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黄衣の王と黄金の姫君
③
言葉に詰まるシュリに、漣がニヤリと笑う。
「なら何故!!」
声を荒げるシュリに、落ち着いた漣の声が重なる。
「今頃、助ける気になったか……だろ。それは、お前が自分のした事を、考え出したせいだから。後悔してるんだろ。自分のした過ちに。なぁ、ハスター」
優しげに微笑む漣の顔は、兄、クトゥルーの顔と重なる。
シュリ、否、ハスターは、深く重い息を吐き出した。
「あんたには負けるよ……」
「当たり前だ。こっちは伊達に、お前の兄ちゃんとシュリの親父を、やって無い」
きっぱりと言い切る漣には、余裕が垣間見える。
そんな彼が、シュリの首元からフードへと手を移動させた。
「じゃあ、剥ぐぞ」
「力が発動したら恨むぞ」
今一度、漣に言い添えて、シュリは覚悟を決める。
漣の指先が、フードの中に入り込み、ピシッと言う音と、シュリの呻く声と共に、深く被った彼のフードを跳ね上げた。
ハスターの素顔が、初めてあらわになった瞬間だった。
剥がされたフードの中から現れた中で、一番目を引くのは、流れる様な青銀の髪。
シュリとは違って、銀よりも青が強い。
漣の手が、ハスターの額と顔にかかり、半分見えなくなっているが、人間離れした美貌は、損なわれる事は無かった。
女とも男ともつかない、中性的な顔立ち。
左右色違いの瞳。
そんな色白で細面の彼が、人とは決定的に違う所は、超絶的な美貌の他に、額を縦に裂く亀裂と、そこにはまる紫青の瞳だった。
その彼の額の、三つめの瞳が、目前の黄金の姫君をじっと見つめる。
心配そうに揺らめく、姫の蒼い瞳。
彼女は、『吸い込まれそうな瞳の輝きです』と、感じながら、目線を外せないでいた。
ぼーっとシュリを見ていたイシスは、漣の呼び掛けで、ようやく正気に返った。
「大丈夫かい? イシスちゃん」
「あっ……ごめんなさい……義父様……」
「おおっ!! 嬉しいねぇ。義父様って呼んでくれるなんて」
「はい。勿論です」
シュリを置いて、二人だけで会話が弾む事に、黙って聞いていた彼が、小さく溜め息をついた。
「よく呑気に、そんな会話が出来るものだな。聞いて呆れる」
シュリの固い声音に、四つの瞳が、彼に注目する。
そのうちの二つが、笑う様に細まった。
「どーだ? 羨ましいだろ。でも、まぁ、良かったな。イシスちゃん、何とも無いようじゃないか。なぁ、シュリ」
ニヤリと漣が笑む。
シュリの目が細められた。
「でも、もう少し手を加えておく必要がある……」
「は? まだ何を?」
漣の呟きを聞き逃さなかったシュリは、咄嗟に疑問を口にする。
漣は彼の疑問に、アッサリと答えていた。
「イシスちゃんには、元々、お前の魅了の力に若干だが、耐性がある。何せその魂に、都合三度も魅了をくらってんだ、耐性も出来るわな……」
「なっ……」
シュリが言葉を詰まらせたのか、溜め息とも何ともつかない声を上げる。
その横でイシスが、小首を傾げ、問うた。
「魅了って何でしょう? 耐性??」
「あぁ……。イシスちゃんには初耳か……」
漣は、そう呟くとシュリを見て言った。
「私が説明するかい? それとも自分でする?」
「俺が話す」
簡潔に一言。
はっきりとした声音が、イシスの耳に届き、彼女はキョトンとした顔付きで、シュリを見た。
身体を起こしたシュリの、三つの瞳がイシスを見つめる。
額の瞳が紫青。
通常の人と同じ場所にある瞳が、紫青と青碧。
漣の手がどけられて、イシスにとっては、初めて見る、もう一人のシュリの顔だった。
「俺が怖いか?」
「いいえ、全く。どんな姿でも、シュリさまはシュリさまですね。私、今、確信しました」
「はっ! 物好きな女だな……お前……」
半ば、やけっぱちに聞こえる、シュリの言葉。
イシスは、彼に負けないよう、満面の笑みを湛えた。
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