【完結】青碧の魔術師～黄衣の王と黄金の姫君～

契約

③

シュリは準備とばかりに皮ベルトに下げている短剣を抜き取る。

皮ベルトには短剣の他にポーチも２つ程下がっていた。

他者と変わりない冒険者の出で立ちである。

そんなシュリをイシスはジッと見ていた。


モジモジ、ソワソワしながら …… 。


それに気付いたシュリが、



「ん？ どうした？ 」



と、イシスに問い掛けた。

逸れくらい挙動不審だったのだ。

イシスは、未だにモジモジとしていたが、ぐっと効果音が付くかと思う勢いで顔を上げると、シュリに言った。



「やはり、痛いのですよね。痛いのは怖いです ！ 」

「痛いのは一瞬で、傷も跡も残らないよう綺麗に塞いであげるよ」

「でも……、痛いのは苦手です……。怖い…… 」



本当に怖いらしい。

イシスがぷるりと震える。


シュリが上手に口角を吊り上げると、柔らかな笑みが現れた。

少しでもイシスが安心するように。




「イシス。血を取るのが嫌なら、口付けしか無いぞ。良いのか？ 」




シュリの言葉にイシスはこくこくとうなづく。

そして、きちんとシュリの顔を見て言ったのだ。



「シュリだから。貴方様ですから………… 。何時か無くすものであるならばシュリ様がいい…… 。シュリ様なら嫌では無いです」



目を見張るシュリ。

浅く一呼吸すると、唇を笑みの形に再び吊り上げた。

先とは違う微笑みで。




「イシス …… 。馬鹿だなぁ。こんなおっさんに…… 」




イシスにとって、キス一つでも冒険だとシュリは気付いていた。

無理をしている事も。

でも、それ以上に血を見るのと痛いのは嫌らしい。

キスのがまだマシと、思うくらいには。

まぁ、幸いシュリは『神の造形物』と言っていい位には美形だ。

自称おっさんと言う割には見た目も若い。

20代半ばと言う位だ。

そりゃあ、18歳のイシスからしたら立派な『おじさん』な訳だけれども……… 。









「目を閉じろ。開けられてると、やりずらい……。其れと、口、少し開けて」




そう言いつつ、シュリは左腕で、イシスの腰を引き寄せて右手で彼女を仰のかす。


そして。


イシスの唇を塞ぐ感触に彼女は、閉じた目を見開いた。

シュリの顔がぼやける程近くにある。

合わさった唇から薄く開いた隙間からシュリは舌を差し入れる。

口内を探るように蠢く舌が、ついにイシスの舌を見つけ出して、甘く彼女に絡みつく。

初めてのキスをハナからディープな形で奪われて、さすがに気になる人でもついつい逃げ腰になってしまう。


だがそのうち、抵抗する意思すら剥ぎ取られて、イシスは、シュリに抱きすくめられたまま、その身を彼に預けていた。


胸が掻き乱されて苦しいのは、息が出来ない苦しさなのか、はたまた恋しい人との口付けのせいなのか。




『あぁ……もう駄目。このようなキスは、初めてです……私……』




身体に甘い疼きを覚え、立っている事すら叶わない。


身体が足元から崩おれていく感覚に、イシスは襲われる。


意外と逞しい腕が彼女を抱え込み、近くのソファーにシュリはイシスごと座り込む。

そして、今迄よりもなお深く、イシスを味わいつくしていくのだ。