【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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王女の花園、魔術師の庭園

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駆け出したロイの後を追うように、シュリは、ゆっくりとした足取りで歩みを進めた。

イシスとシュリ、双方の間に、会話と言う会話はなかったのだが、途切れた言葉に、居たたまれない感じは無い。

静けさの中で、ゆっくりと、時が進んでいる。

そんな居心地の良いまどろみの中、


ざあぁぁぁぁ──── 。


と言う音を立てて、風が舞った。

風は、くるくると舞い踊り、空へと駆け上がっていく。

それに伴って、辺りが一瞬で淡いピンク色に染まった。


その光景を作るは、薄紅色の小さな花弁。


何処から ────?


シュリは、そういぶかしんで辺りを見回さしてみても、発生源に、皆目見当も付かない。

マズい。

非常にマズい感、半端ない。

これは普通じゃ無い。

そう感じたシュリは、流石に焦りを見せた。


あったり前。

シュリ程の力を持った男が、この現状の発生源を掴めないと言う事は、非常に稀なのだ。

この薄紅色の花弁の正体を知るのは、此処に居る者なら、シュリとロイだけだ。

勿論、セレナも見知ってはいるが、イシスに、此処までの記憶は、無い。


そう、これは文字通り、桜吹雪。


だから可笑しいのだ。


此処に、この花園に、桜など無いのだから。


そう言う訳だから、シュリが焦ったのは、致し方無い。(大切な事は、2度言っておこう)


「イシス!! こっちだ!! 」


叫びながら、同時に駆け出して、彼女を確保する。

定説じょうせつなら此処でイシスが捕らわれたり、消えて居なくなったりするのだが、そんな事も無く、彼女は、シュリの腕の中に収まった。(良かった、良かった)

シュリはと言うと、イシスを抱き込んで、様子見をしている。

桜吹雪は、イシスから今度はシュリをも巻き込んで、ヒュッと一部唸りを上げた。

唸りを上げた部分に吹いた風が、其処にある花びらをもぎ取り散らす。

その状況に、シュリは思わず舌打ちをしていた。


「この俺相手に、風を使うとはね。怖いもの知らずも甚だしい」


シュリは、イシスを抱き抱えたまま、真っ直ぐ手を伸ばした。

今は、彼女を隠すコートの1つすら羽織っていない。

だから、一国の王女(それも大国)を抱き竦める等と、失礼極まりないと知っては居たものの、為す術もない。


「窮屈だろうが、少しの間我慢してくれ」


と言って、腕の中でこくこくと頷くイシスを確認した。

イシスとて、気付いていたのだ。

最初は、綺麗だと思っていた桜吹雪が、今は身の危険を感じる程の小さな竜巻のようになっている事を。

その中心に、自分とシュリがいる事を。


けれど、こんな状況に晒されていても、何故か不安は一つも無い。


─── それはきっと、シュリさまの腕の中にいるから。怖くなんて、無い ───


イシスは、確信していたのだ。

自分は、守られているのだと。
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