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動き出す
ラスティエルの決意
しおりを挟む其処に居る太公望は最初にアイセンレイトと出会った時の彼に比べて存在感が薄く霞んで居るように見えた。
『わしの事であるからな、儂が嬢ちゃんの疑問に答えよう。実はな、儂の本体は未だ地球の昆崙にある。今の儂は力の衰えた魂魄の魂の部分じゃ。流石に実態を保て無くなったのでな、アイセンレイトの中に避難させて貰ったのだ』
あっけらかんと言い放てるのは、太公望の性格に他ならない。
「何故貴方が此処に来られたのか、この宝石の魂を滅する為に来られたのでしたら、わたくしは、宝石と魂を貴方様にお渡しする事は出来ませんわ…… 」
ラスティエルは、女禍に操られている訳では無い。
これはラスティエルが持つ、強い意志だった。
ラスティエルは、人の心に触れ、囲い、癒やす事の出来る娘だった。
それは元々彼女の前世が、愛染明王と言う神であった事が起因するが、ただ逸れだけでは無かった。
彼女は、この世界の創造主と東西南北四カ所を各々守護する聖獣の1人との間に産まれた娘である。
だが、その事実を知らないラスティエルは、己を只の小娘と信じ、持ち得る能力は聖獣様からの賜り物だと思っていた。
それも、両親にランドール帝国(旧オルレイン公国)の公爵と言うもう一つの肩書きが有るせいでもあった。
一つの国が滅び新たなる国が出来上がる立役者になったのが、己の両親なのだと言う事を、ラスティエルは知らない。
そして、その事件にアイセンレイトが一枚噛んで居た事も彼女は知らなかったし、一生知ることも無い。
そして、現時点で逸れを語る事も無い。
『怖い、怖い、力の無い妾は伏羲が怖いのじゃ。伏羲はきっと妾を欠片の一つすら残したくは無いのじゃ。もう妾は伏羲に楯突く事すら出来ぬと言うのに…… 』
女禍は誰に言うでも無く膝を抱えるように丸くなって呟いた。
そんな女禍をラスティエルは横目で見て納得するように小さく頷き、伏羲である太公望を見据えた。
「女禍様にはもう、貴方様に楯突く力は無いようです。その様な力がおありでしたら私など今頃、乗っ取られておりますでしょう。逸れを踏まえ、貴方様は彼女をどうなさるおつもりですか? 」
今一度、はっきりと言葉にするラスティエル。
そんな彼女に女禍が問う。
『そなたはどうして我を庇う? そなたとて、見て解ろう。妾が非道の限りを尽くして来たのを…… 』
心の内に囁かれる声を聞いて、ラスティエルの口角が笑みの形に上げられた。
『それを貴女は悔やんでいる。こうなって初めて。ですからわたくしは貴女様を信じる事に致しました。貴女様が納得なさるまでわたくしは貴女様に付き合いましょうと……。ですから、わたくしを失望させないで下さいませ』
『失望させてしまえば妾はどうなる? 』
『わたくしの旦那様となるお方が、貴女様を滅せられるでしょう……。その折はわたくしも、微弱ながら旦那様となるお方のお手伝いを、させて頂こうかと思っております』
ラスティエルは感情の伴わない声音で粛々と女禍に語る。
その口元にほんの少し、微笑みを刻みながら……。
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