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第2章 冒険者達
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まあぶっちゃけて言ってだ、アンススに決定権を持たせたのは間違っていたと自分でも分かっている。何でそんな判断をしちゃったんだろう、俺。
それはそれとしてだ。
酷い匂いだ。
俺達三人プラス暫定伯爵フェルネッドの目の前に現れたのはさっきイルウとガールズトークをしてた(多分)四天王のブラックモア。それとそいつの連れてるデカいモンスター。
骸骨は匂いはないだろうから多分このデカいのが臭いんだな。もしかするとアンデッドか? 体中に縫ったような跡がある継ぎはぎの身体から腐臭が漂ってくる。
「フレッシュゴーレムか……厄介ね」
フレッシュ? あんまり新鮮そうには見えないけどな。
※Flesh(肉)ゴーレム。死体の肉を継ぎ合わせて作られたゴーレム。
「先に言っておきますが、こんな狭いところで聖剣は使えませんヨ。ダンジョンが崩れてみんな下敷きになりますからネ」
大分前に抜いておいたアヌスカリバーを構えた俺にブラックモアがそう言い放った。しかし確かにそう言われてみればそうだ。カルアミルクの時みたいな衝撃波を出したら、みんな生き埋めになっちまう。
「とりあえず逃げるぞい!」
くっ、また主導権をアスタロウに握られてしまった。しかし仕方ないと言えば仕方ないか。アヌスカリバーが使えないんじゃどうしようもない。
というか、主導権を持っているがアスタロウもまだ冒険者一日目の初心者だろう。という事でベテラン冒険者のアンススの方に視線を送る。
「フレッシュゴーレムはアンデッドの技術を利用して作られている。体液が粘膜や傷口に触れるとアンデッド化する危険性がある」
走りながらの解説ありがとう。なんか、こう……ベテランの冒険者みたいだ。
「とりあえず出口に向かって逃げよう。目的は達成したし、退却だ」
俺は何とかして存在感を出すために当たり前の発言をする。アヌスカリバーが使えないと正直俺の個性って埋没するからな。
ちらりと後ろを見るがゴーレムはそれほど早いスピードで追ってはこれないようだ。
というか、なんか……やる気あんのかあいつ。ちんたらしやがって。アンデッドって皆あんな歩みが遅いもんなのか。あのブラックモアって奴も魔王軍の四天王の一人ってんならもっと追跡に適した配下とかいないもんなのかね?
ちらりと、今度は俺は走っているフェルネッド伯の後ろ姿を見る。
結局アンススがこいつを怪しんでたのは何の根拠もない「髭の有り無し」だったみたいだが、それだけだろうか? アンススは確かにアホだけど、動物的勘は優れている、と、俺は思ってる。多分。きっと。
でもまあ……たしかに常識はずれのバカではあるんであんまり期待はしないで欲しい。俺の言ってることにもそれほど根拠があるわけじゃない。
曲がりくねったダンジョンの道。早いペースで走っている俺達の視界にはもうフレッシュゴーレムは映っていない。足音はまだ聞こえてくるから追っては来ているようだが、よほどの大ポカをしない限り追いつかれることはないだろう。
「アスタロウ、出口まではまだかかるか?」
「もう少しじゃ」
それほど大きなダンジョンじゃない。出口も近い。脱出さえすれば考える時間はいくらでもあるだろう。そのうち俺にも見覚えのあるダンジョン内の風景が見えてきた。
そうだ、ここはダンジョンに入ってまだ間もない頃、イルウが壁尻してた辺りだ。見覚えのある壁穴が見える。結構小さい穴だな。よくこんな小さな穴を通ろうと思ったなあのバカは。
まあバカと言えばうちのバカも負けてはいないけど。
「あっ、ケンジくん、この穴通れそう! 近道できるはず!!」
えっ、ちょっと待ておい。
嘘だろ。
嘘だろおい。大ポカしやがった。
「ぐっ……ぬ、抜けない」
バカってのはみんな同じ行動をとるもんなのか。
アンススが [ステータス:壁尻] になった。
いや……これは俺のミスだ。こいつのアホっぷりを知ってたら事前に予測できたことだ。事前に「この先にギリギリ通れそうな穴があるけど絶対に入るなよ」と忠告しておくべきだった。
まあ忠告してもなんだかんだで入りそうな気がしないでもないけど。
「すまない、ケンジくん。どうやら敵の罠にはまってしまったようだ」
罠じゃねえよ。
敵もハマってたよその穴。
「どうやら、私はここまでだ。元々別の依頼を受けてこのダンジョンに来てただけなんだ。私のミスに君が付き合うことはない。先に行くんだ」
確かにその通りだが、こんな状態のアンススを見捨てて逃げるなんて……
「短い間だったけど、君と冒険が出来て、本当に楽しかったよ。ありがとう」
「そんなこと……」
まるで諦めきったような言葉だ。他人事のような言い方に、俺は腹が立ってきた。
「そんなこと言うなよ!! 短い間でも、俺達はプフッ、仲間だろう! 仲間を見捨てる事なんかできない!!」
「何で今笑った」
「え?」
何でって、ねえ。
「笑ってないスけど」
「いや笑っただろ」
……だってさ?
ケツが喋ってんだよ?
凄くまじめなシーンだってのは分かるんだけどさ。
壁のこっち側にいる俺達には今アンススのケツしか見えてないわけで。
ケツがなんか真面目なこと言ってるよおい。
「私が壁にハマったのがそんなにおかしいか!!」
「おかしくないス……」
おかしいに決まってんだろバカが。
とはいえ、だ。
まだ足音が聞こえる。姿は見えないが。ここでフレッシュゴーレムを迎え撃たないといけない。俺はアヌスカリバーを構える。
こいつの出力の押さえ方はよく分からないが、軽く振ればダンジョンの損傷は最小限で済むだろうか。身動きの取れないアンススを守らなければ。
「ケンジくん、まさか迎え撃つつもりか? やめろ、無謀だ!」
流石にここで仲間を見捨てたらそれはもう勇者でも何でもないぜ。
しかし、アレだな。
なかなか来ないな。足音は近くなってきてる気がするんだが。待てど暮らせど敵は来ないぞ。足音はするから諦めたわけじゃないんだろうけど。こりゃ一体どういうことだ。
「キャアアアッ!!」
「しまった、そっち側か!!」
それはそれとしてだ。
酷い匂いだ。
俺達三人プラス暫定伯爵フェルネッドの目の前に現れたのはさっきイルウとガールズトークをしてた(多分)四天王のブラックモア。それとそいつの連れてるデカいモンスター。
骸骨は匂いはないだろうから多分このデカいのが臭いんだな。もしかするとアンデッドか? 体中に縫ったような跡がある継ぎはぎの身体から腐臭が漂ってくる。
「フレッシュゴーレムか……厄介ね」
フレッシュ? あんまり新鮮そうには見えないけどな。
※Flesh(肉)ゴーレム。死体の肉を継ぎ合わせて作られたゴーレム。
「先に言っておきますが、こんな狭いところで聖剣は使えませんヨ。ダンジョンが崩れてみんな下敷きになりますからネ」
大分前に抜いておいたアヌスカリバーを構えた俺にブラックモアがそう言い放った。しかし確かにそう言われてみればそうだ。カルアミルクの時みたいな衝撃波を出したら、みんな生き埋めになっちまう。
「とりあえず逃げるぞい!」
くっ、また主導権をアスタロウに握られてしまった。しかし仕方ないと言えば仕方ないか。アヌスカリバーが使えないんじゃどうしようもない。
というか、主導権を持っているがアスタロウもまだ冒険者一日目の初心者だろう。という事でベテラン冒険者のアンススの方に視線を送る。
「フレッシュゴーレムはアンデッドの技術を利用して作られている。体液が粘膜や傷口に触れるとアンデッド化する危険性がある」
走りながらの解説ありがとう。なんか、こう……ベテランの冒険者みたいだ。
「とりあえず出口に向かって逃げよう。目的は達成したし、退却だ」
俺は何とかして存在感を出すために当たり前の発言をする。アヌスカリバーが使えないと正直俺の個性って埋没するからな。
ちらりと後ろを見るがゴーレムはそれほど早いスピードで追ってはこれないようだ。
というか、なんか……やる気あんのかあいつ。ちんたらしやがって。アンデッドって皆あんな歩みが遅いもんなのか。あのブラックモアって奴も魔王軍の四天王の一人ってんならもっと追跡に適した配下とかいないもんなのかね?
ちらりと、今度は俺は走っているフェルネッド伯の後ろ姿を見る。
結局アンススがこいつを怪しんでたのは何の根拠もない「髭の有り無し」だったみたいだが、それだけだろうか? アンススは確かにアホだけど、動物的勘は優れている、と、俺は思ってる。多分。きっと。
でもまあ……たしかに常識はずれのバカではあるんであんまり期待はしないで欲しい。俺の言ってることにもそれほど根拠があるわけじゃない。
曲がりくねったダンジョンの道。早いペースで走っている俺達の視界にはもうフレッシュゴーレムは映っていない。足音はまだ聞こえてくるから追っては来ているようだが、よほどの大ポカをしない限り追いつかれることはないだろう。
「アスタロウ、出口まではまだかかるか?」
「もう少しじゃ」
それほど大きなダンジョンじゃない。出口も近い。脱出さえすれば考える時間はいくらでもあるだろう。そのうち俺にも見覚えのあるダンジョン内の風景が見えてきた。
そうだ、ここはダンジョンに入ってまだ間もない頃、イルウが壁尻してた辺りだ。見覚えのある壁穴が見える。結構小さい穴だな。よくこんな小さな穴を通ろうと思ったなあのバカは。
まあバカと言えばうちのバカも負けてはいないけど。
「あっ、ケンジくん、この穴通れそう! 近道できるはず!!」
えっ、ちょっと待ておい。
嘘だろ。
嘘だろおい。大ポカしやがった。
「ぐっ……ぬ、抜けない」
バカってのはみんな同じ行動をとるもんなのか。
アンススが [ステータス:壁尻] になった。
いや……これは俺のミスだ。こいつのアホっぷりを知ってたら事前に予測できたことだ。事前に「この先にギリギリ通れそうな穴があるけど絶対に入るなよ」と忠告しておくべきだった。
まあ忠告してもなんだかんだで入りそうな気がしないでもないけど。
「すまない、ケンジくん。どうやら敵の罠にはまってしまったようだ」
罠じゃねえよ。
敵もハマってたよその穴。
「どうやら、私はここまでだ。元々別の依頼を受けてこのダンジョンに来てただけなんだ。私のミスに君が付き合うことはない。先に行くんだ」
確かにその通りだが、こんな状態のアンススを見捨てて逃げるなんて……
「短い間だったけど、君と冒険が出来て、本当に楽しかったよ。ありがとう」
「そんなこと……」
まるで諦めきったような言葉だ。他人事のような言い方に、俺は腹が立ってきた。
「そんなこと言うなよ!! 短い間でも、俺達はプフッ、仲間だろう! 仲間を見捨てる事なんかできない!!」
「何で今笑った」
「え?」
何でって、ねえ。
「笑ってないスけど」
「いや笑っただろ」
……だってさ?
ケツが喋ってんだよ?
凄くまじめなシーンだってのは分かるんだけどさ。
壁のこっち側にいる俺達には今アンススのケツしか見えてないわけで。
ケツがなんか真面目なこと言ってるよおい。
「私が壁にハマったのがそんなにおかしいか!!」
「おかしくないス……」
おかしいに決まってんだろバカが。
とはいえ、だ。
まだ足音が聞こえる。姿は見えないが。ここでフレッシュゴーレムを迎え撃たないといけない。俺はアヌスカリバーを構える。
こいつの出力の押さえ方はよく分からないが、軽く振ればダンジョンの損傷は最小限で済むだろうか。身動きの取れないアンススを守らなければ。
「ケンジくん、まさか迎え撃つつもりか? やめろ、無謀だ!」
流石にここで仲間を見捨てたらそれはもう勇者でも何でもないぜ。
しかし、アレだな。
なかなか来ないな。足音は近くなってきてる気がするんだが。待てど暮らせど敵は来ないぞ。足音はするから諦めたわけじゃないんだろうけど。こりゃ一体どういうことだ。
「キャアアアッ!!」
「しまった、そっち側か!!」
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