鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
53 / 211

話は聞かせて貰ったぜ

しおりを挟む
「身勝手なお願いだという事は分かっているわ」

 フービエさんは心底申し訳なさそうな顔でそう言った。たしかに、自分達が殺そうとした相手に、救出を頼むなんて、普通では考えられない。

「まあ気にすんな。俺達ゃ冒険者ぼっけもんだ。金さえ貰えりゃ何でもやる。そういうもんだろ? とりあえずどういう事情か話してみな」

 ドラーガさんにそう促されると、フービエさんはウェイトレスに注文したお茶を飲んで、ゆっくりと答え、私達はそれを固唾を飲んで聞く。

 ……この人は、いったいどこまで話すつもりなんだろう。どこまで話せるんだろう。

「もう分ってると思うけど、私達は、魔族と結託してあなた達を陥れようとしていたわ。でも、魔族の裏切りを受けて、私一人だけが命からがら逃げてきたの……私が逃げ出した時は、まだ誰も殺されてはいなかったけれど、今はどうなっているのか……」

 なるほど。嘘は言っていなさそうだ。だけど色々と抜けている情報がある。魔剣野風の情報、イリスウーフさんとの事、ギルドの事、依頼に直接関係はなさそうだけれども、重要な情報を伏せたままだ。

「フービエさん、それはちょっとアンフェアじゃないですか? あなたが本当に私達を指名して依頼をするのなら全ての情報を出すべきでしょう」

「それは……」

 フービエさんの顔が恐怖に歪み、そして辺りを見回す。セゴーさんや七聖鍵の目を気にしているんだろうか。おそらくその情報を出す事は彼らからも固く禁じられているはず。

「それは違う。マッピ」

 しかし私をアルグスさんが制した。

「依頼者が嘘を言っていなければ、そんな深いところまで首を突っ込んじゃいけない。それが冒険者ぼっけもんの不文律だ」

 首を突っ込んじゃいけない、って、私達は当事者でもあるんですけど。

「お願い、テューマ達を助け出してほしいの! その気持ちだけは嘘偽りはないわ! もし既に殺されているのなら、その確認だけでも……ッ!!」

「勝手なことを言わないで! 私達だって殺されかけたんですよ!!」

「待ちな」

 その時、隣のテーブルから声が聞こえてきた。

「事情がありそうだな、嬢ちゃん」

 隣のテーブルから、ブランデーのグラス片手に座ったままそう声をかけてきたのは、ドラーガさん……って、いつの間に席移動したんですか。
 彼はくい、とグラスの酒をあおって話を続ける。

「悪いが、話は全部聞かせてもらった……」

「話せって言われたから話したんですけど」

「お前の言葉に嘘偽りはない。お前の目を見ればわかる。だったら俺たち冒険者のすることは一つだ。その仕事、俺達メッツァトルに任せな」

 またこの人はリーダーでもないのに勝手にそんなことを……しかしこの救いの言葉に感動したフービエさんは座っているドラーガさんの前に跪き、彼の両手を握って涙を流した。

「ありがとう……ありがとうございます! どうか、どうかテューマ達を助けてください。最初から、魔族なんかと手を組むべきじゃなかった……ドラーガさん、あなたを信頼します。どうかテューマ達を!!」

「俺を信用するな。そういうのはアルグスの仕事だ」

 この人どこまでアレなんだ。自覚してるだけアレだけど。

 ともかく私達はフービエさんの依頼を受けることにして、イリスウーフさんの冒険者登録をしてから天文館を後にした。彼女は荷物運びポーターだ、と説明すると特に兵種クラス判定もなくすんなり受け入れられた。

 それにしてもよかった。思っていたような荒事にはならなくて。とはいうものの、これから大変だ。フービエさんの依頼、ドラーガさんは「裏は無い」と言っていたけれど、彼女自身に裏は無くても周りの人までそうとは限らない。

 具体的に言えばセゴーさんや七聖鍵がダンジョンに私達を誘き出して始末しようと考えてる可能性もある。そんなことを考えながら歩いていると、天文館を出て数メートルのところで私達の前に立ちはだかる人影があった。

「依頼を受けたのか」

 短く要点だけを尋ねる言葉。

 私達の前に立ちはだかったのはアルグスさんと同じくらいの細身のグレーの髪の男性。いわゆる忍び装束で、覆面なんかはしていないけど腰には短い曲刀を下げているニンジャスタイル。

「そうだが、何か?」

 アルグスさんがそう答えると男性の眉間に少し皺が寄った気がした。

「悪い事は言わない。手を引いてカルゴシアから出て行け。その方が流れる血は少なくて済む」

「唐突に何を……そもそもあんたは何者だ」

 アルグスさんの言うとおり唐突が過ぎる。何の説明もなく「町から出て行け」なんて。
 ……それにしてもこの人、どこかで見たことがあるような……こんなイケメンなら忘れるはずないと思うんだけど。

「俺は、七聖鍵の“霞の”イチェマルクだ」

 霞……思い出した。クラリスさんを倒した後突然霞とともに現れたあの変態だ!! 全裸のインパクトに押されて顔を見ていなかった!!

「従わないというのなら……」

 空気が変わった。イチェマルクさんの立ち姿は変わっていないが、しかし殺気が滲み出る。まさか、こんなところでいきなり刃傷沙汰に及ぶつもり? 七聖鍵のリーダーのガスタルデッロさんですらそういった気配は見せなかったのに。

 その刹那。私にはほとんど目視できなかったけれど、イチェマルクさんは左足を引いて半身になり、右手を腰の小太刀に素早くかける。いや、かけようとしていた、のだと思う。

 しかし、その手が柄を握ることは無かった。

「いや~、あなたが七聖鍵の! お噂はかねがね!」

 アルグスさんも攻撃に備えようと半身になろうとしていたが、それよりも素早く動く物があった。

 私達の間に割って入ったのはなんとドラーガさん。イチェマルクさんの右手は小太刀の柄にかけられることなく、吸い込まれるようにドラーガさんの手のひらにがっちりと握られ、二人は固い握手を交わしていた。

「ご忠告痛み入る。七聖鍵にもあなたみたいに優しい人がいてほっとしております。これを機に是非お近づきに!!」

「くっ……は、放せ!!」

 戸惑った表情のイチェマルクさんがドラーガさんの手を振りほどいて距離を取る。もはや完全に気を削がれてしまったようで、すでに殺気を放ってはいない。


― 無刀新陰流 かんぬき

― 人の手は 互いを傷つけるためではなく その手を取り合うためにある

― 機先を制し 固く取り合ったその手は もはや得物を手に取ること此れあたわず

― 先んじたその手は充分に相手の注意を引き 本能により得物よりもその手に引き寄せられる


(なんてことだ……凄まじく速い抜刀だった……まさか町中で剣を抜こうとするとは。
 こんな場所で先に剣を抜くことは出来ない。危うく先手を取られるところだったが……
 確かに「握手」なら先んじて手を取れる。今回ばかりはドラーガに助けられたな)

「そ、その……イチェマルクさん、忠告はありがたいんですが、唐突にそんなこと言われても」

 何か考え事をしているアルグスさんの前に出て私はイチェマルクさんに話しかける。しかし私が視界に入ると、イチェマルクさんは目を見開き、呆然とした表情で私に言葉をかける。

 しかしその口から放たれた言葉は、全く私の言葉とは無関係なものだった。

「俺と……結婚してくれ」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。 彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。 しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在…… 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...