたことがある。

 「その辺の物に不用意に触らないこと」……とくに、意味ありげな出っ張りだとか窪み、レバー、飾りなどなど。「触りたい」と思うものほど「触るな」……前回も今回もアルグスさんは私と、そしてドラーガさんに念を押していた。

「あ? どうかしたか?」

 どうかしたかもなにも……私は周りを見回す。広間は石壁などではなく天然で出来たようなむき出しの岩肌。両側には8体の戦士の彫像があり、出口は他にない。行き止まりだ。

「ヴァ……ヴァンフルフは……?」

「分からない。この部屋に入ったらもういなかった。どこかに隠し扉があるのかもしれないが……」

「んだよ、結局逃がしちまったのか、情けねーな」

 ブチッ、という音が聞こえそうなくらいアルグスさんとアンセさんが歯を食いしばり、憤怒の表情になる。しかし二度、三度と深呼吸をしてそれを押し殺した。まあ……きっと日常茶飯事なのかもしれない。

「と、ところでドラーガ、あんた荷物は?」

 ひくひくと顔を引きつらせながらも、努めてアンセさんが冷静に尋ねる。

「あん? そんなもん最初の崩落の部屋を降りるときに置いてきたぜ。あんなもん担いで急斜面を下りられるわけねーだろ」

 担いでなかったけど降りられなくって滑落したくせに。

「荷物持ちもまともにできないの……ッ!!」

 ギリ、とアンセさんが歯噛みする音が聞こえる。ひぃ、自分が怒られてるわけじゃないのに怖い。

「い、一旦出来事をまとめましょう! ここから脱出することを考えないと!」

 何とか空気を換えようと私は提案すると、ようやく二人とも冷静になったようで、立ったまま情報を整理する。

「まず、テューマ達がやはり裏切り者って言うのは確定だな。しかし黒幕は全くの謎だ。さっきの黒いローブの人物、それに魔族四天王と言っていたヴァンフルフ。奴ら、どうやらここに巣食ってるモンスターどもと取引してるみたいだな」

「ギルドはどうなります?」

 アルグスさんの言葉にクオスさんが尋ねる。アルグスさんは顎を撫で、少し考えてから言葉を発する。

「リーアン(受付嬢)は照会の記録はないと言っていた。ということは正規のルートを経ずしてテューマ達は僕達の探索の情報を得たことになる。つまり繋がってると見ていいだろうな……」

 ダンジョンのモンスター、ギルド、そしてヤミ専従のテューマさん達の三つが繋がっていることになる。状況は絶望的だ。

「なんとかテューマ達は撃退したものの、取り逃がし、黒幕共の足掛かりもない……」

 アルグスさんが続けた言葉に、アンセさんが苦々しい顔で締める。

「挙句の果てに、ドラーガのせいで部屋に閉じ込められ、物資もない、と」

 これにドラーガさんは気を悪くしたようだった。

「あん? 俺のせいだってのか? だったらこれをもっかい作動させりゃいいだけだろう」

 振り返ってさっき触った出っ張りをガコガコと動かす。

「やめろ馬鹿! 触るなって言ってるだろ!!」

「馬鹿だ……と……」

 振り向いたドラーガさんの顔が真顔になる。それと同時に私達の後ろでゴゴゴゴ、と岩のこすれる音。

 ……ああ、やっぱり。嫌な予感って当たるよなあ。部屋の脇に控えていた8体の戦士の彫像が動き出した。やっぱりゴーレムだった。

「魔法は温存する……アンセ達は下がっていろ。僕一人でやる」

 そう言ってアルグスさんは部屋の中央に進み出る。それに導かれるようにストーンゴーレムたちは歩み寄っていく。単純に一番近い敵を狙うのか。ゴーレムたちは武器を持っていない。腰に剣は差しているが、どうやら見た目通りそれは張りぼての武器なのだろう。

 しかしだからと言って一人で8体ものストーンゴーレムの相手が出来るものなのか。

 ゴーレムたちは段々と速度をあげながらアルグスさんに手を伸ばす。質量攻撃で圧し潰すつもりだ。

「トルトゥーガ!!」

 両側から伸びてくる腕、それを回転するトルトゥーガが受け、回転により逸らす。一瞬潰されるようにも見えたが、しかし折り重なる様に攻撃を仕掛けるゴーレム達はまるで爆散するかのように次々と粉々になっていった。

 ゴーレムの身体を突き破って現れたのは、回転する丸盾。

 轟音をあげながら伸び、縮み、遠心力を利用して砕き、裂き、破壊しつくす。時間にしてほんの十数秒。

 8体あったストーンゴーレムは一瞬のうちに回転するトルトゥーガに砕かれて砂礫と化した。

「こんなもんか……」

 アルグスさんはガラクタと化したゴーレムの残骸の上に立ち、ごそごそと懐をまさぐり、緑色の宝石、ローブの人影が「竜の魔石」と呼んでいたものを取り出して高く掲げた。

「でてこい! これが欲しいんだろう!」

 しかし返ってくるのは静寂のみ。

「へっ、無視されてやんの」

 いや、ドラーガさんが言葉を返した。なんでこう、この人は……

「お前ちょっとは自重しろ! どれだけ迷惑かけてると思ってるんだ、今回ちょっと酷いぞ!!」

「なにぃ!? 俺がいったいいつ迷惑かけたってんだ! 的確なアドバイスとサポートでパーティーに尽力してるだろうが!!」

 ドラーガさん的にはそうなんだろうか。

「段々あんたがギルドのスパイなんじゃないかって気がしてきたわ……この穀潰しが……ッ!!」

 アンセさんも完全に切れてしまっている。

「なんだとてめえら! 寄ってたかって、アレか! イジメって奴か! 最近の冒険者はこれだから!! パワハラで組合にチクってやる!」

 なんとドラーガさんが逆切れした。さらにずんずんとゴーレムが立っていた場所の壁の方に歩いて行った。

「もう我慢ならん! この棒で頭カチ割ってやる!!」

 そう言ってさっきまでゴーレムの影に隠れて見えていなかったレバーのようなものを引っこ抜こうとする。

「その辺の物勝手に触るなって言われたでしょう!」

 私は慌ててドラーガさんを止めようとするが、時すでに遅し。レバーが急に変な角度に曲がり、「ガコン」と音がした。

「んぁッ!?」

 それと同時にドラーガさんのいた場所に穴が開く。急に足場を失ったドラーガさんの腕が宙を掻く。そして、がっしりと……

 私の胸を掴んだ。

「キャアアァァ!!」

 ひどいセクハラ! でもこの腕を掴んでドラーガさんを引き上げなきゃ、と思ったところに何かが後ろから突っ込んできた。

「私のドラーガに色仕掛けすんなって言ってんだろうがぁ!!」

 クオスさん、今、そんなこと言ってる時じゃ……

 私とドラーガさん、そしてクオスさんは落とし穴に吸い込まれるように落ちて行った。




 バタン

 三人が姿を消すと、すぐに落とし穴は蓋が閉じられた。

 アルグスがとぼとぼと近寄り、再度レバーを動かしてみるが、何の反応もない。

「……なんてこった」

 部屋には絶望の色濃い顔の、アルグスとアンセが取り残されたのだった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。 彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。 しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在…… 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...