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ロンディア王国王立図書館
②
しおりを挟む「姫様のため……ですか? 一体何があったのです?」
イズナエルは、首を捻る仕草でエステルに、訳が解らないと問い掛けた。
「イズナエル室長にも知らなかった事があったのか…… 。実は今ね、『青碧の魔術師』が城に滞在しているんた……… 」
エステルはそう言って、事の次第を説明し始めたのだった。
─────────────
────────
────
「承知しました、そういう事でしたら少し調べてみましょう。姫様の御為です。私も協力させていただきますわ」
力強いイズナエルの言葉に、エステルは破顔すると、強い味方を得たと彼女の手をとり、ブンブンと振り回しながら礼を述べた。
意外な力で振り回されて、イズナエルはぐらつきながら何も無いような口振りで話を続けようと奮闘する。
「王子殿下に至っては、姫様のパーティーの準備でお忙しい事でございましょう。ですからこの件は私めにお任せ下さいませ。お調べてしておきましょう」
エステルはイズナエルの言葉に甘え、
「ありがとう! イズナエル室長」
と、言って再び彼女の手を取り、ぶんぶん振り回した後、図書館を後にした。
残されたイズナエルは、ふらふらとよろめきながらも、書庫の奥の奥へと足を進める。
── 殿下に任せるとわたくし同様、大切な蔵書達もボロボロに成ってしまいそうですもの ──
そう思いつつ書棚を見上げた。
口に出さないのは、不敬罪に値したら困るのは、自分だから。
それなりに大人な室長であった。
さて、この部屋の歴史的書物は、持ち出し禁止の上、司書を同席させての閲覧しか出来ない。
ザイラスの歴史を綴った書物は数も少なく、この国自身が謎の多い国とされている。
そんな国の歴史を綴った書物が、閲覧しやすい所に有る訳が無い。
イズナエルはそれを考慮していたのか、書庫の奥で二冊の本を見付けていた。
パラパラとめくって見るが、めぼしい情報が無い。
特に、魔術師に関する記述が無いに等しい。
溜め息が、知らず知らずにこぼれ落ちた時。
司書のカウンターの向こうから、男の呼ぶ声が聞こえてきた。
返事を返し、おもむろにカウンターに歩み寄ると、この辺では珍しい黒髪の男が、にこやかな微笑を口元に張り付けて立っていた。
東の国の出身だろうか。
黒髪は東特有の色だと、イズナエルは男をじろじろと値踏みしながら考えていた。
「あの……蔵書の寄附をしたいのですが……」
イズナエルは男に言われて、慌てて顔をテーブルに向けた。
とても古い書物。
それは、丁寧に扱われていて、装丁も幾度か修理されていた。
だが、それ以上にイズナエルが驚いたのは、その本がザイラスの歴史書だった事であった。
「あの……これは……」
イズナエルが、呟きながら顔を上げる。
彼女が、息を呑む声が静かな図書館にやけに大きく響いた。
そこには既に人っ子一人無く、男の姿は初めから無いかの様に掻き消えていた。
古びた書、ただ一つだけが、男がそこにいた事を指し示していた。
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