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黄金を纏し少女

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イシスの揺れ動く心が、全て御見通しだとでも言うのか、女性は頷くとイシスに語り出した。




「よくお聞きなさい。イシス。貴女は明日、この城を出て、街へ行くのです。」

「街へ……ですか?」




女性はこくりと頷くと、イシスを一瞥し、話を続けた。




「街で貴女は『青碧の魔術師』を探し出さなければなりません」

「『青碧の魔術師』……そんなの、無理です! だって、かの人は伝説上の人物です! 実在するはずがありません!」




そう叫ぶイシスに女性は、悲しげに顔を歪ませる。




「忘れてしまったの? 何時も夢に見て、貴女と共に過ごしていた少年は、覚えている?」




イシスは、弾かれた様に顔を上げる。

それは、何時から見始めたのか定かではない夢。

最初にその少年と出会ったのは、精巧に造られた花園の中だった。




「君は、だあれ?」

「私? 私はね、イシスって言うの」





そんな出会いから今まで、頻繁ではなかったが、彼の夢を見る様になった。

会う場所は何時も同じ花園で、イシスは会う度に名も知らぬ彼と話し、彼に惹かれて行った。

その彼が。




『あの男の子が青碧の魔術師?』




「あなたの言いたい事が、よく解りません……。だって彼は私とあまり歳が変わりませんし……」

「貴女の夢の中の彼はね。その内解るでしょうけど、彼は、貴女の知る彼と少し違うの。それから、今もこの世界にちゃんと生きているわ。私にとっては、伝説の魔術師でも何でも無い人だけど……」




遠い目をして懐かしむ彼女の顔が、優しく和んでいる。

イシスは、何故かとても女性の事が羨ましくって仕方がなくなっていた。


彼女は、しばらくしてからイシスを認め、申し訳なさそうに笑った。



 「ごめんなさい。昔を懐かしんでしまっていたわ。とにかく貴女は街で彼に会う事。彼は昨日、この街に、着いた所よ」

「でも、どうやって探したら……」

「闇雲でも良いの。探しなさい。そうしているうちに、追手が貴女に掛かるわ。逃げて。逃げて、逃げて、そして最初に出会う人が、彼よ」

「その様な方法で、本当に会えますの? 」

「必ず出会うわ。貴女と彼は、そうなの。そう言う運命なのよ。彼は知ってのとおり、青銀の髪と青碧の瞳を持っているわ。あの輝きは今でも変わらない。それを目印にしなさい。私は、亡くなる時、あの人に約束したの …… 。生まれ変わったら、必ず貴方にもう一度、出会うから……そして、もう一度……と………い………」




急に彼女の声が小さくなって行く。 

そして、遠ざかっていく。




「待って!! 話がまだ終わっていません!」

「貴女が……目覚めようとしているの……」

「待って!! せめて名前を、名前を教えて下さい!!」

「私は、セレナ……『青碧の魔術師』の、ただ1人の……戦乙女……。あの人の側に居てあげて……何があっても側に……」




かろうじて聞き取れた、彼女の声。



イシスは、そこで目が覚めた。




「セレナ……。戦乙女……もう一人の私……」


 
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