【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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黄衣の王と黄金の姫君

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言葉に詰まるシュリに、漣がニヤリと笑う。


「なら何故!!」


声を荒げるシュリに、落ち着いた漣の声が重なる。


「今頃、助ける気になったか……だろ。それは、お前が自分のした事を、考え出したせいだから。後悔してるんだろ。自分のした過ちに。なぁ、ハスター」


優しげに微笑む漣の顔は、兄、クトゥルーの顔と重なる。

シュリ、否、ハスターは、深く重い息を吐き出した。


「あんたには負けるよ……」

「当たり前だ。こっちは伊達に、お前の兄ちゃんとシュリの親父を、やって無い」


きっぱりと言い切る漣には、余裕が垣間見える。

そんな彼が、シュリの首元からフードへと手を移動させた。


「じゃあ、剥ぐぞ」

「力が発動したら恨むぞ」


今一度、漣に言い添えて、シュリは覚悟を決める。

漣の指先が、フードの中に入り込み、ピシッと言う音と、シュリの呻く声と共に、深く被った彼のフードを跳ね上げた。

ハスターの素顔が、初めてあらわになった瞬間だった。

 剥がされたフードの中から現れた中で、一番目を引くのは、流れる様な青銀の髪。

シュリとは違って、銀よりも青が強い。

漣の手が、ハスターの額と顔にかかり、半分見えなくなっているが、人間離れした美貌は、損なわれる事は無かった。

女とも男ともつかない、中性的な顔立ち。

左右色違いの瞳。

そんな色白で細面の彼が、人とは決定的に違う所は、超絶的な美貌の他に、額を縦に裂く亀裂と、そこにはまる紫青の瞳だった。

その彼の額の、三つめの瞳が、目前の黄金の姫君をじっと見つめる。

心配そうに揺らめく、姫の蒼い瞳。

彼女は、『吸い込まれそうな瞳の輝きです』と、感じながら、目線を外せないでいた。

ぼーっとシュリを見ていたイシスは、漣の呼び掛けで、ようやく正気に返った。


「大丈夫かい? イシスちゃん」

「あっ……ごめんなさい……義父様……」

「おおっ!! 嬉しいねぇ。義父様って呼んでくれるなんて」

「はい。勿論です」


シュリを置いて、二人だけで会話が弾む事に、黙って聞いていた彼が、小さく溜め息をついた。


「よく呑気に、そんな会話が出来るものだな。聞いて呆れる」


 シュリの固い声音に、四つの瞳が、彼に注目する。

そのうちの二つが、笑う様に細まった。


「どーだ? 羨ましいだろ。でも、まぁ、良かったな。イシスちゃん、何とも無いようじゃないか。なぁ、シュリ」


ニヤリと漣が笑む。

シュリの目が細められた。


「でも、もう少し手を加えておく必要がある……」

「は? まだ何を?」


漣の呟きを聞き逃さなかったシュリは、咄嗟に疑問を口にする。

漣は彼の疑問に、アッサリと答えていた。


「イシスちゃんには、元々、お前の魅了の力に若干だが、耐性がある。何せその魂に、都合三度も魅了をくらってんだ、耐性も出来るわな……」

「なっ……」


シュリが言葉を詰まらせたのか、溜め息とも何ともつかない声を上げる。 

その横でイシスが、小首を傾げ、問うた。


「魅了って何でしょう? 耐性??」

「あぁ……。イシスちゃんには初耳か……」


漣は、そう呟くとシュリを見て言った。


 「私が説明するかい? それとも自分でする?」

「俺が話す」


簡潔に一言。

はっきりとした声音が、イシスの耳に届き、彼女はキョトンとした顔付きで、シュリを見た。

身体を起こしたシュリの、三つの瞳がイシスを見つめる。

額の瞳が紫青。

通常の人と同じ場所にある瞳が、紫青と青碧。

漣の手がどけられて、イシスにとっては、初めて見る、もう一人のシュリの顔だった。


「俺が怖いか?」

「いいえ、全く。どんな姿でも、シュリさまはシュリさまですね。私、今、確信しました」

「はっ! 物好きな女だな……お前……」


半ば、やけっぱちに聞こえる、シュリの言葉。

イシスは、彼に負けないよう、満面の笑みを湛えた。


 
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