【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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新たなる影


「ビヤーキー、ビヤーキー。鳥でも無く、もぐらでも無く、蟻でも無く、蝙蝠でも無く、人間でも無い者よ。時と空間を渡る者よ。我、ハスターを讃えん。故、汝を召喚す。降臨せよ、バイアグヘー」


ロイの回りを風が舞う。

小さい風が、どんどん広く、高く、大きく立ち上る。

風は、ハスターの象徴。

竜巻の様な風が止む頃、中から現れたのは可愛らしい黒猫ロイでは無く、体長が2メーターを越す蜂の羽とお尻が特徴の、 どう見ても可愛いとは言えない者だった。


「あーやだやだ。この姿。なんで又、バイアグヘーなの? シュリ?」


悪態ついて腕を組み、話す声はロイのまま。


「結界と、音速移動はお前が適任だろう? バイアグヘー」


唇の端だけを吊り上げた笑顔を湛えたシュリは、 悪びれる事無く言い放つ。

蜘蛛の子を散らした後のこの場には、僅かな人間しか残って居なかったが、誰もこの場を去ろうとしない。

エステルに、近衛隊の3名、イズナエルまでこの場に留まっていた。

 漣とイシスが、漣の張った結界内に居る為、シュリはバイアグヘーをロイに召喚したのだ。

彼等を、彼女を護る為に。


「バイアグヘーか。考えたねシュリ」


イシスを庇いつつ、漣が呟く。

イシスが、変化したロイを見て息を飲む。

彼女の変化を感じ取ったのか、漣がイシスに優しく囁いた。


「あの子達を嫌わないでやってね。特に、シュリの事は……」

「貴方は一体……」


不思議と不安がないまぜになったイシスの表情に、漣はニコッと笑みをみせると、シュリがするのと同じ様に、イシスの頭をくしゃりと撫でた。


「シュリも言ったでしょ。親父って。正真正銘、あれの実父だよ」

「シュリさまのお父様…………!!」


暫し考え、イシスが気付いた事は。


「創成の魔術師様っ!」


漣の二つ名だった。


「あれ~? 私って有名人だったっけ?」


 とぼけた声を上げて笑う漣に、イシスの緊張も解(ほぐ)れていく。


「でも、どうしてシュリさまのお父様が此処に?」


イシスが言いたいのは、400年近く生きているシュリ。

彼の父親が、今まさに此処に存在する事実だ。


「とぉーっくに死んでなきゃいけない私が、何故此処に居るのか気になる?」


漣の言葉に思わずコクンとうなづいて、イシスは彼のプライバシーに踏み込み過ぎたと、気付き慌てて謝罪する。

だが、漣は気分を害した様子も無く、ニッコリ笑った。


「詳しい事は、シュリにも関係してくるから話せないけど、まぁ、手っ取り早く言うと、幽霊の一種……かな?」


言われて、思わずしげしげと漣を見てしまったイシスは、彼の向こう側が透けて見える事に、今さらながらに気が付いた。


「あっ……」

「ねっ」


イシスの声に、漣は相槌を打つと、ふとシュリ達の方に向き直った。


「ごめんねイシスちゃん。何か私達のゴタゴタに巻き込んでしまって……」

「えっ……?」


真剣な表情で、乱入者を睨む漣が、申し訳なさそうに謝ると、イシスは不思議そうに声を発した。


 「元々あの化け物は、異界の住人でね、私の生まれ故郷と同じ世界の住人なんだ」

「魔術師様の世界……」


感慨深げに呟くイシスの思考を、横から無理矢理遮って、漣が何かを思い出したのか、素っ頓狂な声を上げた。


「あっ! 私の事は『義父様』か『漣ちゃん』って呼んで欲しいなっ」

「えっ? で、でも……」


シュリが聞いていたら、間違いなくげんこつが飛んで来ただろう。

一見、ふざけた態度にしか見えない漣の申し出に、イシスは困惑し、戸惑いの声を上げた。


だが、漣の言い分はこうだった。


「だって、イシスちゃん、シュリの嫁さんになるんでしょう。なら私は、イシスちゃんのお父さんにもなる訳だし……それとも、シュリもトレントと大差ないから嫌かい?」

「えっ……? それは一体どういう事……」


『ですか?』と言いかけて、漣が「しっ」と、人差し指を自身の唇に当てて、『静かに』のポーズをとって見せた。

「見てて……。そうしたら、私の言う『意味』が解る。ほら……戦いが始まるよ。旧支配者……邪な神々の戦いが……」


漣が指差す方角には、イシスが愛してやまない男シュリが、対峙する男の腕から放たれる、触手の攻撃を弾き返していた。


 
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