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黄金を纏し少女
①
しおりを挟む「シュリ。3ブロック先で走る靴音。息遣い荒くて、その後に続いて3、4人の靴音……。どうやら、女の人が複数の男に追われてるみたい 」
「あぁ。そうみたいだな」
シュリが空中を見つめ、呟く。
「んじゃあ、どうするの?」
「面倒事は、御免だ」
ロイの問い掛けにシュリは踵を返すと、その場を立ち去ろうとする。
が、ロイの声に彼は立ち止まる事を余儀なくされた。
「あっ!! でももう遅いみたいだよ」
と、言うロイの呼び掛け。
それと同時に、何かがロイの横を駆け抜ける。
その瞬間、赤い靴の鮮やかな朱色が、ロイの目に飛び込んで来た。
それは、シュリを見付けると、両腕を伸ばし倒れ込む様に、彼に抱き付いた。
「お願いです! 助けて下さい!!」
シュリは、飛び付かれた勢いでよろめきはしたが、すぐに体制を整えた。
自身の腹部に巻き付く、きゃしゃな腕に、背中に感じる軟らかさと、体温。
ゆっくりと首を巡らし、自分にしっかり抱き付く者を見る。
黄金に輝く絹糸の様な髪が、シュリの目に飛び込んで来た。
黄金の髪が揺れて、誰か解らない少女の頭が動く。
柔らかい印象を受ける、花の様な顔。
シュリは、少女を見て息を飲んだ。
走り寄って来たロイも、シュリ同様、言葉を失った。
『セレナ……』
「セレナだっ!!」
「違う。彼女じゃ無い」
ロイの嬉しくて弾ける様な声に、間髪入れずにシュリが答える。
少女は蒼色の瞳で、不思議そうにシュリとロイを見比べた。
そして。
「猫ちゃんが……しゃべった?」
少女は、いかにも暢気極まりない声音で、呟いた。
話せる事を知られたロイは、まるで石の様にカチンコチンに固まった。
少女は、シュリから離れると、今度は固まったロイを抱え上げて、
「喋る猫ちゃんは、初めて見ました」
と、シュリに笑いかけた。
だがシュリは、少女が自分から離れたのをこれ幸いと、彼女とは反対方向へ歩き出す。
「ちょっ……! 何処へ行かれるのですかっ!?」
少女の焦る声にシュリは振り返り、感情の篭らない冷たい声で言い放った。
「あんたを暴漢から助ける事ぐらい、そいつでも出来る」
シュリは、顎を釈って少女とロイを一瞥する。
そんなシュリを見て、ロイは正気にかえると、ウルウルと瞳をにじませ、情け無い声を上げた。
「シュリ~そんな薄情な事、言わないでよぅ~。おいら、人間は苦手なんだよぅ~。お願い! なっ、シュリ~」
「ま、頑張れロイ。何事も経験だ」
「そっ……そんなぁ~」
ロイは、少女の腕からもぞもぞと這い出ると、二本足で立ち上がり前足を胸にやり《お願い》ポーズを取って、もう一度頼み込む。
「お願い助けて」
「私からもお願いします。どうか御慈悲を……」
シュリがふと少女の方を見ると、ロイと同じポーズでシュリを見つめている。
「ぷっ……」
シュリが俯いて、声を殺して笑っている。
少女とロイ、同じポーズで、同じく首を傾けている。
シュリが本当に面白いと思っているのか、格好なのか判断が付かない。
だが、彼は笑っていた。
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