32 / 37
②
しおりを挟む撮影が始まった。
現場の隅で、木坂と一緒に様子を見る。
隣から視線を感じ取って、俺は、目線だけを木坂に向けた。
目線だけを向けたのに、木坂は俺の顔を覗き込む。
「『mahiro』さんって、先輩の事だったんですねぇ……。うん、面影が残ってます。僕、当時、中坊だったから良く覚えてますよ。『mahiro』さんの活躍。今回の撮影、結芽さんの為だったんですね、」
「ん、ああ…………、俺はさ、あいつの為なら、喜んで踏み台に なってやる。ってね、そう思ってる。それくらいしか、してやれないしな……」
「先輩っ、そんな事、絶っ対、無いっす! 結芽さん、先輩が側にいるだけで良いって、」
「え……、結芽が、そう言ってたのか? 」
俺は、多分、面食らった顔をしてただろう。
木坂の言葉に、驚いたのは確かだから。
「いいえ……、すいません。けどね、そう言う表情で先輩を見てるんですよ。結芽さんってば。勿論、先輩も…………でしょ 」
ニコニコと笑う木坂は、侮れない。
こいつは、人を良く観察している男だ。
だからか、色々と良く気が付くし、優しい言葉も掛けられる。
だから、自分が担当するタレントに信頼されるんだ。
俺とはえらい違いだよ。
木坂と対話していても、ジッと撮影だけは見ていた俺は、ある事に気付いた。
まだ小さな違和感だが、コレはきっと膨らむ。
役者同士の小さなズレ。
俺は、唐突に出現したソレを見付け出していた。
「結芽の様子が変だ…………」
「えっ? 」
俺の呟きに木坂も反応して、結芽と合坂を見つめた。
「おゃ、『mahiro』くんかね? 」
監督が此方を見て、怪訝そうに首を捻る。
黒のウイッグと、カラコンを付けたままの俺は、髪をセットしてなくても、彼等の良く知る『『Yume』のマネージャー』だ。
だから、監督は首を捻ったのだ。
『『Yume』のマネージャー』=『mahiro』と言う図式が咄嗟には浮かばない。
それくらいには、『mahiro』の姿は印象深いのだ。
「お久しぶりです。と、言った方が良いですかね? 古寺監督。『mahiro』の立場からすれば…………? 」
「はは、……。驚いたね。良く化けたものだ。良く見る顔なのに、これほど気付かないとは……。如月社長もお人が悪い…… 」
「あはははは……。普段のこいつは『オーラ』皆無ですからね。気付かなくても、無理無いですよ。監督 」
社長が、密やかな声で笑う。
俺は、ジッと結芽を眺めていて、少しの騒がしさなのに、それに気付いた結芽が此方を見やった途端、彼女と視線が絡んだ。
色気を含んだ微笑みを見せるが、吐き出す吐息は、安堵を含ませたモノ。
逸れが解るのは、俺だけだ。
逸れを合坂が勘違い。
漸く感じ始めたかと、ほくそ笑んで行動をエスカレートさせる。
そうすると、益々『Yume』が嫌がってのけぞった。
『Yume』をアップで撮れない理由。
過度のスキンシップへの嫌悪。
逸れが表情に現れているんだ。
『Yume』は女優では無い。
あくまでも歌手なんだ。
「プロの女優なら、大袈裟な振りや、過度のスキンシップなどの独り善がりな演技でも、表情1つ変えずにあしらえる。けれど、『Yume』は歌手だ。女優では無い。嫌だと思う事柄が総て顔に出る。『 今、話題沸騰中のイケメン俳優 』って豪語するのなら、その程度の事くらい考慮しろよ、合坂一!! この、下手くそっ!! 」
そう、イライラから思わず口に出してしまっていた。
あぁ、俺とした事が…………。
けど、まぁ、言葉だけは乱れずに言えたと思う。
周り皆、固まってしまったけれどね。
0
あなたにおすすめの小説
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる