【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

文字の大きさ
62 / 90
ルルイエ異本


シュリ目掛けて打ち込むリスノー伯が、再度目に見えぬ何かに弾かれて、後ろへと後退する。 

シュリが、変わらず右腕を上げたままで、微動だにせず、じっと前を見据えていた。

否。

何か、言の葉を唇にのせている。

この場にいる誰もが、聞き覚えの無い言葉。

それは、音の様にも聞こえ、歌の様に響く。

歌の様な言葉は、次第にはっきりとした音となり、人の心の琴線に触れる様に、ゆっくりと辺りに満ちてゆく。

さすがのリスノー伯でさえ、攻撃するのを躊躇する程の声。

それが、魔術師の使う言の葉なのだと言う事を、誰も知らない。

知らなくて当然か。

シュリは、この世界に現存する、最後の魔術師なのだから。

そして、この不思議な言葉は、彼が魔術師なのだと言う事を、そこにいる全ての人々にしらしめた。


シュリの声が、周囲の状況を変える。

何処からか風が吹き込み、大理石のホールに、微かに塩の香りが漂う。


「深く蒼き海の底、眠りに落ちしルルイエの、都に眠る魔道の書。我が身に還り、我が声に応えよ。我、汝を召喚す。魔道書、ルルイエ異本!」


この言葉だけは、周囲の者にも聞き取れた。

だが、意味がよくわからない。


ルルイエの都とは。

ルルイエ異本とは。

シュリは、何を呼び出したのか。


何処から吹き込むのか、ますます潮風が強くなる。

竜巻と言っても過言では無い風が、シュリを中心に、外に向かって渦巻く。

それは、暫くシュリの回りを渦巻いていたかと思うと、突然動きを変え、彼の手の平から、上空へと、速度を上げて立ち登っって行った。

その強い風と共に、虚空に顕現したのは、一冊の大きくて分厚い本。


その姿は巨大で、装丁は不気味だ。

何故かと言うと、その魔道書の装丁は、人の皮を使用して、できている物。

そしてその表(おもて)には、人の顔が張り付いていた。


宙に浮く魔道書と、それを眉一つ動かさず凝視するシュリ。

そんな異常な状況で、回りがざわつくのは無理もない。

痛い程の人々の眼差し。


驚愕におののく人々の声と、視線に晒される中で、ルルイエの書は、シュリの手の平の上まで降りて来ると、彼の前に顔を向け、ゆっくりとした動作で、閉じていた目を開いた。

 目を開けた本は、シュリより若干年上程度の男。

そいつが開口一番にいった台詞が、


「久方ぶりにまみえる。我等が黄衣の王にして風の神ハスター」


と言う言葉。

それを聞いた途端に、シュリはあからさまに嫌そうな顔をしてみせる。


「俺は、ハスターでは無いと、何度言えは解る」

「間違ってなぞおらぬ。確かに器は違うが、その身に宿る魂は不変。かわりなきもの。ハスター様に相違ない」


溜め息を付いて肩を竦めるシュリと、文字通り頑固一徹を貫き通す男。

ルルイエ異本と交わすこの会話は、シュリとの間で幾度となく、交わされ続けてきた。


だが、いつも平行線をたどり、何の変哲もない。


「つったく…… 。挨拶なんぞどうでもいい。そんな事より、お前の力をかせ」

「うむ。それはもとより承知している。我は召喚の書。何を喚びたい?」


ルルイエの言葉に、少し考え倦ねるシュリは、自分の思考を率直に、ルルイエに投げ付けた。


「なんでも……と言いたい所だが、とんでもない者を呼び出されたんじゃ後が面倒だ。奴に少し、脅しをかけたいだけ、なんだがな……」

「ならば、ハスター様の僕、ではどうだ?」

「いや……あれはこの場にふさわしくない……混乱を招くだけだ。だからおまえの角を貸せ」


本気なのか冗談なのか、シュリの言葉に眉根を寄せて複雑そうな表情をするルルイエ。


「この、ルルイエ異本わたしをわざわざ呼び出して、やる事と言ったら本の角でぶったたく物理攻撃ですか………… あぁ、お労わしや…………シクシクシク…… 」


此処にも居たか、大根役者。

眉をしかめるシュリの横から、漸く正気に返ったリスノー伯の、怒鳴る声が辺りに轟いた。


「何をクダクダと言っている! 人を散々馬鹿にしおって! お前達、まとめて叩き切ってやる!」


確実かつ完全に、当初の目的を見失ったリスノー伯。

シュリは肩を竦め、ルルイエは深い溜め息を吐いた。


「ハスター様。あれは馬鹿か? 馬鹿なのですか? 」


ルルイエの言葉に、シュリが苦笑いをしてみせる。


「シュリと呼べ。確かにアイツは馬鹿だ」


彼らの、決して大きくはない呟きも、地獄耳のリスノー伯には筒抜けで、伯爵はキリキリと金切り声をあげ、理解しがたい言葉を喚き散らす。


「下品極まりない男だな。あれは。ハスター様に向かって、あのような暴言を吐くとは……」

「だから……俺は」


ルルイエの言葉に、意を唱えようとしたシュリの言葉が、ピタリと止まった。






 
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。