21 / 90
契約
④
しおりを挟むその深い口付けは、もう契約の其れではなかった。
深く互いを信用しあっている恋人達のそれだ。
イシスの舌を絡めあげて巧みに誘い込む所作は流石手慣れている。
伊達に長生きはしていないか……… 。
漸く、永い永い口付けも終わりに近づいた。
重なった唇が離れて、2人を繋ぐ銀の糸もぷつりと切れた時、イシスは酸素を求めて荒い呼吸音を見せた。
「はぁ、駄目だなぁ。自重しようとしていたのに……… 」
シュリの言葉にイシスが顔を上げる。
目の前には近過ぎる距離のシュリの唇。
イシスの頬に添えられたシュリの掌に、彼女は無意識にすり寄って涙目を見せた。
その姿は、形容し難い程愛くるしい。
シュリはその姿に息を呑んだ。
見上げた先にはシュリがいた。
「何故なのでしょう……… 。私、貴方様が……… 」
『目は口程にものを言う』とは、良く言ったものだ。
うるうると潤むイシスの瞳が揺れている。
『好きです』と言葉にしなくても瞳に現れている。
『それ以上は言うな』と、シュリは自分の唇に指を一本立てて態度で示した。
『し~っ』と言う動作は万国共通なのか。
解せぬが話を先に進めるとする。
「その言葉は簡単に言っちゃいけない。言葉にはね、魂が宿るんだ。『言霊』という魂がね ……… 」
妖艶に笑むシュリだったが、その瞳はガラス玉のようで感情の欠片すら無い。
頬を赤らめ、微笑みに満ちていたイシスの表情が陰った。
先程の情熱は何処へ消え失せたのか。
平静と何ら変わらぬシュリにイシスは寂しそうに眉根を下げた。
「そんな顔をするな。姫は笑った顔の方が素敵だ」
それは、シュリの本心なのだろう。
硝子玉の瞳に僅かだが光が宿る。
イシスの頭を撫でて、その手を耳の後ろから頬へと移動させて彼女の顎を上げさせる。
その一連の動作はとても滑らかで。
自然体だった。
「どんな柵にも左右されず突っ走るには、私は歳を取り過ぎた」
イシスは言葉を発しない。
ただ、シュリを見詰めるだけだ。
「姫、貴女はこの国の姫君だ。今はトレントに縛られているが、逸れも私が解放する。そうなった時、姫の身柄は姫だけのものでは無くなる。その意味は、解るな」
シュリの言葉にイシスの瞳が動揺に揺れ動いた。
「シュリさま。貴方は私に恋をするなとおっしゃるのですか?私は一国の姫の前に独りの女です。女なのですよ……… 」
最後には力無いイシスの声音。
「否、其処までは言わない。強いて言えば、『私以外との恋』かな」
「つっ………… 。私とでは迷惑ですか? 」
「そんな事は……… 無い」
「なら、私とシュリさまでは、時間の流れ方が違うから……… ですか? 」
首を傾げながら言うイシスに、シュリの目が瞬いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる