鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
47 / 211

本当に何もしてないのに

しおりを挟む
「いいか、アンセ。クラリスを信じろ。俺の信じたクラリスを信じるんだ」

「だからお前が信じられないからそもそもその前提が成り立たないっての!」

 まあ……ぶっちゃけアンセさんの言うとおりだ。

 言い合いの終わりそうにないアンセさんとドラーガさんを横目に、アルグスさんがクラリスに話しかける。

「だがガスタルデッロに敵対する気はないんだろう?  何か裏切らないという証拠は出せないのか? 向こうの情報を渡すとか……七聖鍵とギルドはいったい何をするつもりなんだ?」

 そう問いかけると、クラリスさんは暫く目を宙に彷徨わせて考え込む。出せる情報、出せない情報を考えているんだろう。

「七聖鍵とギルドが求めてるものは、野風。ギルドマスターのセゴーは、そ、それを使ってオクタストリウムを支配しようと、してるわ。で、でも七聖鍵は……」 

「この地の人類を滅ぼして、竜人族ドラゴニュートの再興を狙っている。違いますか?」

 クラリスさんの言葉を遮ったのはそれまで静かにしていたイリスウーフさんだった。すっかり存在を忘れてたけど、そう言えば彼女はクラリスさんの事を「同族」と言っていた。

「ということは、七聖鍵は全員……?」

「い、いひひ……その、その通り。全員ドラゴニュートの生き残り。い、イリスウーフを手に入れたいのは、野風を手に入れるだけじゃない。ど、ドラゴニュート再興の旗頭が必要だから……」

「もう一つ気になることがあります」

 さらにイリスウーフさんが尋問を続ける。

「さっき不老不死は『まだ』秘密にするって言ってましたね……『まだ』ってことは、そのうち言えるようになるんですか?」

「くふふふ……」

 そうだ。たしかにアンセさんが「どうやって不老不死になるのか」って言ったら「まだ秘密」と言っていた。普通ならそんな誰もが喉から手が出るほど欲しがる技術、ずっと自分達だけのものにしとこうと思いそうなものだけど、そのうち公開するつもりなんだろうか。

「うひひ、そ、それも当たり。細かい技術は言えないけど、りゅ、竜の魔石さえ集まれば私達はいつでも誰でも不老不死にできる。い、石さえ集まれば私達はこの技術を、い、一般公開するつもり……」

「なぜそんなことを? 人間にそんな力を与えたら、ドラゴニュートには不利にならないんですか?」

 当然の疑問だと思う。でも私がそう尋ねると、またクラリスさんは不気味な声で笑った。

「いひひひ……そ、想像してみればいい。不老不死を求めるのは愚かな人間の中でも、とびきり愚かな奴ら。そ、そんなやつらに、不老不死を与えたら、な、何が起こるか。わ、私はドラゴニュートの再興になんて興味ないけど、な、何が起こるかは凄く楽しみなの」

 少し私は想像力を働かせる。今でも金と権力を持った年寄りを「老害」なんて言ったりするけど、そんな人たちが不老不死を得て、社会の上層に居座ったら何が起こるか。

 変化を望まず、社会は停滞し、階層は固定され、持つ者はより持つようになり、持たぬ者は奪われ続ける。今の人間社会ですら起きてること。それが永遠に続くとなれば、人間はやがてゆっくりと滅んでいくだろうことは想像に難くない。

 そんな遠大な計画を? 一体何百年かかるか分からないのに。でもよくよく考えればすでに七聖鍵は不老不死になっているんだから、それこそ何百年でも待てるのか。人がゆっくりと滅びるのを。

「う、奪わんと欲すれば、先ずは与えるべし……
 じ、人類とドラゴニュートは何百年も前から、あ、争ってきた……それこそ何度もドラゴニュートはこの地の人間を根絶やしにしようとした。で、でも人間はしぶとい。だ、だったら、与え続けて骨抜きにしてやればいいって、でゅ、デュラエスが言ってた」

「それを言っても良かったのか? そんな恐ろしいたくらみがあると知れば、僕は絶対に阻止する。それがドラゴニュートの謀略だ。不老不死に手を出してはいけないと公言するぞ」

 アルグスさんが真剣な顔で静かに言った。たしかにその通りだ。彼女にとってこれは「言ってもいい情報」だったんだろうか。それとも勢いに任せてつい喋ってしまった?

「だ、大丈夫。それが分かっていても、愚か者は『自分だけは、自分と家族だけは』って、不老不死を求める。そういう愚かな奴にだけ不老不死を与えるだけで、社会は大混乱に陥り、や、やがて深刻な社会の断絶を生み出す」

 アジトに沈黙の時が流れる。

 正直言ってそこまでの大きな話になるとは思ってもみなかった。下手をすればギルド全体、そしてこの国をも揺るがす大事件になる。おまけにもし七聖鍵が領主や国王を抱き込んだら、それとも全面対決しなければならない。

 いや、正直言ってその可能性はかなり高い。

 権力者からすれば不老不死なんて喉から手が出るほど欲しいものだろうから。

「全面対決だ。僕は何があろうともそんなたくらみを放ってはおけない」

 そうだ。“勇者”アルグスなら、きっとそう答えるだろうと思っていた。私は震えが止まらない。

「ふぅん……なるほどな。大体仕組みは分かったぜ」

 その決定に抵抗するかと思われていたドラーガさんは意外なほどにすんなりとそれを受け入れていた。

「その竜の魔石に、魂か、記憶か、そんなもんがあるのか分からねえが、それを封じ込めて、魔石を破壊されない限り何度でも復活できるってわけか。だからあの全裸マンは俺から魔石をわざわざ奪いに来たんだな。
 ひょっとしたら魔石のスペアなんかもあったりしてな」

 おっと、全然違うことを話し出したぞ。この人ちゃんとアルグスさんの話聞いてたのかな。不安になる。しかしアルグスさんは彼の事はあまり気にしてないみたいで、後ろからクラリスさんの身体をひょいと持ち上げた。

「じゃあ、もしかしてこの人形の体の中にあの魔石が入ってるのか……? ん……なんか硬いな……これかな?」

「ちょ、ちょっと、乱暴しないで! そんなにぐにぐに押したら……あっ♡」

 なんかエロイな。アルグスさんはクラリスさんの言葉を無視して人形の背中の辺りを熱心に揉んでいる。

「ああっ…………」

 と、声をあげたきり、クラリスさんは糸の切れた操り人形のようにかくん、と項垂れて動かなくなってしまった。

「あ~あ……」
「やっちゃった……」

 アンセさんとクオスさんがアルグスさんを非難の目で見る。

「えっ? いや、ちがっ……かってに……じどうてきに……」
「何するんですかアルグスさん!!」

 怒った表情でターニーさんがアルグスさんからクラリスさんを取り上げる。本当に自動人形なのかな、この人結構表情豊かだな。

「ああ~……もう!」

 何かごそごそとターニーさんが人形をいじくっているけれど、クラリスさんが復活する兆しはない。

「殺し……たんですか……」

 ぼそっと呟くイリスウーフさんの言葉にアルグスさんがビクッとする。

「目的のためなら手段を選ばねえな、アルグス。いくらクラリスが気に食わねえからって強硬手段にでるとは……」

「何やっちゃったんですかアルグスさん」

「わからない……何もしてないのに壊れた……」

 この人機械を壊す才能にあふれてるな。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。 彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。 しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在…… 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...