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思惑
①
お城の中で一番大きなホールは、招待客でひしめき合っていた。
客の到着を告げる使用人の途切れぬ声に、訪れる来客の多さを思い知る。
シャンデリアには蝋燭の明かりが灯り、テーブルには数多くのご馳走が、所狭しと列んでいた。
楽隊が、部屋の隅で踊りに相応しいテンポの楽を奏で始め、着飾った男女が手を取りあいホール中央に集まりだす。
シュリはそんな光景を何と無くだが見つめ、その後辺りに目を配った。
一つは、場内の観察の為。
もう一つは、人外の者が訪れていないか、監視する為。
こんな事になるとは考えていなかったので、十分な準備をしていない。
如何せん、魔術の道具が少な過ぎて心もとない。
いざとなったら、召還魔法と言う手もあるが、極力使いたくは無かった。
『あのふざけた親父に頼むのは嫌なんだが、そうも言ってられないか…… 』
そんな事を考えながら、シュリは回りの明るさに目をすがめた。
白い壁が、蝋燭の明かりを反射して、辺りを直一層明るく照らしている。
良く考えて造られているお城だった。
昼間は太陽の光をふんだんに取り込み、夜には少しの蝋燭の明かりで自らが輝く。
そんな城で壁の花よろしく立ちすくむシュリは、ホールの隅のテーブルの側にいた。
窓際に整然と列ぶ、テーブルの下には、ロイが潜んで料理に舌鼓を打っている。
テーブルの足元迄有る、テーブルクロスの御蔭で、ロイは難無く食事にありつけていた。
「はぐはぐ……」
ロイが、必死になって食べる音が聞こえる。
シュリは、ロイの隠れている方へ視線を落とし、クスッと笑った。
「ロイ、蓮に連絡を取ってシールドを頼んでおいてくれ」
「蓮様? まだ居てたの?」
随分な言い草である。
「あぁ。何か良からぬ事を企んでいるようだがな……あのじじいは」
どっちもどっちの言い草に、ロイは溜め息をつく。
「しゅ~り~、仮にも自国の宰相捕まえて、じじいはないんじゃない」
「あぁん……あんな奴、じじいで十分」
自分の発言は棚に上げるロイには、シュリの声音だけで、不機嫌な事が十分わかる。
「何でこんなに仲悪いんだろ、あの二人。似た者親子だと思うんだけどな……」
ボソボソと呟いた声は、テーブルクロスで遮られ、シュリの元へは届かない。
「ロイ……」
声をかけられ、滑り込んで来たのは、魚とマッシュポテトの乗った皿。
ロイは嬉しそうに『にゃ』っと一声鳴くと新たな皿に顔を突っ込んだ。
モグモグと一心不乱に料理に舌鼓を打つロイに、シュリが呟く様に言った。
「何か嫌な予感がする……なるだけ先手を打ちたい。頼むぞロイ」
「……了解」
シュリの真面目な声に、ロイは食べるのを止め、背筋を伸ばすと簡潔に答えたのだった。
シュリの感は良く当たる。
母方の血筋のせいで、普通の魔術師とは一線を引かれている彼だ。
『青碧の魔術師』とは、本当に謎、大き人物だった。
ザイラスが滅びてからは、文献すら灰となったので、彼どころかザイラスの歴史さえおぼつかない。
様々な事が、謎とされている。
魔術師も魔女も……。
守護者や戦乙女も。
そして、かの国に住む一般の国民でさえも……。
「ねぇシュリ」
シュリはロイの呼びかけにはたと現実に引き戻された。
「なんだ?」
返事を返すシュリに、ロイが投げ掛けた疑問は。
「トレントは、どうやってあの人のかけた封印を、解いたんだろうね? おいらふに落ちないんだよ」
「俺自身もだよ。何か別の力が働いたのかも知れない」
「どんな力……?」
シュリは、ロイの言葉には答えなかったが宙を仰ぎ、溜め息を一つ付いた。
両眼の内、片瞳が青碧では無く、青紫であった事に、誰も気付く事は無かった。
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