武装聖剣アヌスカリバー

月江堂

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最終章 手を取り合って

妄想

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 遠くから声が聞こえる。
 
「では、そちら側の先端をお前の中に……」
「ちょっと待って……これ、意外と太い」
「では始めるぞ」
「待って待って、もうちょっと奥まで入れてから……」
「お前、ケツに何つけてんだそれ、反則じゃないのか」
「これは取れんのじゃ」
 
 聞こえない。俺たちには聞こえない。あれはきっとどこか遠くの、俺たちには関係のない話だ。
 
「行こう、アンスス」
 
 仲間の犠牲を乗り越えて、俺たちは行くんだ。あいつも言っている。「俺に任せて、ここは進め」と。俺には聞こえる。きっとそういう気持ちで、アスタロウはあの変態の挑戦を受けたんだろう。変態同士潰しあってくれ。できることなら共倒れしてくれ。
 
 俺たちは進む。仲間の死を乗り越えて。
 
 魔王の居室と予想される場所。そこを目指して二人の足音が早いペースで響く。
 
 しかしそんな二人の前に新たな影が立ちはだかる。
 
「仲間を見捨てて前に進むとは思わなかったぜ」
 
 俺たちの目の前に現れたのは若い魔族の男性。トライアヌスが来ているということはこいつもいるんじゃないかとは思っていたが、やっぱりいたか。
 
「フッ!!」
 
 アヌスカリバーは抜身の状態で携えていた。魔族四天王の一人、カルアミルク。俺は奴の姿が目に入った瞬間横薙ぎに剣を打ち付けたが、紙一重で躱され、後退された。
 
「おっと、熱烈な歓迎だな。しかしアルトーレでやった時みたいに全力の攻撃じゃないと俺は倒せないぞ」
 
 それは当然こっちも分かっている。しかし。
 
「しかしこんな場所で全力でそれを振れば城が崩れてお前もお陀仏だがな」
 
 それが分かっているから堂々と姿を現したのだろう。
 
「ちっ、何の用だってんだ。俺は魔王と話がしたいんだよッ」
 
「まあそういうな。魔王様の前に俺とお話ししようぜ。久しぶりじゃないか、最近元気にしてたか?」
 
 くそ、なんだこいつ? 時間稼ぎでもしてるのか?
 
「ふふふ、どうやら本当に分かっていないようだな。俺たちが用があるのは勇者のお前じゃない、あのおっさんの方なんだよ」
 
 何言ってんだこいつ。
 
「アルトーレ先代国王、アスタロウ。いや、地獄の大公爵、アスタロト……」
 
 マジで何言ってんだこいつ。
 
「フハハハハ! どうやら本当に分かっていなかったようだな。あの男こそが、我らが邪神に嘆願して呼び寄せた最強の悪魔、アスタロトなんだよ!!」
 
 いやホントなに言ってんの。病院行け。頭のだぞ。
 
「なんだその顔は。まだ状況を理解していないようだな……いやどういうこと? ホントに理解してないの?」
 
「お前が一人でわけわかんないこと言ってるだけだろうが。お前の頭がおかしいってのは理解してるよ」
 
 しばらくの間二人に沈黙の時が流れる。順序だててわかりやすく話をしてくれ。
 
「えと……ね? この世界には女神と邪神ってのがいてね」
 
 そこらへんは分かってるよ。俺は女神に召喚されたんだから。俺が聞きたいのはそういうことじゃねえんだよ。
 
「……で、邪神に嘆願してね? ソロモン72柱の悪魔っていうのを呼んでるだけどさ、アスタロトってのがもう何百年も行方不明な状態でさ……」
 
「それホントにいんの?」
 
「は?」
 
「は? じゃねえよ。それ本当の話なのかって聞いてんだよ。ソロモンの72柱なんて本当にいんのか? 俺は一度も見てねえぞ」
 
「は? え? だって、お前の目の前で……」
 
「だから! 俺は結局それ一度も見てねえんだよ! 本当に召喚なんかしたのか?」
 
 前回アスタロウが攫われたとき、ソロモンの72柱の悪魔を召喚してなんだのとか言ってたけど、待たせまくったら怒って帰ったとかなんだとかで、結局一度も見てねえんだよな。こいつただの大ぼら吹きなんじゃないのか。
 
「いや、でもな? アスタロトの捜索は魔王様から直々に命じられてるからね?」
 
「それも怪しいんだよ。お前俺にぶっ飛ばされて魔王に謹慎させられてるだけなんじゃねえの? お前がその事実に耐えられずにアスタロトを探すとかわけのわからん妄想話でっちあげてるだけだろ」
 
「お、俺がそんな意味のないことするわけねーだろ!!」
 
「だからさ。左遷されたっていう事実に耐えられずに、ありもしない命令を実行しようとして、存在するはずのない悪魔を探し回ってるのが今のお前なんだよ……」
 
「え……」
 
 なんて顔をしやがるこの魔族。
 
「え? だって……え?」
 
 捨てられた仔犬かお前は。
 
「いいんだ、カルアミルク。お前に敵などいない。誰にも、敵なんていないんだ」
 
 俺は優しくカルアミルクの肩を抱き寄せた。
 
「もういいんだ。つらかったんだろう」
 
 よし、落ちたッ!! 魔族なんて言ってもこうなってみればかわいいもんだぜ。そもそも三百年もアルトーレで国王やってた奴が悪魔のわけがねえだろうが。バカかこいつは。
 
「もういいんだ、カルアミルク。一緒に魔王様に話を聞きに行こう。そうすれば全てはっきりする」
 
 バカと話をするときは否定しちゃいけないんだよな。とにかく。これで魔王の部屋までの道のりを邪魔する者はいなくなった。むしろ細かい場所は分かってないから案内してもらおう。
 
「大丈夫。大丈夫だから。俺がついてるから」
 
「うう……」
 
 なんかこいつ梅干しみたいなしわしわの顔してるな。こんな奴だっけ? まあいい。カルアミルクの奴は相当精神的に参っているようで足取りもおぼつかないので肩を貸してやる。
 
「ちょっと!」
 
 なんだ? アンススが俺たちを呼び止める。まさかついさっきまで敵だった奴を信用するな、とでもいうんだろうか。せっかくいい流れができてるんだから止めないでくれ。こういうのはなんかのきっかけで冷静になっちゃうとダメなんだよ。水を差すな。
 
「あなた、一人で歩けるでしょ! ケンジくんにベタベタしないで」
 
 え? そっち? それ今どうでもよくない? そんなどうでもいいことやってるうちに横やりが入ったら困るんだけど。ただでさえ変質者と魔王軍の四天王にすでに見つかってる状態だっていうのに。
 
「フハハハハ、魔王様の部屋には行かせはせんぞ」
 
 ほら来た。しかも後ろから声が聞こえてきたぞ。非常に嫌な予感がする。振り返ってみると、やはりいたのはさっきのフクタビアヌス。アスタロウはどうなったんだよ。
 
「アナル相撲に勝利したのは私だ。もはや人間どもに希望の光はない」
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