【完結】技術部アルファの想い人

笹川流宇

文字の大きさ
29 / 35

決着-4

 誘拐、監禁を決行したのは安祐美だが、すべては藤江の悪行が引き起こしたことだ。反省の色がまったく見えない無様な姿にうんざりする。
 改心させようだなんて思っていない。もう関わるだけ無駄な気がする。
 長いため息を吐いた多都希は伏せていたスマートフォンに話しかけた。
「聞こえているか恵、事の顛末は把握した。これから友梨さんと帰る」
 多都希以外の三人は一斉に多都希を見る。
 咳払いが一つ聞こえたあと「うん」と弾んだ声が返ってきた。

 恵の声がする方に吸い寄せられるように、藤江は身を捩って暴れ出す。
 岳久は藤江を踏みつけて黙れと視線を送った。
 友梨も通話中だったことに気づいていなかったようで、困惑した様子だ。
「恵、体調はどうだ、落ち着いたか?」
「うん、平気。母さんが無事で安心したし、多都希さんも怪我をしてないってわかったから、気が抜けた……」
 自宅を出発する際に電話を繋いでおくと約束したため、このマンションに向かう道中からずっと電話は繋がっていた。そうでもしなければ、恵は我が身を省みず家を飛び出して追いかけて来ると思ったからだ。
 藤江夫妻に接触してからはただ中継しているだけになっていたが、よく口を挟まずに黙って聞いていたものだと感心した。
「いいか、絶対に安静にしてろよ。まだ祖父は側にいるな?」
「一緒にいる。ずっと隣で大丈夫だよって励ましてくださっていたよ。お爺様、本当に感謝しています」
 祖父に頭を撫でられたのか、恵のえへへっという無邪気な笑い声が聞こえる。
「それからね、お爺様が伝手を辿ってナインパークの会長さんに直接連絡を取ってくれたから、そのまま警備の人を残して帰って来ていいよだって」
「そうか。そちらでも手を尽くしてくれていたんだな、ありがとう」
「ううん、オレは何もできなかったよ…」
 多都希は藤江を見下ろすと、口角を上げて左手の薬指に光る指輪に口づけた。
「めぐはちゃんとお腹にいる子どもを守ってただろ。前までのお前だったら俺の制止も聞かずに突っ走ってた」
 今の言葉でピンと来たのか、岳久は口元に手を当てて目を輝かせた。
 一方の藤江はテーブルの脚に寄りかかったまま、魂が抜けたように茫然としている。
 制裁を加える気など微塵もなかったが、恵が番を得て妊娠してることが藤江にとっては耐えがたいことだったのだろう。恵は自分のことが好きすぎて家出をした、なんて世迷言を妄信していたほどだ。
「そりゃあ、多都希さんから毎日のように段差に気をつけろとか、ちょっとでも気分が悪くなったら言えとか過保護に見守られてれば、嫌でも自分の体を大事にしないといけないなって思うよ」
「当たり前だろ。お前のことが世界で一番大事なんだから」
 今では素直に口に出せるようになった言葉。
 いつもは恵だけに聞かせているが、今日は護るために愛を盾にして囁く。
「なっ、なに突然! も、もお……隣にお爺様いるって言ってるのに……お爺様もニヤニヤしないで!」
 恵は祖父に抗議しているが、こちらも恵の母親と共にいる。といっても息子の声を聞いた途端に安堵して泣き始めたので、息子夫婦がイチャついていたとしても気にならないようだ。
「俺はお前の母親の前でも平気だ。愛してる、恵。お前は?」
「~~ッわかったよ! オレも多都希さんが……大、大、だぁい好きだよ!」
 藤江はガタガタと震え血走った眼から涙を流した。それを見た岳久は歯を見せて口角を上げている。
 こちらの状況も音声でしか把握していない恵は、さらに追い打ちをかけるようにぼそぼそと呟いた。
「ねえ、お腹の子もパパがそばにいないと寂しいってさ……今もお腹の中からポコポコ蹴られてる」
 胎動を感じるようになった恵は、よくお腹の子と会話している。一方的に話しかけているだけだがいつも楽しそうだ。
「ふっ、寂しいのはお前だろうが」
「だからお腹の子〝も〟っていったじゃん! 分かってんなら早く帰って来て、オレを抱っこして、頭撫でて、キスして!」
 音割れした恵の声は、部屋中に響き渡った。
「ああ、分かった。なんでもいうこと聞いてやる。俺のたった一人の番様のお望みとあらば」
「ふふっ、ほんとオレのこと好きすぎ。まあ、オレも負けないけどね。じゃあ、家で待ってるから……」
 チュッというリップ音が鳴って通話が切れる。
 恵から求められて満足した多都希は、藤江を一瞥することもなく、友梨と岳久に帰ろうと声をかけた。
 
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

あなたの運命の番になれますか?

あんにん
BL
愛されずに育ったΩの男の子が溺愛されるお話 不定期更新です。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

白熊皇帝と伝説の妃

沖田弥子
BL
調理師の結羽は失職してしまい、途方に暮れて家へ帰宅する途中、車に轢かれそうになった子犬を救う。意識が戻るとそこは見知らぬ豪奢な寝台。現れた美貌の皇帝、レオニートにここはアスカロノヴァ皇国で、結羽は伝説の妃だと告げられる。けれど、伝説の妃が携えているはずの氷の花を結羽は持っていなかった。怪我の治療のためアスカロノヴァ皇国に滞在することになった結羽は、神獣の血を受け継ぐ白熊一族であるレオニートと心を通わせていくが……。◆第19回角川ルビー小説大賞・最終選考作品。本文は投稿時のまま掲載しています。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。