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余生の始まり

17.脅かすなって

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 早く戻ろうという言葉とは裏腹に、二人は中々神木の側から動けずにいた。
 最初で最後のこの特別な時間を目に焼き付けたい。神木の状態を多方面から確認すべきではないかというのは建前で、もう少しだけこの心地よい時を堪能すべく、真紘は重盛を抱えて神木の頂を目指した。
 上から見る神木は木というより、森と言った方がしっくり来る大きさだ。
 発光しながら揺れる緑は美しく、いつまでも見ていたいほどだった。
「腕大丈夫そ? 俺を単体で飛ばしてくれた方が楽なんじゃ?」
 もぞもぞと宙で体勢を変え続ける真紘の異変に気付いた重盛は問いかけた。
「そう思って昨日試みたんだけど、自我がある物を飛ばそうとすると変に力んで遥か彼方に吹き飛ばしてしまいそうでさ。ただの物なら上手くいくから、こればかりは練習するしかないね」
「俺で試したのかよ! 模擬戦の最中に一回だけなんか体が変だなぁ~と思った時があったけど、危うく吹き飛んでたってこと⁉ これから誰で練習するつもりだよ……!」
「重盛以外でやったら危ないじゃないか。勿論、君なら失敗しても受け身が取れそうだと判断してから試したよ。やっぱり地球で体験したことのない魔法はどうにもイメージし難いんだよね」
 抗議の視線を向けられるが、真紘はあえてスルーした。
 シャボン玉が落下するくらいのゆったりとした速度で降下していく。
「逆に地球で使えてた魔法って何?」
「魔法にも勝るとも劣らない、地球人の英知の結晶だよ。僕達は魔石がなくても日常的に綺麗な水や、コンロの炎なんかを使っていたでしょう? どうやって水が綺麗になるのか、なんでスイッチ一つでコンロに火がつくのか、なんとなくしか知らない。今思えば、無知であるが故に、それは僕にとって魔法みたいなものだったんだよ」
「なるほど……?」
 地球でなんとなく使っていたものは、魔法でもなんとなくで再現できるといったところだ。
 理解していなさそうな返事に真紘はクスクスと笑った。
「つまり僕の魔法の発動には、実体験を経たイメージが必要ってこと。水鉄砲は撃ったことがあるから想像を膨らませれば攻撃になるけど、からだ一つで空を飛んだことはないから凄く考えながら頑張って飛んでる。だから飛びながら、こうやって喋ってるのも結構大変なんだよ。勝手に動く対象いきものに魔法をかけながら自身にもかけるなんて尚更ね。リアース産まれの魔方陣とか、呪文とかを勉強すれば、もっと色々できるようになるのかもしれないけど」
「今の真紘ちゃんにとって、ゼロからイチを生み出すことは難しくって、魔法を発動するにはめちゃくちゃ想像力が必要ってことね。俺は考えるの苦手だし、体動かす系の方が得意かも。学校の進路適性診断じゃないけど、勝手に自分に合った特性が与えられてラッキー」
「僕達をリアースに召喚した神様が配慮してくれたのかもね。はい、着いたよ」
 二人同時に地面に降り立つ。
 名残惜しいが、腕時計を見ると一時間が経過していた。
 魔力を注いだことにより、神木は来た時の何倍も輝いていて眩しいくらいだ。それぞれのステータスを開いて確認すると、真紘は二十万、重盛は三万もの魔力が減っていた。疲労困憊になるほどではないが、体育の授業終わりくらいの疲労感はある。
 神木に背を向けて魔方陣の方向へと歩いていくと、逆光で自分の影が濃くなった。
「真紘ちゃん、ちょっと多めに吸い取られすぎてね? 魔力過多でリアースの人口爆裂増加! 食糧難の危機! とかにならないといいな」
「やめてよ、不安になる」
「まっ、大は小を兼ねるっていうし大丈夫っしょ!」
 やる事を終えてすっかり安心したのか、重盛は目を細めて能天気な顔に戻っていた。
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