【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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契約

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その深い口付けは、もう契約の其れではなかった。

深く互いを信用しあっている恋人達のそれだ。

イシスの舌を絡めあげて巧みに誘い込む所作は流石さすが手慣れている。

伊達だてに長生きはしていないか……… 。



ようやく、永い永い口付けも終わりに近づいた。

重なった唇が離れて、2人を繋ぐ銀の糸もぷつりと切れた時、イシスは酸素を求めて荒い呼吸音を見せた。



「はぁ、駄目だなぁ。自重しようとしていたのに……… 」



シュリの言葉にイシスが顔を上げる。

目の前には近過ぎる距離のシュリの唇。



イシスの頬に添えられたシュリの掌に、彼女は無意識にすり寄って涙目を見せた。



その姿は、形容し難い程愛くるしい。

シュリはその姿に息を呑んだ。






見上げた先にはシュリがいた。




「何故なのでしょう……… 。私、貴方様が……… 」




『目は口程にものを言う』とは、良く言ったものだ。

うるうると潤むイシスの瞳が揺れている。

『好きです』と言葉にしなくても瞳に現れている。



『それ以上は言うな』と、シュリは自分の唇に指を一本立てて態度で示した。

『し~っ』と言う動作は万国共通なのか。

せぬが話を先に進めるとする。




「その言葉は簡単に言っちゃいけない。言葉にはね、魂が宿るんだ。『言霊』という魂がね ……… 」



妖艶に笑むシュリだったが、その瞳はガラス玉のようで感情の欠片すら無い。

頬を赤らめ、微笑みに満ちていたイシスの表情が陰った。 

先程の情熱は何処へ消え失せたのか。

平静と何ら変わらぬシュリにイシスは寂しそうに眉根を下げた。



「そんな顔をするな。姫は笑った顔の方が素敵だ」



それは、シュリの本心なのだろう。

硝子玉の瞳に僅かだが光が宿る。

イシスの頭を撫でて、その手を耳の後ろから頬へと移動させて彼女の顎を上げさせる。

その一連の動作はとても滑らかで。

自然体だった。



「どんなしがらみにも左右されず突っ走るには、私は歳を取り過ぎた」



イシスは言葉を発しない。

ただ、シュリを見詰めるだけだ。



「姫、貴女はこの国の姫君だ。今はトレントに縛られているが、逸れも私が解放する。そうなった時、姫の身柄は姫だけのものでは無くなる。その意味は、解るな」



シュリの言葉にイシスの瞳が動揺に揺れ動いた。



「シュリさま。貴方は私に恋をするなとおっしゃるのですか?私は一国の姫の前に独りの女です。女なのですよ……… 」



最後には力無いイシスの声音。



「否、其処までは言わない。強いて言えば、『私以外との恋』かな」

「つっ………… 。私とでは迷惑ですか? 」

「そんな事は……… 無い」

「なら、私とシュリさまでは、時間の流れ方が違うから……… ですか? 」



首を傾げながら言うイシスに、シュリの目が瞬いた。


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