🌑新月の闇 満月の光🌕

黄色いひよこ

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撮影が始まった。

現場の隅で、木坂と一緒に様子を見る。

隣から視線を感じ取って、俺は、目線だけを木坂に向けた。

目線だけを向けたのに、木坂は俺の顔を覗き込む。


「『mahiro』さんって、先輩の事だったんですねぇ……。うん、面影が残ってます。僕、当時、中坊だったから良く覚えてますよ。『mahiro』さんの活躍。今回の撮影、結芽さんの為だったんですね、」

「ん、ああ…………、俺はさ、あいつの為なら、喜んで踏み台に なってやる。ってね、そう思ってる。それくらいしか、してやれないしな……」

「先輩っ、そんな事、絶っ対、無いっす! 結芽さん、先輩が側にいるだけで良いって、」

「え……、結芽が、そう言ってたのか? 」


俺は、多分、面食らった顔をしてただろう。

木坂の言葉に、驚いたのは確かだから。


「いいえ……、すいません。けどね、そう言う表情で先輩を見てるんですよ。結芽さんってば。勿論、先輩も…………でしょ 」


ニコニコと笑う木坂は、侮れない。

こいつは、人を良く観察している男だ。

だからか、色々と良く気が付くし、優しい言葉も掛けられる。

だから、自分が担当するタレントに信頼されるんだ。



俺とはえらい違いだよ。



木坂と対話していても、ジッと撮影だけは見ていた俺は、ある事に気付いた。

まだ小さな違和感だが、コレはきっと膨らむ。

役者同士の小さなズレ。

俺は、唐突に出現したソレを見付け出していた。


「結芽の様子が変だ…………」

「えっ? 」


俺の呟きに木坂も反応して、結芽と合坂を見つめた。


 「おゃ、『mahiro』くんかね? 」


監督が此方を見て、怪訝そうに首を捻る。

黒のウイッグと、カラコンを付けたままの俺は、髪をセットしてなくても、彼等の良く知る『『Yume』のマネージャー』だ。

だから、監督は首を捻ったのだ。

『『Yume』のマネージャー』=『mahiro』と言う図式が咄嗟には浮かばない。

それくらいには、『mahiro』の姿は印象深いのだ。


「お久しぶりです。と、言った方が良いですかね? 古寺監督。『mahiro』の立場からすれば…………? 」

「はは、……。驚いたね。良く化けたものだ。良く見る顔なのに、これほど気付かないとは……。如月社長もお人が悪い…… 」

「あはははは……。普段のこいつは『オーラ』皆無ですからね。気付かなくても、無理無いですよ。監督 」


社長が、密やかな声で笑う。

俺は、ジッと結芽を眺めていて、少しの騒がしさなのに、それに気付いた結芽が此方を見やった途端、彼女と視線が絡んだ。

色気を含んだ微笑みを見せるが、吐き出す吐息は、安堵を含ませたモノ。

逸れが解るのは、俺だけだ。

逸れを合坂が勘違い。

漸く感じ始めたかと、ほくそ笑んで行動をエスカレートさせる。

そうすると、益々『Yume』が嫌がってのけぞった。

『Yume』をアップで撮れない理由。

過度のスキンシップへの嫌悪。

逸れが表情に現れているんだ。

『Yume』は女優では無い。

あくまでも歌手なんだ。


「プロの女優なら、大袈裟な振りや、過度のスキンシップなどの独り善がりな演技でも、表情1つ変えずにあしらえる。けれど、『Yume』は歌手だ。女優では無い。嫌だと思う事柄が総て顔に出る。『 今、話題沸騰中のイケメン俳優 』って豪語するのなら、その程度の事くらい考慮しろよ、合坂一!! この、下手くそっ!! 」


そう、イライラから思わず口に出してしまっていた。

あぁ、俺とした事が…………。 

けど、まぁ、言葉だけは乱れずに言えたと思う。

周り皆、固まってしまったけれどね。 


 
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