【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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黄金を纏し少女

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「ほぅ? あの程度で国1番だと? 言う通りの者なら、余程、平和呆けした集まりと言う事になるな………… 。」




イシスの兄の背中に、剣先が当たる感触がある。


シュリは、気配も無く何時の間にか、彼の後ろを取っていた。






──────
─────────
──────────────


時は、少し前。

男達は、シュリの変わり身の早さに呆然としていた。

自分達の主と話していたシュリは、既にここにはいない。


シュリは一瞬のうちに、貼り付けていた『表情』という仮面を剥いだのだ。

彼らの目の前に居るのは、精巧にできた、空恐ろしく美しい人形。


戦う為に生まれた人形だった。

笑顔や感情を貼り付けていた時は気付かなかったその美貌が、感情を無くした今、異様に見えた。

そんなシュリが3人に向かい襲い来る。

その素速さときたら、電光石火だ。


何度か、3人の男はシュリと剣を交えこらえていた。

但し、受け止めた剣は己の剣では無く身体。

シュリが刃を当てていれば、3人はその場で死んでいただろう。

そう。

本気では無かったのだ。






ミリ単位の正確さで、攻撃を仕掛けて来るシュリと切り結んで、彼の実力を痛感したのか、至極慎重に行動する3人。

なんだか半分戦意喪失している気がしないでも無いのだが……… 。

リーダー格の男が気を取り直してシュリに言った。



「お前、何者だ」

「さて、何者でしょう」




その呼び掛けに、口調だけはとぼけるシュリ。

表情がまるっきり無い分、感情を乗せたような声音は異様な感が否めない。




「勿体ないな。その腕なら騎士団長にもなれるだろうに……」

「はっ、御冗談を」





そう返答するシュリと、じっと睨み合いを続けていても埒が開かないとふんだ男は、はっ ! ! と言う掛け声と共に、シュリに向かって剣を振り落ろした。

因みに、こっちは本気である。

なので、シュリは一気に片を付ける事に決めた。


彼は、己の剣で男の剣を受け流し、そのままの勢いで柄を反して、男の鳩尾に一発食らわせる。

その勢いで、男が仰向けにもんどり打って倒れた。

そのまま反転し、剣を振りかぶっている2人目の男の胴体を、有無を言わせず蹴り上げる。

唸り声を上げて2人目が、もんどりうって地面に倒れた。




「さて、まだやる?」



日本刀を肩に担いだシュリがふと休めの姿勢を取って3人目を見た。

彼がこの中で1番弱いのだろう、既に戦意喪失していた。

よろよろと地面に尻餅を付く。


シュリは、




「やれやれ終わったか……。しかし、弱いな……」




と他には聞こえないように呟いて、イシスの居る方を見据えた。



 そこには…………。




青年が、イシスに詰め寄っている最中。

と、言う光景が繰り広げられていた。








「お前……」



青年が、ゆっくりと首を巡らす。

その目に飛び込んで来た物は、情けなく地面に横たわる部下の中でも選りすぐりの3人だった。



「はぁ? あの程度で国1番だと? だったら、余程の腑抜けの集まりらしいな。あれでは、ディングルの一匹すら倒せないと思うが? なぁ、エステル王子様」



 シュリは唇の方端を吊り上げて笑うと、エステル王子様と呼んだ青年から剣を逸らし、掌に収めた。

シュリが何故、彼を王子と見抜いたのか。




『あれは確か、近衛師団の制服だった。かま賭けたら大当り、か』




と、まぁそんな理由からだった。

話は変わるが、シュリが例えに出して言ったディングルだが、それはそこいらの森には、必ずと言って良い程に生息する、一般的な肉食魔獸の事だ。


彼は、その魔獸を例に上げ、この国の兵士の弱さを指摘したのだ。

これでは隣国が攻めて来た時、ひとたまりも無いだろう。

良いのか? 大国がコレで。

危機管理が全く成ってない。

シュリは、心の中で嘆息を付くと、気を取り直してイシスに向き直った。




「さて、お姫様。この追いかけっこの理由、俺達は、知る権利があると思うんだが……」




シュリはそう言うと、片手を振ってロイの結界を無効にし、イシスの手を取って、立ち上がらせた。

イシスが顔を上げると、シュリの青碧色の瞳と目が合った。


はっと息を呑むイシス。


先程は感じられなかった筈の彼の美貌に、今更ながらに気付く。

思わず、




「きれい………… 」




そう呟いてしまった。


 
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