【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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黄衣の王と黄金の姫君


「ふふっ……」

「何が可笑しい?」


笑んだまま、小さな声をこぼすイシスに、シュリが疑問の声を上げる。

シュリに数歩、膝立ちで近寄るイシスの髪が、ふわりと揺れる。

彼女は、引き寄せられる距離まで近付いて、可憐な花の様に、ふわりと笑った。


「シュリさま、恋する乙女は強いのですよ。貴方さまが思う以上に、遙に…… 」


目を見張るシュリの姿。

イシスは、彼の姿に満足げにうなづくと、


「ですから、何を聞いても驚きません」


力強い瞳でシュリを見た。

そんな彼女に、シュリはあきらめに似た溜め息を吐く。

シュリの方が、イシスに陥落した瞬間だった。

彼女の方がよっぽど、魅力がある。


黄衣の王が、黄金の姫君に、魅了された瞬間だった。


 「魅了……ですか……それは一体何なのですか? 」


不思議そうに呟くイシスに、シュリがやけに丁寧に説明を始めた。

それは、その場にいた関係者、全員に対する意味もあった。


「言葉通りだよ。会う者全てを虜にする。虜となった者は、全て俺の傀儡になるんだ」

傀儡かいらい…… 」


イシスの呟きに、シュリの顔が苦痛に歪む。

だが、彼の苦悩は誰も知るよしは無かった。

それもその筈か、苦悩など告げなければ伝わらない。

そんなシュリが、声音一つ変えないまま言った。 


「俺以外の言葉は、一切受け入れない、ぐくつの事だ。『死ね』と言えばその場で死ぬし、たとえ、愛し合う恋人同士でも、『殺し合え』と言えば躊躇う事無く殺し合う。俺の姿を見た者は、例外無く傀儡となる。それが『魅了』だ」

「シュリ……、いや、ハスターはね、自分の意思にかかわらず、『魅了』を発動させてしまうんだ。勿論、シュリが例に上げた様な事は、命じた事はないよ。彼の名誉にかけてね」


シュリの言葉をフォローする様に漣が、横槍を入れる。

シュリの気配が、漣を伺う様に突き刺さるが、すぐに柔らかいものに成り代わった。

 
「あんたが、俺の事をそういう風に考えているとは思わなかったよ……」

「ひっ……酷いよぉ、しゅり……お父さんが、何したってゆーのっ」


よよと、泣き崩れて見せる漣に、シュリが呆れた声を上げる。


「そういうふざけた態度が、嫌なんだよ。それに、人を仮名で呼ぶな。鬱陶しい」

「何時から、そんな風になったのかねぇ……。昔は何処に行くにも『おとうちゃま、ぼくも行く』って言って、着いて回って居たのに…… 」

「それな、一体いくつの時だと思ってんだ」


溜め息と共に、吐き出す物は諦め。

二人の会話に、目を点にする者、はたまた呆然とする者も居たが、それらを意に解さないのが、シュリと漣、親子だ。

彼らの、掛け合い漫才的会話に、にこにこ笑って動じないのが、イシスだった。




シュリは、椅子に深く腰掛け直すと、片手でフードの中の顔を覆った。

クスッと小さく笑う声。

それがシュリの隣から聞こえる。

声のした方向を見てみると、イシスが彼に向けて破顔一笑していた。

 
「そんなに可笑しいか? 」


固い声を崩さぬシュリに、イシスは首を左右に振る。


「そうではありません。お二人共、仲がよろしくて、微笑ましく思っておりましたの」

「は? イシス……熱でも有るのか?」


大真面目にイシスへと右手を上げるシュリに、漣の声が重なる。


「イシスちゃんの方が、良く分かってるじゃない。いーなー。やっぱり女の子は……女の子、欲しい…… 」


好き勝手言う漣は、言葉の勢いのまま、イシスの額に置こうとしていた、シュリの手を押しのけ、ガシッと彼女の両手を掴む。


「イシスちゃん! おぢさんの義娘むすめになんない? 決して不幸にはさせないから!」

「おいっ!! このくそ親父! イシスをたぶらかすんじゃ無い!!」


漣の態度と台詞に、ギョッとしたシュリは、思わず身を乗り出して、荒げた声を上げる。

その瞬間、シュリの身に僅かだが、隙が生まれた。

漣が父親である事実と、彼の緊張感の無さが、拍車を掛けたと言っても、過言では無かった。


 
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