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番-2
恵のうなじには、くっきりと多都希の歯型が刻まれている。何度も嚙まれた肌は鬱血していて、痛々しい痕が残った。血が滲むほど噛むという支配欲の印しでもある嚙み痕を触った恵は、今が人生で一番幸せだと囁く。
多都希は気を抜くと涙が溢れ出してしまいそうだった。泣かなかったのは、恵を映す視界が滲んでしまってはもったいないと思ったからだ。
いつ寝たのか覚えていないほど体は重く疲れ果てていたが、気分はすこぶる良かった。
腕の中で眠る恵の表情はあどけない。昨晩はあれほど淫らに乱れていたとは思えないほど清らかで儚い、多都希の運命の人だ。
多都希は恵の頬に口づけを落す。
「めぐ、そろそろ起きるか?」
「……う、ん、おあじょ……けほっ、ん、んん~? 声、すごぉ」
「おあじょ? ああ、おはようか。おはよう、恵。喉は酷そうだが、体はどうだ?」
多都希はペットボトルの水を恵に口移しで飲ませる。
「んんっ、ありがと……。体は意外と平気……。でもお尻だけ違和感ある。今も塩谷さんがずっと中にいるみたいで、お腹の奥がきゅんきゅんする……」
「起き抜けに煽るのは止めろ」
「あっはは! ねぇ、塩谷さん。オレたち番になっちゃったね……」
理性が戻るたび、恵は首の凹凸を触って確かめてうっとりする。
かさぶたにもなっていないそこは触れば痛いはずなのに、喜びが内側から溢れている。
堪らなくなった多都希は再び布団の中に潜り込んで恵を横抱きにする。
「はあ……。なんて可愛い生き物なんだお前は……」
「ガキどころかペット扱い?」
「恋人扱いしてんだよ」
「そっかぁ、んふふっ。なんかずっと夢心地で、こんなカッコいいお兄さんの恋人がオレなんかいいのかなーって不安になるよ」
「ん……? お前から見た俺はかっこいいのか?」
「最初からずっとカッコいいよ? イケメンだし、大人だし、気さくだし、ちょっと意地悪なところも……好きだし?」
指折り数える恵は至って真面目に答える。
「俺のことなんて好みじゃないのかと思っていた」
「えっ? そんなことないよ! タイプじゃなきゃ知らない人の家に上がり込んだり早々に同居決めたりしないでしょ。オレこう見えても身持ちめっちゃ固いんだから。そりゃあ、第一印象は体も態度もデカいし、上から目線のザ・アルファって感じだったけど、オレのことを心配してるのは伝わってきたから、きっといい人なんだろうなって思ってた」
なるほど、落とされるべくして恋に落ちたのか。それ以前に、多都希も今思えば一目惚れだったのかもしれない。
放っておけない気になるやつ、目を離せない同居人、手放せない想い人、関係は変化したが、ずっと恵に選ばれたくて足搔いていた気がする。
「確かに身持ちは固かったな。昨日まで処女だったわけだし……」
尻をツツっと撫でると、脛をげしっと蹴られた。
「ふんっ。まんまとハニートラップにかかったな? これから一生オレに尽くすがいい」
「望むところだ。お前こそまた俺を置いて一人で出て行こうとしたら地獄の果てまで追いかけるぞ」
「怖っ! ちょいちょい発言が重い~」
「軽いよりいいだろうが」
「そうですけども……っというか、さっきから……触り方が……んぁっ」
「お望み通り重すぎてどこにも行けなくしてやるよ」
「体は既に怠いって! 意味がちがっ、ひゃぅっ……お腹へったのにぃ」
「ご馳走なら目の前にある」
腹は減ったが、恵の方がよほど美味そうな匂いがする。この甘く蕩けそうな香りを抽出してパンケーキにかけたらどんなに美味いだろう。
腰を撫でて、臍、胸、首へと指を滑らすと、互いの呼吸が再び荒くなっていく。赤く腫れた唇へ到達すると、潤った舌先がちろちろと爪の先を舐めた。
いい加減お腹がすいて限界だ、と恵が音を上げるまで、多都希は恵の心と体を存分に愛した。
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