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第5章 ソロモンの悪魔
巨大な気
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「なあアスタロウ、これ本当に魔国グラントーレに近づいてんのか?」
とある町の宿屋。その一階に併設されているトラットリアで俺は枝豆みたいなものをほおばりながら訊ねた。
「なんでそんなことを気にするんじゃ。グラントーレに行かずにどこに行くと言うんじゃ」
当然、と言わんばかりにアスタロウは答えるが、しかし意外なところに落とし穴ってのはあるもんだ。当たり前だと思うところを敢えて疑う。と、いうのも俺にはそう思う理由があったからだ。
「街道を通ってるのかどっか山でも迂回してんのか分からんけど同じ方向にまっすぐ進んでるように感じないんだよな。なんか遠回りしてねえか?」
「そんなことをして何の得があると言うんじゃ。儂らは早いところ何百年も続くこの人と魔族の戦争を終わらせたい。それに勝る目的があると思うのか?」
とは言うもののなあ。そんな数百年も続いてる戦争なんかもう今更どうでもよくなってんじゃないの? 日本でも応仁の乱とか終盤は「なんで俺ら戦ってんだ?」状態だったらしいし。
それに目的ってんならひとつ思い当たるところがある。
「俺を利用して国が介入しづらい問題を解決させる、とか」
「…………」
なんで黙るんだよ。
「地方自治色の強い貴族領出好き放題やる奴を懲らしめるために勇者を送り込んで問題を解決させる、とかさ。例えばフェルネッド領でやったみたいにさ」
なんで喋らねえんだよ。ビンゴか。だいたいずっと怪しいとは思ってたんだよ。いきなり王女がギルドに現れたこととか、手紙が俺を名指しして依頼してたこととかよ。
その後のメルポーザとかケツの穴とかは遭遇したのは偶然かもしれんけど、なんか本来の目的以外の仕事ばっかりやらされてる気がするんだよな……
「なんか、やる気無くすわぁ……」
「ま、待ってくれ。正直に言おう。『この際だから最大限利用してやろう』という気持ちはあると言えば、ある」
やっぱあるんじゃねえか。
「だがもちろん最優先は魔族対策だし、グラントーレももう目と鼻の先じゃ。その証拠に……」
「その証拠に?」
なんか証拠になるようなもんがあるっつうのかよ。邪悪な勃気でも近づいてきてるっていうのかよ。
なんて心の中で毒づいていたところ、背後にこれまでに感じたことのないほどの巨大な勃気を感じた。
身動きが取れない。ヘタに動けばヤられる……直感的にそう思った。脂汗が額を伝って頬に流れる。恐怖だ。
皆さんも想像してみて欲しい。
何者かが、自分のすぐ後ろで、ギンギンに勃〇している。
恐怖以外の何物でもないだろう。
「……その証拠に、すぐ後ろに魔族がおる」
流れる脂汗を拭うこともできずに、俺はゆっくりと後ろに振り向いた。
「やっ、ケンジ。久しぶり!」
見覚えのある顔。
外見的には小柄な少女にしか見えない。初雪の様な白く流れる髪に、対照的な褐色の肌。細長く尖った耳と少女の特色を色濃く残した華奢な体。
魔王軍四天王の一人、ダークエルフの“魔眼の”イルウだ。
動けないでいる俺の様子に気付いてか気付かずか、彼女は笑顔のまま隣にストンと座った。
俺が動けない理由は、彼女の“魔眼”にやられたからではない。その圧倒的な『勃気』に気圧されての事だ。圧倒的なその力の前に、「この雄には敵わない」と思い知らされたからだ。
単純な気の大きさならあのドラゴンの方が上だろうが、しかし種族差をも超える圧倒的な強さを感じ取ったのだ。おそらくは、パウンド・フォー・パウンド(※)ならば、こいつは誰にも負けない、と。
※パウンド・フォー・パウンド:主にボクシングに於いて語られる「もしも体重、階級差がない場合、誰が最強であるか」を指す称号。又はその仮定。
「ねぇ、ケンジ……こんな小さな村でまた出会えるなんて、まるで夢みたい……」
隣に座ったイルウは頬を紅く染めながら、体をくねらせて乙女のように話しかけてくる。しかしその言葉を俺は素直に受け止めることができなかった。
そう。あのダンジョンでであった頃の俺とは違う。
俺は成長したんだ。今は気を感じ取ることができる。男でしか発し得ない、あの気を俺は確かに、イルウから感じ取ったのだ。
言うべきか、言わざるべきか。逡巡したものの、しかしこれを彼女に伝えずに騙された振りを続けるのは信義にもとる行為だ。尤も、彼女には「騙そう」などという気持ちはないのかもしれない。
俺は重い口を開いた。
「イルウ……今の俺には、分かるんだ。君の……本当の性別が」
紅く染まっていた頬が血の気が引いたようにその色付きを控えた。同時にあれほど主張していた勃〇も消滅していった。
「え……今気づいたの?」
どゆこと?
前回会った時はまだ勃気を検知する能力がなかったけど、今は能力に目覚めたから分かるっていうだけなんだけど。すでにバレてると思ってたって事? なぜ?
「てっきり私、この間のダンジョンで気付いてたものかと……だって」
あ、なんか嫌な予感がしてきたな。
「だってケンジ、私のエクスカリバーを貰ってくれるって言ってたじゃない」
ごめん、何の話かよく分からないな。エクスカリバーってなんのことかな。
「てっきり気付いててやってたのかと。私のエクスカリバーをヌいて、顔面に思い切り……」
「その話やめよっか」
よく分からないし理解できないけど、その先は聞きたくないな。聞けば現実が確定してしまう。俺は君の股間からエクスカリバーを抜こうとした。なんか知らんけど白い液が飛び出てきた。それで十分じゃないかね? それ以上何が必要かね? その事実を明かすことで誰か幸せになるのかね?
「実を言うと、儂も初めて会った時から気付いてはおった」
おっと、アスタロウが会話に参戦してきたぞ。なんだ、こいつ最初から気付いてたのか。でも最初王都であった時って本当にただの美少女にしか見えなかったよな? どこで気付いたんだ?
「この者は前立腺を持つ者特有のオーラを発していたからな。見る者が見れば一目瞭然じゃ」
前立腺を持つ者特有のオーラ? すいません新しい概念を展開するのやめて貰えます?
「相当に前立腺を鍛えこまなければあれほどのオーラは出せぬ。ただらぬ使い手じゃ……」
そっかぁ……前立腺鍛えてるのかぁ……
とある町の宿屋。その一階に併設されているトラットリアで俺は枝豆みたいなものをほおばりながら訊ねた。
「なんでそんなことを気にするんじゃ。グラントーレに行かずにどこに行くと言うんじゃ」
当然、と言わんばかりにアスタロウは答えるが、しかし意外なところに落とし穴ってのはあるもんだ。当たり前だと思うところを敢えて疑う。と、いうのも俺にはそう思う理由があったからだ。
「街道を通ってるのかどっか山でも迂回してんのか分からんけど同じ方向にまっすぐ進んでるように感じないんだよな。なんか遠回りしてねえか?」
「そんなことをして何の得があると言うんじゃ。儂らは早いところ何百年も続くこの人と魔族の戦争を終わらせたい。それに勝る目的があると思うのか?」
とは言うもののなあ。そんな数百年も続いてる戦争なんかもう今更どうでもよくなってんじゃないの? 日本でも応仁の乱とか終盤は「なんで俺ら戦ってんだ?」状態だったらしいし。
それに目的ってんならひとつ思い当たるところがある。
「俺を利用して国が介入しづらい問題を解決させる、とか」
「…………」
なんで黙るんだよ。
「地方自治色の強い貴族領出好き放題やる奴を懲らしめるために勇者を送り込んで問題を解決させる、とかさ。例えばフェルネッド領でやったみたいにさ」
なんで喋らねえんだよ。ビンゴか。だいたいずっと怪しいとは思ってたんだよ。いきなり王女がギルドに現れたこととか、手紙が俺を名指しして依頼してたこととかよ。
その後のメルポーザとかケツの穴とかは遭遇したのは偶然かもしれんけど、なんか本来の目的以外の仕事ばっかりやらされてる気がするんだよな……
「なんか、やる気無くすわぁ……」
「ま、待ってくれ。正直に言おう。『この際だから最大限利用してやろう』という気持ちはあると言えば、ある」
やっぱあるんじゃねえか。
「だがもちろん最優先は魔族対策だし、グラントーレももう目と鼻の先じゃ。その証拠に……」
「その証拠に?」
なんか証拠になるようなもんがあるっつうのかよ。邪悪な勃気でも近づいてきてるっていうのかよ。
なんて心の中で毒づいていたところ、背後にこれまでに感じたことのないほどの巨大な勃気を感じた。
身動きが取れない。ヘタに動けばヤられる……直感的にそう思った。脂汗が額を伝って頬に流れる。恐怖だ。
皆さんも想像してみて欲しい。
何者かが、自分のすぐ後ろで、ギンギンに勃〇している。
恐怖以外の何物でもないだろう。
「……その証拠に、すぐ後ろに魔族がおる」
流れる脂汗を拭うこともできずに、俺はゆっくりと後ろに振り向いた。
「やっ、ケンジ。久しぶり!」
見覚えのある顔。
外見的には小柄な少女にしか見えない。初雪の様な白く流れる髪に、対照的な褐色の肌。細長く尖った耳と少女の特色を色濃く残した華奢な体。
魔王軍四天王の一人、ダークエルフの“魔眼の”イルウだ。
動けないでいる俺の様子に気付いてか気付かずか、彼女は笑顔のまま隣にストンと座った。
俺が動けない理由は、彼女の“魔眼”にやられたからではない。その圧倒的な『勃気』に気圧されての事だ。圧倒的なその力の前に、「この雄には敵わない」と思い知らされたからだ。
単純な気の大きさならあのドラゴンの方が上だろうが、しかし種族差をも超える圧倒的な強さを感じ取ったのだ。おそらくは、パウンド・フォー・パウンド(※)ならば、こいつは誰にも負けない、と。
※パウンド・フォー・パウンド:主にボクシングに於いて語られる「もしも体重、階級差がない場合、誰が最強であるか」を指す称号。又はその仮定。
「ねぇ、ケンジ……こんな小さな村でまた出会えるなんて、まるで夢みたい……」
隣に座ったイルウは頬を紅く染めながら、体をくねらせて乙女のように話しかけてくる。しかしその言葉を俺は素直に受け止めることができなかった。
そう。あのダンジョンでであった頃の俺とは違う。
俺は成長したんだ。今は気を感じ取ることができる。男でしか発し得ない、あの気を俺は確かに、イルウから感じ取ったのだ。
言うべきか、言わざるべきか。逡巡したものの、しかしこれを彼女に伝えずに騙された振りを続けるのは信義にもとる行為だ。尤も、彼女には「騙そう」などという気持ちはないのかもしれない。
俺は重い口を開いた。
「イルウ……今の俺には、分かるんだ。君の……本当の性別が」
紅く染まっていた頬が血の気が引いたようにその色付きを控えた。同時にあれほど主張していた勃〇も消滅していった。
「え……今気づいたの?」
どゆこと?
前回会った時はまだ勃気を検知する能力がなかったけど、今は能力に目覚めたから分かるっていうだけなんだけど。すでにバレてると思ってたって事? なぜ?
「てっきり私、この間のダンジョンで気付いてたものかと……だって」
あ、なんか嫌な予感がしてきたな。
「だってケンジ、私のエクスカリバーを貰ってくれるって言ってたじゃない」
ごめん、何の話かよく分からないな。エクスカリバーってなんのことかな。
「てっきり気付いててやってたのかと。私のエクスカリバーをヌいて、顔面に思い切り……」
「その話やめよっか」
よく分からないし理解できないけど、その先は聞きたくないな。聞けば現実が確定してしまう。俺は君の股間からエクスカリバーを抜こうとした。なんか知らんけど白い液が飛び出てきた。それで十分じゃないかね? それ以上何が必要かね? その事実を明かすことで誰か幸せになるのかね?
「実を言うと、儂も初めて会った時から気付いてはおった」
おっと、アスタロウが会話に参戦してきたぞ。なんだ、こいつ最初から気付いてたのか。でも最初王都であった時って本当にただの美少女にしか見えなかったよな? どこで気付いたんだ?
「この者は前立腺を持つ者特有のオーラを発していたからな。見る者が見れば一目瞭然じゃ」
前立腺を持つ者特有のオーラ? すいません新しい概念を展開するのやめて貰えます?
「相当に前立腺を鍛えこまなければあれほどのオーラは出せぬ。ただらぬ使い手じゃ……」
そっかぁ……前立腺鍛えてるのかぁ……
応援ありがとうございます!
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