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決着-4
誘拐、監禁を決行したのは安祐美だが、すべては藤江の悪行が引き起こしたことだ。反省の色がまったく見えない無様な姿にうんざりする。
改心させようだなんて思っていない。もう関わるだけ無駄な気がする。
長いため息を吐いた多都希は伏せていたスマートフォンに話しかけた。
「聞こえているか恵、事の顛末は把握した。これから友梨さんと帰る」
多都希以外の三人は一斉に多都希を見る。
咳払いが一つ聞こえたあと「うん」と弾んだ声が返ってきた。
恵の声がする方に吸い寄せられるように、藤江は身を捩って暴れ出す。
岳久は藤江を踏みつけて黙れと視線を送った。
友梨も通話中だったことに気づいていなかったようで、困惑した様子だ。
「恵、体調はどうだ、落ち着いたか?」
「うん、平気。母さんが無事で安心したし、多都希さんも怪我をしてないってわかったから、気が抜けた……」
自宅を出発する際に電話を繋いでおくと約束したため、このマンションに向かう道中からずっと電話は繋がっていた。そうでもしなければ、恵は我が身を省みず家を飛び出して追いかけて来ると思ったからだ。
藤江夫妻に接触してからはただ中継しているだけになっていたが、よく口を挟まずに黙って聞いていたものだと感心した。
「いいか、絶対に安静にしてろよ。まだ祖父は側にいるな?」
「一緒にいる。ずっと隣で大丈夫だよって励ましてくださっていたよ。お爺様、本当に感謝しています」
祖父に頭を撫でられたのか、恵のえへへっという無邪気な笑い声が聞こえる。
「それからね、お爺様が伝手を辿ってナインパークの会長さんに直接連絡を取ってくれたから、そのまま警備の人を残して帰って来ていいよだって」
「そうか。そちらでも手を尽くしてくれていたんだな、ありがとう」
「ううん、オレは何もできなかったよ…」
多都希は藤江を見下ろすと、口角を上げて左手の薬指に光る指輪に口づけた。
「めぐはちゃんとお腹にいる子どもを守ってただろ。前までのお前だったら俺の制止も聞かずに突っ走ってた」
今の言葉でピンと来たのか、岳久は口元に手を当てて目を輝かせた。
一方の藤江はテーブルの脚に寄りかかったまま、魂が抜けたように茫然としている。
制裁を加える気など微塵もなかったが、恵が番を得て妊娠してることが藤江にとっては耐えがたいことだったのだろう。恵は自分のことが好きすぎて家出をした、なんて世迷言を妄信していたほどだ。
「そりゃあ、多都希さんから毎日のように段差に気をつけろとか、ちょっとでも気分が悪くなったら言えとか過保護に見守られてれば、嫌でも自分の体を大事にしないといけないなって思うよ」
「当たり前だろ。お前のことが世界で一番大事なんだから」
今では素直に口に出せるようになった言葉。
いつもは恵だけに聞かせているが、今日は護るために愛を盾にして囁く。
「なっ、なに突然! も、もお……隣にお爺様いるって言ってるのに……お爺様もニヤニヤしないで!」
恵は祖父に抗議しているが、こちらも恵の母親と共にいる。といっても息子の声を聞いた途端に安堵して泣き始めたので、息子夫婦がイチャついていたとしても気にならないようだ。
「俺はお前の母親の前でも平気だ。愛してる、恵。お前は?」
「~~ッわかったよ! オレも多都希さんが……大、大、だぁい好きだよ!」
藤江はガタガタと震え血走った眼から涙を流した。それを見た岳久は歯を見せて口角を上げている。
こちらの状況も音声でしか把握していない恵は、さらに追い打ちをかけるようにぼそぼそと呟いた。
「ねえ、お腹の子もパパがそばにいないと寂しいってさ……今もお腹の中からポコポコ蹴られてる」
胎動を感じるようになった恵は、よくお腹の子と会話している。一方的に話しかけているだけだがいつも楽しそうだ。
「ふっ、寂しいのはお前だろうが」
「だからお腹の子〝も〟っていったじゃん! 分かってんなら早く帰って来て、オレを抱っこして、頭撫でて、キスして!」
音割れした恵の声は、部屋中に響き渡った。
「ああ、分かった。なんでもいうこと聞いてやる。俺のたった一人の番様のお望みとあらば」
「ふふっ、ほんとオレのこと好きすぎ。まあ、オレも負けないけどね。じゃあ、家で待ってるから……」
チュッというリップ音が鳴って通話が切れる。
恵から求められて満足した多都希は、藤江を一瞥することもなく、友梨と岳久に帰ろうと声をかけた。
改心させようだなんて思っていない。もう関わるだけ無駄な気がする。
長いため息を吐いた多都希は伏せていたスマートフォンに話しかけた。
「聞こえているか恵、事の顛末は把握した。これから友梨さんと帰る」
多都希以外の三人は一斉に多都希を見る。
咳払いが一つ聞こえたあと「うん」と弾んだ声が返ってきた。
恵の声がする方に吸い寄せられるように、藤江は身を捩って暴れ出す。
岳久は藤江を踏みつけて黙れと視線を送った。
友梨も通話中だったことに気づいていなかったようで、困惑した様子だ。
「恵、体調はどうだ、落ち着いたか?」
「うん、平気。母さんが無事で安心したし、多都希さんも怪我をしてないってわかったから、気が抜けた……」
自宅を出発する際に電話を繋いでおくと約束したため、このマンションに向かう道中からずっと電話は繋がっていた。そうでもしなければ、恵は我が身を省みず家を飛び出して追いかけて来ると思ったからだ。
藤江夫妻に接触してからはただ中継しているだけになっていたが、よく口を挟まずに黙って聞いていたものだと感心した。
「いいか、絶対に安静にしてろよ。まだ祖父は側にいるな?」
「一緒にいる。ずっと隣で大丈夫だよって励ましてくださっていたよ。お爺様、本当に感謝しています」
祖父に頭を撫でられたのか、恵のえへへっという無邪気な笑い声が聞こえる。
「それからね、お爺様が伝手を辿ってナインパークの会長さんに直接連絡を取ってくれたから、そのまま警備の人を残して帰って来ていいよだって」
「そうか。そちらでも手を尽くしてくれていたんだな、ありがとう」
「ううん、オレは何もできなかったよ…」
多都希は藤江を見下ろすと、口角を上げて左手の薬指に光る指輪に口づけた。
「めぐはちゃんとお腹にいる子どもを守ってただろ。前までのお前だったら俺の制止も聞かずに突っ走ってた」
今の言葉でピンと来たのか、岳久は口元に手を当てて目を輝かせた。
一方の藤江はテーブルの脚に寄りかかったまま、魂が抜けたように茫然としている。
制裁を加える気など微塵もなかったが、恵が番を得て妊娠してることが藤江にとっては耐えがたいことだったのだろう。恵は自分のことが好きすぎて家出をした、なんて世迷言を妄信していたほどだ。
「そりゃあ、多都希さんから毎日のように段差に気をつけろとか、ちょっとでも気分が悪くなったら言えとか過保護に見守られてれば、嫌でも自分の体を大事にしないといけないなって思うよ」
「当たり前だろ。お前のことが世界で一番大事なんだから」
今では素直に口に出せるようになった言葉。
いつもは恵だけに聞かせているが、今日は護るために愛を盾にして囁く。
「なっ、なに突然! も、もお……隣にお爺様いるって言ってるのに……お爺様もニヤニヤしないで!」
恵は祖父に抗議しているが、こちらも恵の母親と共にいる。といっても息子の声を聞いた途端に安堵して泣き始めたので、息子夫婦がイチャついていたとしても気にならないようだ。
「俺はお前の母親の前でも平気だ。愛してる、恵。お前は?」
「~~ッわかったよ! オレも多都希さんが……大、大、だぁい好きだよ!」
藤江はガタガタと震え血走った眼から涙を流した。それを見た岳久は歯を見せて口角を上げている。
こちらの状況も音声でしか把握していない恵は、さらに追い打ちをかけるようにぼそぼそと呟いた。
「ねえ、お腹の子もパパがそばにいないと寂しいってさ……今もお腹の中からポコポコ蹴られてる」
胎動を感じるようになった恵は、よくお腹の子と会話している。一方的に話しかけているだけだがいつも楽しそうだ。
「ふっ、寂しいのはお前だろうが」
「だからお腹の子〝も〟っていったじゃん! 分かってんなら早く帰って来て、オレを抱っこして、頭撫でて、キスして!」
音割れした恵の声は、部屋中に響き渡った。
「ああ、分かった。なんでもいうこと聞いてやる。俺のたった一人の番様のお望みとあらば」
「ふふっ、ほんとオレのこと好きすぎ。まあ、オレも負けないけどね。じゃあ、家で待ってるから……」
チュッというリップ音が鳴って通話が切れる。
恵から求められて満足した多都希は、藤江を一瞥することもなく、友梨と岳久に帰ろうと声をかけた。
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