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余生の始まり

16.神木

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 城の最深部に到着した。
「ここからは異世界人の魔力じゃないと反応しないの。じゃあ、二人とも宜しくお願いしますね」
「はい、頑張ります!」
「神木ツアーいってきまーす!」
 アテナに見守られながら、扉に手を翳して瞬きを一回。
 いつの間にか真紘と重盛は、薄暗い教室ほどの大きさの部屋にいた。
 部屋の中心にはポツンと魔方陣らしきものが描かれている。この陣の中に入ると神木の元へと飛ばされるようだ。
「真紘ちゃん怖いんじゃない? 尻尾掴まっててもいいよ」
「うーん、ここまで来たら逆に冷静になってきた。これに乗らないと帰りの魔法陣にも辿り着けないわけだし……。万が一を考えて、逸れると困るから手繋いでおく?」
「いやぁ、実は今手汗ヤバイのよ。だから尻尾希望」
 直前までアテナと盛り上がっていた重盛も実は緊張していたのだと知り、真紘は少しほっとした。
「じゃあ余計に手繋いでてあげる、行くよ!」
 反論される前に重盛の手をパッと掴むと真紘は魔方陣に飛び込んだ。


 一瞬にして二人は光に包まれ、次の瞬間にはポンっと宙へ投げ出されていた。
 落下する前に重盛を抱えて浮遊すると、青白く光る大木が目に飛び込んできた。
 宙には青白い光の粒が無数に散らばっている。
 重盛がその一つをツンっと触ると、雪のようにほろりと解けて消えていった。
 神木という呼び名から、神社にある樹齢数百年といった大きさの木を想像していたが、リアースの神木は想像を遥かに超えるものであった。
「おお……。これ、木の幹だよな? 学校の校舎くらいデカくねぇ……?」
「そうだね、魔力って十万で本当に足りるのかな……」
「取り敢えずやってみようぜ。神木ちゃんグルメっぽいから俺の魔力もちょっとあげちゃお。スウィートアンドスパイスってね」
「僕がスパイスだよね?」
「んなわけ、真紘ちゃんはどう考えてもスウィ――だッ! アッ!」
 地面まで一メートルというところで重盛を落すと、彼は奇声をあげながら一回転して着地した。昨日の模擬戦ではもっと飛び上がっていたのだから、これくらいは余裕だろう。
「ごめーん、腕が痺れちゃった」
「そういうところあるよな? 学んだぞ、俺は学んだぞ!」と言いながらまた揶揄ってくる予感しかない。
 真紘は一人で優雅に着地すると、尻尾を振りながら蟹股で神木に向かっていく重盛の後を小走りで追いかけた。
 木に近づくとますます巨大な壁のように見えて圧倒された。
 空が見えないことから地下であることは間違いないのだが、どこからか爽やかな風が吹いてくる。
 大きく深呼吸をすると、新鮮な空気が肺を満たし、心身が浄化されたような気がした。
「凄い場所だなぁ。魔力の補填が終わったらもう来れないのが残念だよ」
「それな、でも早く戻んないとばあちゃん達が心配するよなぁ」
「そうだね。早速始めようか」
 神木に触れて魔力を流す。温かいようなひんやりしているような不思議な感覚に包まれた。
 時間としては五分も経っていない。それでも長い時間をかけて語り合ったような歴史が流れ込んできた。
 これは真紘の歩んできた地球時代の思い出だったのかもしれない。
 実際に神木と言葉を交わしたわけではないが、魔力と引き換えに心に温かいものが流れ込んできた。
 そしてこれは対話だ、と真紘は感じたのだ。
 脳裏をよぎったのは父と二人でシゲ松の散歩に行った日の帰り道だった。
 重盛の様子を伺うと、彼は一筋の涙を流していた。
 真紘は見てはいけないものを見てしまった気分になり、視線をサッと戻してもう一度目を閉じた。
 あれから数分も経たないうちに重盛はいつもの笑顔を浮かべて言った。
「戻ろうか、真紘ちゃん」
「うん」
 何事もなかったかのように微笑む重盛を見て、今度は真紘が少し泣きたくなった。


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