【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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近衛騎士団詰め所

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掌から現れた刀は、緋色と言って良い赤さで、美しすぎる刀身をしている。

逸れを空中に浮かべたまま捧げ持っていたシュリは、短く一言、



「顕現」



と、囁いた。

紅蓮が赤く発光すると、瞬く間に丸い球体へと変化する。

逸れが直径80センチ程に成長して、パンッとはじけた。

球体の中には刀は無く、替わりに少女が丸くなって眠っている。

短く切った緋色の髪がふわふわと宙に舞っていた。

少女がゆっくりとシュリの腕に降りてきて、猫を抱くように収まった。

寝顔は、幼子のように愛らしい。

イシスは駆け寄ってシュリの腕の中の少女を見やった。



「可愛い。幼い騎士様ね」



覗き込んだイシスが目を細めて笑う。

少女は、騎士見習いのような、簡素な騎士服を着込んで居たのだ。

騎士服は漆黒に白と銀の糸で縁を刺繍取りされている。

詰められた襟に折り込まれた袖にも白と銀の縁取りがされていた。

懐かしきかな、ザイラスの黒騎士の制服だった。

まぁ、それの何十分の一のサイズなのだが、細部まできっちりと再現されていた。

二人で見つめていると、少女の目がパチリと開いた。

その瞳はやはり、燃えるような緋色だった。



目を開けた少女の目の前にイシスの顔が有ったから、少女の顔にぱあぁぁぁと、満面の笑みが浮かんだ。



「主様だ! 主様っ!  セレナ様っ!」



叫ぶように訴えて、少女はイシスの首根っこに腕を回して抱き付いた。



「紅蓮。セレナじゃないよ。良く見てみな」



と言うや否やイシスの非難めいた言葉が、シュリに投げ掛けられる。



「シュリさま、一体何時、どこで、浮気なぞ、なさったのですかっ! もしや、セレナが亡くなった後とか?! 」



それがこの言葉で、表情は変わらないまま、声音だけは呆れたような物言いで、シュリは、イシスに注意した。

誤解だけは勘弁してほしいので。



「イシス、落ち着け。紅蓮は人では無いだろう」



イシスは逸れを聴いて、端と気付いた。
 
そうだ、紅蓮は刀だった。

イシスは、其処で漸く気付いたのだった。






「俺は紅蓮の製作者なんだ。だからこいつは俺の事を父と呼ぶんだ」


この美しい刀をシュリが作った。

にわかには信じられない事だった。



「まぁ、ちょっとした興味本位って奴だったんだけどね……… 。俺の生まれ育った屋敷の書庫に、古い物語があってね。その中に『紅蓮姫ぐれんき』と言う名前の剣が書かれていて、どうせ作るならと、参考にさせて貰ったんだ。まぁ、結果的には随分と違った物になってしまったんだけどな」



昔を懐かしんでいたのか、ふっと表情が和らぐ。

多少の変化しか無かったが、それが逆に見る者に新鮮味を味あわせた。


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