【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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戦闘人形

「ですが、この手合わせも、時間の無駄と成りましょうな。其処なるどこの馬の骨とも解らぬ『自称魔術師』などより、わたくしのがよっぽど優秀だと言う事を知らしめてご覧にいれましょう」


と、言うリスノー伯の決意は、何処か的外れで滑稽こっけいだった。

絡み合わない歯車が、ギシギシと音を立てて回っている。

シュリが苛立ち始めていた。

そう感じる事が出来るのは、この場に一匹しかいなかったが、その唯一の者も、出あぐねて、ここにはいない。

貼り付けていた感情が、剥がれ落ちて行く。

苛立ち、ささくれ立つ感情の感触が、ざらついて気持ち悪い。 


ほとほと、馬鹿を相手にするのは疲れると、シュリは溜め息をこぼすと、イシスの下を辞して、レイノルズの横に立ち、彼を制する為言葉をかけた。


「もういいよ、レイノルズ。すまないね。危険だからとわざわざとうざけてくれたのにね。どうやら分からず屋には、身体で分かって貰うしか無い様だよ…… 」


リスノー伯をちらりと見つめ、レイノルズにしか聞こえないよう、悪態を付くシュリに、何か言いかけた彼だったが、シュリを見て頭を下げると、何も言わずに数歩下がった。


「リスノー伯爵? と、呼んでよろしいですか? 一応聞いておきますが、魔人トレントの前に数百の魔物退治が控えてるって事、理解しているのですか?」


シュリは、慇懃無礼に成らないよう、一応敬語を使いリスノー伯に問い掛ける。

彼は、その言葉に、


「数百?」


と、首を傾げた。


初耳だと言うかの様に発する声音は、何処か不思議そうで事態を把握していない様に聞こえる。

シュリは、削ぎ落とした感情の現れない顔つきのまま、リスノー伯に答えた。


「そう。前回はざっと数えても400はいました。今回はそこまで無いにしても、全くいないとも限りません」

「お前…… まぁ、お前の言う通り、貴様の事を『青碧の魔術師』と、言う事として、お前が魔人を退治しそこねたせいで、姫君がおいたわしい目に遭ったのだな……… 」


独り何かに納得をするリスノー伯に、全くもって、会話が噛み合わない上に、貴族の思い上がりが、薄い唇に刻まれる。

あからさまにシュリを馬鹿にした態度だ(無知とは時には恐ろしいもんだ)。

シュリが赤の他人に、暴言を吐かれるわれは無い。

辺りに嘲笑めいたざわめきが広がり、平然とするシュリの代わりに、レイノルズがイライラと怒りの声を上げようとした時だった。


「およしなさい! リスノー伯爵。言葉が過ぎましてよ!!」


その場に、凛とした声が響いた。

イシスの上げた声だった。



 力強く覇気が有り、明確な意思を持つ彼女の怒号。

有無を言わさぬ勢いのある声に、シュリまでが目を見張る。

感情を削ぎ落とした顔に、咄嗟に表れては消えた、シュリ自身の無くした感情。

明らかに自分を庇うイシスの思いに、シュリは胸の内で戸惑っていた。


『こういう馬鹿は相手にしない事に限るが、まさか庇われるとは思わなかったよ……』


エステルまでもが意外な展開に目をみはり、妹姫の動向を見守る。

イシスは辺りを見回すと、ハッキリとした意思を持ってその場に臨んだ。


「彼を見つけ出したのは、このわたくしです。わたくしは、この出会いを偶然とは思ってはおりません。会うべくして、出会ったのだと思います。ですからわたくしは、彼の言葉を信じます。わたくしを救って下さると、信じております。皆さんが、魔術師様を侮辱すると言う事は、ひいてはわたくしを侮辱することだと、考えて下さいませ」


その声に、否を唱える者はこの場にいなかった。

それはイシスが皆に愛されている証拠なのか。

それとも統治者の威厳なのか。


『だとすれば、彼女の方が俺より余程、王者の資質があるよな……けどまぁ、それも……』


どうでも良い事か。

と、考えてシュリは辺りを見回した。


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