【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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新たなる影


「戯れ事では有りませんが……。本気で彼女に求婚しましたよ。惚れたかも知れませんね……」


シュリの言葉に男はニタリと笑って、イシスの顎を片手で持ち上げ、可憐で桃色に色付く、唇を奪おうと顔を寄せる。

それと同時に、鋭い風が巻き起こり、イシスが男の唇を避けようと身体をよじった。

シュリの放った風が、男の頬を掠める。

無意識に感情が動いた為に起こった烈風。


「ふざけるなよ。お前。おかしいと思っていたよ。トレントはあいつが封じたはずだったんだ。お前が、名を騙ったのか? それとも破ったのか?」

「トレント? あぁ……。あの雑魚の事……今だ封じられたままですよ。ちょっと、隠れみのにさせていただきましたけどね」


二人の会話にジタバタと暴れていたイシスの動きが止まった。


「嘘……。トレント?」

「ならよかったんだがな……イシス」


シュリは、男の動きを見据えたまま、イシスに語りかける。


「はいっ」


切羽詰まったイシスの高い声。

だが、次のシュリの言葉で彼女は、落ち着いた自分を取り戻した。


「今、助ける」


りんとした、強い意思の宿る声音。

シュリが、再度動くのと、男が上空に向かって飛び上がるのが同時だった。


「きゃあああぁ――」


男と共に空中に浮き上がるイシスの悲鳴が、シュリの耳に届く。


「ロイ、ここの連中を避難させろ」

「シュリは?」

「奴を追う」


その場で別れる一人と一匹。

男は、遥か上空へと逃げていた。


「イヤッ! シュリーッ!!」


泣き声にちかいイシスのシュリを呼ぶ声。

その時だった。

空中に浮かぶ男と、イシスの真後ろから、間延びした男の声が降って湧いた。


「あのさぁ、君。『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って諺、知ってる?」


何の気配もしなかった。 


後ろを取られた男は振り返る前に、両肩に激痛を感じイシスから手を離してしまった。

後ろの男に、両肩を一瞬で叩き潰されたのだ。

真っ逆さまにイシスが落ちて行く。


「シュリぃ~! イシスちゃん落としたからね~。後、ヨロシクゥ~」

「漣っっ! てめぇふっざけんなぁぁっ!」


シュリは叫びながら、落ちて来るイシスを受け止めようとダッシュをかける。

四階建ての建物の、吹き抜けとなっているこの城のホールのてっぺんから、真っ逆さまに落ちたのでは、無事にすむ訳が無い。

シュリが間に合っても、今度は受け止める彼が怪我をする。


シュリがただの人間ならば。


「イシスーッ!!」


気を失っているイシスの身体の落下速度が、シュリの起こす風によって緩む。

叫んだシュリが、咄嗟に起こした風が、意識の無い彼女を包み、シュリの腕の中にゆっくりと降ろした。

ホッと安堵の息を吐く。 

そんなシュリ達二人の側に、寄り添う様に二つの影が現れる。


「ナイスキャッチ! シュリ! さっすがだね」

「とりあえず、避難させたよ。後、どうする?」


緊張感ゼロの漣と、硬い声音のロイだ。


 「れんっっ! あんた、イシスに何かあったらどうするつもりだ?」

「おやおや? お前がいるのに、何か危ない事でもあんのかなっ?」


全く緊張感に欠ける漣に、無視を決め込む事にしたシュリは、イシスを抱えたまま、下降してきた男を凝視する。 

そんなシュリの横で、「今度は見事に無視なのね……くすん」父は悲しいよ~と相変わらずの漣が呟く。

そんなふざけた父が、至極真面目な声で、シュリに言う。


「シュリ。あれはトレントとは訳が違う。肉体ごとハスターに戻れるか? 気にいらんだろうが、解るな?」


漣の声音がすとんと落ちて、シュリの耳に届く。 


「仕方が無いんだろうな……不本意極まりないんだがね」


シュリの声音も真剣そのもの。

男から目線を外さず、軽くイシスを揺する。


「イシス、起きろ」


揺すられて、気を失っていたイシスが、呻き声と共に目を開けた。


「シュリさま……私……」

「もう心配無い。助けが遅れて悪かった」

「いいえ。私なら平気です。必ず助け出してくれると、信じていましたから……」




 
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