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余生の始まり
18.脅かさないでよ
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来た時と同じように魔方陣に飛び込むとアテナと別れた地下通路に出た。彼女は既に居らず、廊下は静寂に包まれていた。
あちこち彷徨すること一時間。
牢獄のような檻に、不気味な実験室のような部屋、出口のないお化け屋敷に迷い込んだかのような絶望感が込み上げてくる。
「無理なんだけど無理なんだけど! 俺洋物ホラー系マジ無理なんだけど!」
「僕だって無理だよ! 絶対こんなところ通ってきてない……! 謎の檻とかあるし! なんでこんなことに!」
二人三脚のようにぴたりと寄り添いながら泣き言を漏らしていると、背中をポンと叩かれた。
「重盛! こんな時に冗談やめてよ」
「は? 何のこと?」
「今、僕の背中を叩いたじゃないか」
「どこ見てんだよ! 左腕はお前と組んでるし、右手は出してくれた光の玉持ってるんだけど⁉」
「え? じゃあ誰が――」
錆びついたブリキのオモチャのようにゆっくりと後ろを振り返ると、そこには恐ろしい顔をした男の絵画が飾ってあった。
二人は顔を見合わせると、声にならない悲鳴をあげて走り出した。
全力疾走する重盛についていけるわけもなく、真紘は風船のように引っ張られている。
恐怖で朦朧とする意識の中、重盛の尻尾が目に留まった。真紘の背中を叩いた正体である。
やっぱりお前じゃないかと悪態をつく間もなく、代わり映えのしない景色が高速で流れていった。
階段を何百、何千と上がり、漸く見覚えのある廊下に出ると、その突き当りに見知った人物がいた。
「お、おっさああぁん!」
「マルクスさん!」
呼びかけに気づいたマルクスは真っすぐこちらへ駆け寄ってくる。
薄暗い地下を駆け回ってきたため、全身煤で汚れているにも関わらず、マルクスは勢いよく二人をまとめて抱きしめた。
「真紘殿、重盛殿! 無事にお役目を果たされたのですな! 本当にありがとうございます! こんなに汚れてしまって……」
真紘は照れくさくも、抱擁を受け入れた。
そして、これは出口が分からずに王城の地下を彷徨い歩いたからだと説明すると、マルクスはポカンと口を開けた。
「帰りの魔方陣は入口に戻るのではなく、一度行ったことのある場所なら想像するだけでそこに出られると聞いておりますが……」
「えーと、実は俺もそう聞いてた」
マルクスと重盛の言葉に今度は真紘が目を丸くする番だった。
「僕、聞いてないよ」
真紘が重盛に詰め寄ると、彼は頬をかきながら明後日の方向を見ていた。
「あー……。真紘ちゃんがトイレ行っている時にばあちゃんから聞いた。魔法陣に入る瞬間に思い出したわけよ。まあ、一緒に戻るわけだし? 俺が中庭とか客室とかを想像すればいけると思ったんだけど、真紘ちゃんの想像力にナチュラルに敗北~つって……誠に申し訳ございませんでしたッ!」
真紘は、帰りの魔方陣に入った瞬間、魔方陣同士が繋がっているのだろうと勝手に思い込み、アテナと別れた廊下を想像してしまった。出入りする魔方陣は対になっているはずという、生真面目さが裏目にでた。
何度も気を付けようと努めてはいたが、この世界では固定観念を捨て、柔軟に物事を考える必要があるのだという認識を改めて胸に強く刻み込んだ。
フリーズしたままの真紘が余程怒っているように見えたのか、重盛は耳をシュンと畳んで深々と頭を下げた。
「いいよ、僕のせいで地下の廊下に飛ばされたんだし、お相子ってことで」
「うっ、優しさが身に沁みる。魔法で吹き飛ばされた方がまだ許された感あるぜ……」
煤けた背中を丸めた悲壮感たっぷりな重盛の姿に、真紘とマルクスはついに吹き出して笑った。
あちこち彷徨すること一時間。
牢獄のような檻に、不気味な実験室のような部屋、出口のないお化け屋敷に迷い込んだかのような絶望感が込み上げてくる。
「無理なんだけど無理なんだけど! 俺洋物ホラー系マジ無理なんだけど!」
「僕だって無理だよ! 絶対こんなところ通ってきてない……! 謎の檻とかあるし! なんでこんなことに!」
二人三脚のようにぴたりと寄り添いながら泣き言を漏らしていると、背中をポンと叩かれた。
「重盛! こんな時に冗談やめてよ」
「は? 何のこと?」
「今、僕の背中を叩いたじゃないか」
「どこ見てんだよ! 左腕はお前と組んでるし、右手は出してくれた光の玉持ってるんだけど⁉」
「え? じゃあ誰が――」
錆びついたブリキのオモチャのようにゆっくりと後ろを振り返ると、そこには恐ろしい顔をした男の絵画が飾ってあった。
二人は顔を見合わせると、声にならない悲鳴をあげて走り出した。
全力疾走する重盛についていけるわけもなく、真紘は風船のように引っ張られている。
恐怖で朦朧とする意識の中、重盛の尻尾が目に留まった。真紘の背中を叩いた正体である。
やっぱりお前じゃないかと悪態をつく間もなく、代わり映えのしない景色が高速で流れていった。
階段を何百、何千と上がり、漸く見覚えのある廊下に出ると、その突き当りに見知った人物がいた。
「お、おっさああぁん!」
「マルクスさん!」
呼びかけに気づいたマルクスは真っすぐこちらへ駆け寄ってくる。
薄暗い地下を駆け回ってきたため、全身煤で汚れているにも関わらず、マルクスは勢いよく二人をまとめて抱きしめた。
「真紘殿、重盛殿! 無事にお役目を果たされたのですな! 本当にありがとうございます! こんなに汚れてしまって……」
真紘は照れくさくも、抱擁を受け入れた。
そして、これは出口が分からずに王城の地下を彷徨い歩いたからだと説明すると、マルクスはポカンと口を開けた。
「帰りの魔方陣は入口に戻るのではなく、一度行ったことのある場所なら想像するだけでそこに出られると聞いておりますが……」
「えーと、実は俺もそう聞いてた」
マルクスと重盛の言葉に今度は真紘が目を丸くする番だった。
「僕、聞いてないよ」
真紘が重盛に詰め寄ると、彼は頬をかきながら明後日の方向を見ていた。
「あー……。真紘ちゃんがトイレ行っている時にばあちゃんから聞いた。魔法陣に入る瞬間に思い出したわけよ。まあ、一緒に戻るわけだし? 俺が中庭とか客室とかを想像すればいけると思ったんだけど、真紘ちゃんの想像力にナチュラルに敗北~つって……誠に申し訳ございませんでしたッ!」
真紘は、帰りの魔方陣に入った瞬間、魔方陣同士が繋がっているのだろうと勝手に思い込み、アテナと別れた廊下を想像してしまった。出入りする魔方陣は対になっているはずという、生真面目さが裏目にでた。
何度も気を付けようと努めてはいたが、この世界では固定観念を捨て、柔軟に物事を考える必要があるのだという認識を改めて胸に強く刻み込んだ。
フリーズしたままの真紘が余程怒っているように見えたのか、重盛は耳をシュンと畳んで深々と頭を下げた。
「いいよ、僕のせいで地下の廊下に飛ばされたんだし、お相子ってことで」
「うっ、優しさが身に沁みる。魔法で吹き飛ばされた方がまだ許された感あるぜ……」
煤けた背中を丸めた悲壮感たっぷりな重盛の姿に、真紘とマルクスはついに吹き出して笑った。
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