【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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新たなる影


腕を下ろしたその時に、ほんの少しの力のカケラを形にして、ナイアルラトホテップの左肩に撃ち込んだ。

指先で弾いて。

それが食い込んだ瞬間に、触手が派手に爆発したのが、先程の怪音だった。


「くっっ……さすがハスター様。一筋縄では行かないですね」


苦し紛れに言い捨てる、ナイアルラトホテップの言動と、余裕釈々なシュリの態度。


「なめてかかっていたか? 残念だったな」


囁く様な声音は、普段のシュリとは違い、少し高く、ちらりと聴いただけでは、男女の区別も付けがたかった。

姿も声も明らかに違う、シュリとハスター。

だが、話す口調、醸し出す雰囲気は変わらない。 

イシスは何と無くだが、ホッとした自分に気がついた。


「シュリさまはシュリさま。どんなに姿形が違えども、あの方には変わり無いのです」


やけにしっかりと、確信を持って呟くイシスの言葉に漣がうなづいて、彼女を見た。


「上等、上等。それがわかっていれば、イシスちゃんは大丈夫だね。ハスターの事も受け入れられる」


『よかった』けど、


「問題はシュリの方に有るんだよね……」


 多分……と、漣は溜め息混じりで一人呟いて、


「……?」

  
と、何か言いたげなイシスを余所に、目線をシュリに向けた。

そこには、対峙する二人が。

危うい、一発触発な様相を呈していた。


「ハスター……様?」


かけられた声に、シュリがピクリと反応する。

フードを深く被ったままなので、端から見ると彼の表情は、相変わらず見て取る事が出来なかったが、声を掛けた者を注視した事は、気配で知れていた。

無言の促しが、声を掛けたルルイエに重くのしかかる。

その間も、双方の均衡は崩れる事無く、微妙な位置で保たれていた。


「ルルイエ、お前まだ召喚していないのか?」


シュリが、唐突にルルイエに話し掛けた。

もちろん正面は見据えたままで。

そんなシュリの言葉に反論するように、ルルイエが言った。


「無理です! あれは長年、ハスター様を捕縛、封印していた物です!あのような物を召喚しては、御身に危険が及びます!」

「かまわない。あれを殺す訳にはいかない……ならば捕縛して送り返すしか手は無い。あれでも神の端くれ、いなくなれば均衡が崩れる」

「ですが……」

「ルルイエ」


渋るルルイエに、シュリの声が重なる。

意見も反論も聞き入れそうに無い、頑(かたく)なな物言いに、ルルイエは黙って従うしか無かった。


「召喚。捕縛の椅子」


ルルイエが空中で召喚の呪文を唱えるタイミングで、結界を引いていたロイがシュリの下へ戻って来た。


「捕縛の椅子。あんな物呼び出してどうするの?」


ロイも、シュリの真意が読み取れない。


《捕縛の椅子》


それは、神の座す椅子。


神を捕らえ封じる為に、旧神と人間が協同で作り出し
た、ハスターをひとところに閉じ込める為に造られたアイテム。

遥か昔。

捕縛の椅子によって、捕らえられていたハスターが、どのようにして逃れたのか。

そして如何なるいきさつを持って、シュリとして、今を生きているのか。

それは、当の本人にしか解らない。

そんな彼が、己を縛り、封じるかもしれない、危険な道具を呼び出す真意。

それは、綿々と繰り返される『彼の思い』の中にあった。


「捕縛の椅子だと!?」


シュリとロイ、ルルイエの会話を、耳をそばだてて聞いていたナイアルラトホテップが、驚嘆の声を上げ、次の瞬間、辺りに彼の歓喜の声が響き渡った。


「丁度良い! 私がその椅子、使わせて頂きましょうか。貴方を捕らえる為に……」

「さて……そう上手く事が進むかな?」


嘲笑を、目の前の男に向ける、ナイアルラトホテップ。

それに対して、虚勢を張っている訳では、なさそうに見えるシュリの姿。

シュリの口角が、弧を書くようにゆっくりと上がって、笑みの形を作り上げた。

自然と滲み出る、余裕と自信。

それらに満たされた神は、その姿を隠していても内面から光り輝いて見えて、辺りの人々はその姿に、目を逸らす事が出来ないでいた。


 


 
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