同級生と余生を異世界で-お眠の美人エルフと一途な妖狐の便利屋旅-

笹川リュウ

文字の大きさ
11 / 109
余生の始まり

11.十代だから

しおりを挟む
 集合の時間から十分が過ぎた。リアースの時刻に合わせた真紘の腕時計の針も、壁にかかる時計と同じ方向を指している。
「来なくね?」
 机に伏した重盛は大きな欠伸をしながら猫のようにぐっと伸びをした。
「早速で申し訳ないけど、ノエルさんに連絡してみる?」
「賛成~と思ったけど、ノエルさん本人が来たわ」
 重盛の視線を追うと、息を切らしたノエルが後方の扉から入ってきた。
「重盛様、真紘様、お待たせしてすみません。ちょっと問題が発生しまして、他のお三方は不参加。説明会は延期です」
「問題とは?」
 ノエルは視線を泳がせ、耳を貸すようにと手招きした。ここだけの話ですが、とお決まりのフレーズが続く。
「他のお三方は、メフシィ侯爵様という方がお迎えに向かったのですが、お一人が協力を拒み続けているようなのです」
「ええっ、そんなことになっているとは思わず、すぐに寝てしまって申し訳なかったなぁ……」
「いやいや、真紘ちゃんはどんなに頑張っても二十一時にはどうせおねむだったよ。俺達もここに来る前にちょっとした魔法の使い方を教えてもらったばかりじゃん。いきなり小競り合いなんてことになったら、大泣きどころじゃなかったかもねぇ~」
「う、うるさいなぁ。気持ちの問題だよ! ノエルさん、他の三人は今どこにいるんですか?」
「真紘様と重盛様のお部屋とは離れた別棟の客室にいらっしゃいます。お二方は慣れない戦闘に体調を崩されたようで、神官様による治療を受けています」
 ノエルの言葉に真紘と重盛は驚愕した。
「どえっ⁉ マジでいきなり戦ったのかよ! 可哀そ~、やっぱこの後、皆で仲良くお手て繋いで魔力注入とかムズくね? わー、俺、ホント真紘ちゃんのいる教会に走って行って良かった」
 危険を回避する野生のカンが働いたのか、偶然だったのかは定かではないが、真紘も最初に出会ったのが重盛で良かったと安堵の息をついた。
 メフシィ侯爵は真紘と重盛に挨拶をしたいと願っていたが、昨日の一件で負傷したらしく、休養中だ。
 ノエルも協力を拒む救世主の説得を試みたが、すぐに追い返されたという。今朝はなかったはずの頬の痣はその時についたのだろう。
 しかも、その拒否し続けている救世主の職業が勇者だというのだから驚きだ。
 根気強く暴れる勇者を説得し続けたのがどちらも若い女性の聖女と剣士。異世界に召喚され、右も左も分からない状態で戦いに巻き込まれたのだから、体調を崩してもおかしくない。
「どうして勇者さんは協力を拒んでいるのでしょうか?」
「それが、分からないのです。突然別の世界に飛ばされたのですから、混乱して当然だとは思いますが……。聖女様と剣士様も初めは困惑しておられたと聞いています。真紘様と、重盛様のように穏便にお迎えできる方が珍しいのかもしれません」
 あの場にいなかったノエルはマルクスから何も聞いていないようだ。マルクスが話す必要がないと判断したのかもしれない。その優しさが真紘には少しだけ痛かった。
 教会にマルクス達が来た時、重盛に制止されなければ、真紘も風魔法で彼等を遠ざけるつもりだったのだ。混乱していたとはいえ、自分も勇者のようになっていたかもしれない。
「そうですかね……。ただ、僕には重盛がいたから落ち着いていられたのかもしれません。一人だったらどうなっていたか……」
「まーた、考えすぎ。はいはい、眉間に皺寄せててもプリティねぇ~。てか、早いとこ神木に魔力を注いだ方が、みんな安心するよな? 拒否ってるやつを説得するよりも、残りの四人でなんとか頑張る方向じゃダメなんすかね?」
 額を突く手を払いのけて真紘は頷いた。
「僕も嫌がる人に強制はしたくないし賛成かなぁ。でも重盛はそれでいいの?」
 争いごとを避けたいのは同意だ。だが、ここまで真紘の大泣きしたり寝落ちしたりといった散々な姿を難なく受け入れてきた彼だ。てっきり他の人に対しても説得をする方向に舵を切るのかと思いきや、返ってきたのは意外にも素っ気ない反応だった。
「俺、レディに優しくない男が一番苦手なの。特に野郎を好き好んで助ける趣味もない」
「嗚呼、そういう。……いや、僕も野郎だけど」
「真紘ちゃんは野郎って感じじゃないから」
「男らしくないのは重々承知してるよ、筋力もないし、棒切れみたいなもんだし、でもさ……」
 自分だって筋肉隆々とまではならずとも、男らしい体格に近づきたいと日々筋トレやランニングを欠かさず行っていた。ないものねだり、というわけではないが憧れは人一倍強かった。一家そろって線が細く、特に姉とは顔も瓜二つで、真紘の身長が伸びるまでは、まるで双子のようだと云われてきたからだ。
 まさか女顔だからという理由で優しくされていたのでは、と疑いの目を向ける。
「拗ねんな、拗ねんな。お前の存在がレアなんだって、俺の中でもオンリーワンなの」
 納得がいかずふくれっ面の真紘と、至って真面目な重盛、そんな二人を見て苦笑いのノエル。理由は三者三葉だが、どうにかして争いごとを避け、神木に魔力補填できないかという結論は同じだ。
 ならば、とノエルは提案した。
「私は全員揃わなくとも神木への魔力補填が可能か、宰相様に相談してまいります。宰相様は中々捉まらないので、時間がかかるかもしれません。それまで、またゆっくりお休みください。そうだ、今日は天気が良いので、昼食は中庭でいかがでしょうか?」
「あざっす! ピクニックみたいで最高じゃん! ノエルさん、昼飯まで中庭で魔力操作の練習しててもいい?」
「勿論です! シェフにも伝えておきますので。場所はわかりますか?」
「もち、真紘ちゃんが覚えてる!」
「自分でも覚えて」
「へぇーい」
 覚える気のなさそうな返事にノエルはクスクスと笑った。
「あの、お二人は早く城を出たい理由があるのでしょうか?」
「ん? どうしてですか?」
 真紘は首を傾げた。
「失礼ながら、魔力操作の練習にも積極的で、神木への魔力補填も急いでいるようにお見受けしました」
 ノエルは眉をハの字にして視線をそらした。その様子に真紘と重盛は同時に吹き出す。
 人より寿命が長いと云われても、時間は今までと同じように流れている。
 まだまだ遊びたい盛りの十代。国の未来がかかった一大プロジェクトに参加させられ、大人に囲まれるよりも、同級生二人で気ままに旅をした方が気が休まる。評判の良い美味い飯の方が気になるのだ。
 真紘はここだけの話、と囁いた。
「早くタルハネイリッカでロヒケイットを食べたいんです」
 するとノエルは目を見開いた。
「それは、早く召し上がっていただかないといけませんね!」
 踵を翻し、ノエルは廊下へと駆け出して行った。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される

水凪しおん
BL
勇者パーティーに尽くしながらも、生贄として裏切られた支援職の少年ユキ。 絶望の底で出会ったのは、孤独な魔王アシュトだった。 帰る場所を失ったユキが見つけたのは、規格外の生産スキル【慈愛の手】と、魔王からの想定外な溺愛!? 「私の至宝に、指一本触れるな」 荒れた魔王領を豊かな楽園へと変えていく、心優しい青年の成り上がりと、永い孤独を生きた魔王の凍てついた心を溶かす純愛の物語。 裏切り者たちへの華麗なる復讐劇が、今、始まる。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

処理中です...