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魔術師ふたり

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「ちょっと! ちょっとシュリ! 待てって! 私の話も聞けって!!」

「問答無用」


シュリは、どうやら本気まじでこのふざけた父親を跡形も無く消しさりたいらしく、躊躇ちゅうちょ無く右腕を真上に振り上げ、男を指射した。


シュリの足下から立ち昇った細長い風が、蛇を形取り、男に襲い掛かる。


「シュリってばマジだったんだ……」


──クスン……父様とうさまとおっても悲しいよ。大事な大事な1人息子に、こんなに嫌われてるなんて──


あぁ、情けないやら、悲しいやらと、小声で呟く声も、やけにクリアに聞こえる。


男はその身を、風の蛇に好きな様に巻かせたまま、大根役者さながらに、さめざめと息子であるシュリに訴えた。


内心、ンペッと、舌を出しながら…… 。

だが、シュリ息子も一筋縄ではいかない男だった。


「大根役者が…… 好い加減、ここに来た本当の理由を言え。『創世の魔術師』そうせいのまじゅつし!!」



シュリの気がピリピリと空気中で震える。

父の顔がにやけた優男から、一瞬のうちに魔術師の顔に変わり、 彼は、シュリの作った蛇を、手の一振りで消しさった。



「本当に、からかいがいの無い子だねぇ…… 。糞真面目も程々にしなね──シュリ」

「あんたは……まだ言うかっ!」


シュリの剣幕に、父は慌てて手を振りながら、



「真面目に話すって! 真面目に……」



あせった声をあげた。









「で、わざわざ宇宙そらからこの地上迄、何しに来た。イシスを見にきた等と、ふざけた事をぬかすなら、のし付けてお袋の所に叩き帰すからな」




睨み付けるシュリの顔が険しい。


シュリとて解っていた。


この男が、一時でも女王陛下かあさんの下を離れたのだ。



何も無い訳が……無い ──── 。



「あのねぇ……… 、シュリ。ぜぇ~っ、対、怒んないって約束出来る? 」

「は? そんな事、事と次第によるに決まってるだろうが」


言葉を文章だけで見るとしたら、どちらが親だが解らない。

嫌、シュリのが親に見えかねない状況に彼は、内心頭を抱えた。


「なら言えない。ぜ~ったい、言えない」


実は、シュリにも唯一解る感情がある。

それは、この父親のせいで湧き上がる、怒りと言う感情だ。

つーんとそっぽを向く父に、ぐったりとうなだれる息子。

シュリは、かろうじて心に灯った怒りを抑え込んだ。



悲しいかな、この男は、昔からこうなんだ。

この父親のふざけっぷりは、今も昔も変わらない。

きっと、揉めても暖簾に腕押し状態になるのは、分かりきっているのだ、此処は自分が大人になるしかない。

そう考えたシュリは、


「解った。解ったから言え」


と、我慢比べから早々に離脱したのだった。



 
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