【完結】技術部アルファの想い人

笹川流宇

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番-1

 恵の実家を出発してから二人は無言だったが、母に隠し事がなくなったためか、恵はとても穏やかな表情をしていた。一番大事な家族から祝福されて嬉しかったのだろう。
 この沈黙は気まずさではなく、この先の期待を増幅させる心地の良い静けさだ。
 結婚を前提に番になっても良いと許しを得た。二人を阻むものは何もなかった。
 藤江に狙われていても、多都希と番になってしまえば、藤江にとって恵はオメガとしての価値を失うどころか、番以外のアルファやベータが恵に下心を持って触れようとすれば、相手は必ず眩暈や嘔吐といった不調をきたす。番の上書きができないのは、こういった理由もあるのだ。
 多都希と恵の希望が恵の身を守ることにも繋がるともなれば、早ければ早いほど良い。


 寄り道することなくたどり着いたホテルは、南国のような雰囲気があり高級ながら開放感のある場所だった。
 多都希は海外在任中に系列のホテルを出張利用したが、行楽目的で訪れるのは初めてだ。恵も気に入ってくれるといいのだが、どう思っただろうか。
「うわ、建物の中にココナッツが生えてる……あっちには、大きい滝⁉」
 あちこち視線を飛ばして逐一感動している様子を見るに、喜んでくれてはいるようだ。

 通常カウンターではなく個室に案内された部屋でチェックインを済ませて、食事の提供などについての最終確認も終える。
 エグゼクティブスイートオーシャンビューは名の通り、海が一望できるこのホテルで最上級に見晴らしの良い部屋である。
 白と青のコントラストが美しい部屋に入るなり、恵は窓に張り付いて目を輝かせる。
「すごい……海しか見えない……」
 同居初日、自宅の窓に張り付いて藤江の自宅を睨んでいた険しい表情とは雲泥の差だ。
 やはり穏やかに微笑んでいる姿が一番だと、多都希は後ろから恵を抱きしめる。
「部屋まで勝手に決めさせてもらったが、その様子だと気に入ったようだな」
「うん。海がとっても綺麗。遊園地の観覧車の中で見た光よりも、もっと眩しい」
「それは良かったが――」
 恵の視線を奪う海に嫉妬した多都希は、恵の肩を掴んでこちらを向かせる。
 瞳いっぱいに映る自分の顔はだらしなく緩んでいて情けないが、悪くないと思えた。
「待たせたな、恵」
「……うん」
 緊張した面持ちの恵は、か細い声で応える。
 両手を繋ぐと、清涼感のある石けんから甘いバニラへと香りが変化した。
 確実に番うために互いに抑制剤を抜いてきたので、体の芯がみるみる火照っていく。理性のあるうちに伝えたい言葉は星の数ほどあるのに、もう限界だ。
 多都希は飾らない言葉で想いを紡ぐ。
「恵、お前が好きだ。恋人も番も、どうか俺を選んでくれ」
「オレも塩谷さんが大好き……っ! 塩谷さんの恋人に、番になりたい」
 隙間なんてなくなるくらい強く抱きしめて、頬に手を添えると恵の瞳から海が消えた。
 何度もキスをして一たび見つめ合うと、磁石のようにまた唇が引き寄せらせる。深くなる口づけは、ひどく甘い味がして、夢中になって恵を求めた。
 息が続かなくなった恵は腰を抜かす。
「はあ、はぁ、はあ……っ」
「鼻で息してるか?」
「そん、なの、できなっ」
「これから慣れればいい」
「でも……鼻息当たるの恥ずかしい……」
「次第にそんなこと考えてる暇はなくなる」
 背中を支える腕に体重が掛かっても羽のように軽い。簡単に滅茶苦茶にされてしまいそうな体なのに、フェロモンが溢れてますます肌が柔らかくなっていく。アルファの本能は匂いが濃い場所を探す。多都希は恵の喉元のカラーを指でなぞった。

 なだれ込むようにベッドに恵の体を縫い付ける。明るい部屋でシャワーも浴びせずベッドに放り投げて申し訳ないと思うが、もう止まれなかった。
「ま、まって、んぅ……」
 自分が贈った洋服を一枚ずつ性急かつ丁寧に脱がし、露見した肌から赤い印を刻んでいく。
 誘惑されながら触れることができなかった胸の頂に吸いつくと、恵はびくびくと身体を震わせた。
「ああっ、あ、は、それ、やぁ……んっ」
「んな気持ちの良さそうな声だして、嫌はないだろ」
「だって、こんな声、しらない」
「俺はずっと聞きたかった」
「塩谷さん、引いていない……?」
「どこからどう見ても死ぬほど興奮してんだろ」
 熱を孕んだ腰に恵の手を誘導すると、恵は安心したようにふにゃっと笑う。
「よかった……」
「あー……たまんねぇな、めぐ」
 舌なめずりをした多都希は目を細めてにやける。そして恵の驚きごと飲み込んで赤い舌にしゃぶりついた。
 恵からすれば、多都希らしくない表情をしていたのだろう。鋼のような自制心で下心は奥底に隠していたので、恵に対して抱いていた劣情を真っ向からぶつけたことは一度もない。
 親指と中指を番ってピンと立つ乳首をこねると、恵の体が一段と熱くなった。
「ふっ、あぁ……、だめ、だめ、ちくび、やぁ、ん、んん~っ!」
「ずっと見せつけてたくせに」
「ふぅ、ぐ……ッ」
「声も我慢しなくていい、俺を求める声を聞かせてくれ」
「塩谷さんっ、あっ、は、んあッ」
「乳首、すげえビンビン。もう薄い寝巻は着れないな、めぐ」
「あ、ンあっ、あぁ……いじわる、言うなぁ!」
 強すぎる快感から逃げようとする恵は体を反転させて枕に顔を埋める。
 細い腰を掴んだ多都希は、恵の背中に口づけを落す。ふりふりと揺れ出す尻をぱっくり開くと、後孔からこぷっと愛液が溢れて来た。
「オレばっかり裸はいやだ……塩谷さんも、全部脱いでよ……」
 言われるまで窮屈な服の存在を忘れていた。乱雑にすべての服を脱ぎ捨てると、隣のベッドに飛ばした洋服を見て恵は少し残念そうな顔をした。
「服より本体のがいいだろ」
「今度巣作りする時は、パンツもくれる……?」
「一人きりのヒートはもう一生来ない。布より実物のがいいってわからせてやるよ」
 ヒートは一人で耐えるものという認識から塗り替えてやらねばならない。
 愛液を絡めた陰茎で会陰を擦りあげ陰嚢を押し上げる。
「ああぁ、ひあっ、んっ、んっ」
「これからのヒートも、生活も、人生も、ずっと一緒だ」
「しおやさんと、ずっとぉ……?」
「そうだ。恵と俺は、恋人になって、番になって、家族になるんだ」
「うれしい、うれしいよぉ、はやく……しおやさんと番になるぅ、かんで、かんでっ」
 発情のスイッチが切り替わった。恵の甘えた声とフェロモンが多都希の理性を刺激する。

 多都希はベッドサイドに置いていたカラーの鍵を手に取り、開錠した。全身にまとわりつくような、むわっとしたオメガフェロモンに包まれて細胞が沸き立つ。
 抑制剤なしのアルファとオメガは、こんなにも動物的になるのか。多都希は匂いの濃い場所に導かれるように舌を這わせ、重く硬くなった陰茎の先端を恵の後孔に擦りつける。
 恵の気持ち良さそうな声と、ちゅぷちゅぷと互いの体液が混ざる水音が聞こえて口角が自然と上がった。体が弾け飛んでしまいそうな熱に浮かされた多都希は囁く。
「好きだ、好きだ! 恵!」
 ずぶッと先端を挿し入れると、奥へ奥へと吸い込まれる。
「ああぁああ――……ッ‼」
「めぐ……っ、痛いか」
「き、きもち、きもちいぃ、ぁっあ、しおやさんの、はいってくる……んぁっは」
 泣いているが声色は悪くなさそうだ。表情を見たくとも、うなじを舐める舌は離れてくれない。繋がっている場所にぐっと体重をかけると、意図せず前立腺を押し潰してしまった。
「ん゙ぉ――ッ⁉」
 言葉にならない嬌声を上げた恵は体をピンと強張らせて、べしゃっとシーツに落ちた。
 ビクビクっと何度か大きく腰がはねて、恵が達したことがダイレクトに伝わってくる。腹に手を当てて下から抱えるように撫でると、自身の昂りが埋まっていることがより実感できた。
「いあぁ、あっ、ああっ! おなか外からごりごりしちゃ、っうぁ」
「ごめんな、めぐ……中がうねって、う、ぁ……気持ち良すぎる……」
「うぅ……よゆう、ないの?」
「全然ない」
「んぁ、ふへっ、いい……いいよぉ……。最近、ずっとじらされっぱなしだったから、いきなりじゃないし、しおやさんがおれに夢中なのぉ、うれしい……」
 達して正気が戻って来たのか、息も絶え絶えながら恵はしっかり受け答えに応じた。
「そう簡単に俺を許すなよ」
「ええ~、だってオレも好きだから、気持ちよくなって欲しいんだも、っん……はぁ、あっ」
 初めてはもっと優しく抱いてやりたかったが、ラット状態になった多都希にはもう理性が残っていなかった。

 繋がった場所から熱が混ざって境界がなくなる。激しい抽挿を繰り返す多都希は、四つん這いになった恵に覆いかぶさり、うなじを甘嚙みし続けていた。
「めぐ……いいか」
「うん、いいよぉ、きて……」
「めぐ、俺を選んでくれてありがとう」
 ぐっと腰を思いっきり打ち付けると、ばちゅんっと肌と肌がぶつかる音がした。
「あっあっあぁ……ちゅよっ、つよいぃ~~あぁああ!」
「めぐっ! 恵!」
「ア……ッ⁉ あっ、あぁん! いき、どまり、トントン、されてりゅっ!」
「やっばい、すげぇ絞められて、どんどん奥にッ、吸い込まれる」
「くるしっ、のに、きもちいいよぉ……あっ、うぅ」
 初めて犯されたまっさらな体は、フェロモンの手助けによってどんどん淫らに開花していく。狭くてとてもじゃないがすべては挿れられないと思っていたのに、根本までずっぽり飲み込まれてしまった。そんな嬉しい誤算は、恵の頑張りがあってこそ。多都希のものが大きくて胎が苦しいと呻く恵をよそに、アルファ特有のノットが膨張していき、恵の中から抜けなくなった。
「んひゃああッ――⁉ なっ、なに、あう、おっおく、こわいよぉお!」
 一度達した中はきゅうきゅうと多都希のものを締め上げて射精を促す。子宮と結腸の分岐を誤り、多都希のものは結腸へ突き進んでいった。
「はぁ、はあ、ああ、めぐ……めぐ……」
「イってう、ぁあ! あへ、あひっあっ、あっ、あっあアぁあん‼」
「ぐ……ッ‼」
「ひゃあぁ、やら、アあっ‼ また、くるの、イく、いくイく――――ッ‼」
 泣き叫ぶ恵は勢いよく射精した。真っ白な背中と圧し潰されて盛り上がっている尻が大きく跳ねたのを見届けた多都希も恵の中で爆ぜる。ドクドクと奥に擦りつけるように掴んでいる腰を大きく揺すって打ち付けると、恵は助けを求めるようにシーツに縋りついた。

 恵は抑制剤を服用せずにアルファフェロモンを浴びたのは初めての経験だった。一度目の絶頂から既に数え切れないほど果てており、すでに息も絶え絶えで、今もなりふり構わず腰を振っている。
 多都希も己が抑制剤を飲んでいない状態でオメガフェロモンを嗅いだのは初めてのことだった。こんなにも自我を保てないなんて未だに信じられないが、オメガのうなじを噛んで孕ませたいという欲求はどんどん強くなる。
 抑制剤によって第二性をコントロールできる時代を生きて、互いが互いを選びありのままの姿を見せる。
 こんなにも神聖で喜ばしいことはない。きっとどんな性別であっても、好きな相手を愛し合う時間は特別なことなのだろう。
「きす、して……」
 久しぶりに顔を見た気がする。汗と涙に塗れて惚けた恵は、とても綺麗だった。
 仰向けになって両手を広げる恵の希望を叶えるため、多都希は真っ赤な唇に吸いついた。
 どちらの唾液かわからない滴が口の端から零れると、満足したのか恵はコロンと横を向いた。
 また顔が見えなくなったのは不満だったが、ここを噛んでと最後のご馳走であるとっておきが晒される。
「塩谷さんがだいすきだよ……」
「俺も好きだ、恵」
 多都希は恵を抱きしめてうなじに歯を突き立てた。

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