【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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姫の決断


今度は、漣が慌てた。


「悪かったね。イシスちゃん。やはり、唐突過ぎたね。この話は無かった事にしよう。忘れてくれていいから……ね」


そう言って、ぎこちなく笑う漣に、イシスは弾かれた様に、俯き加減だった顔を上げた。


「違います! 違うの……私……」


勢いよく叫ぶ声が、しまいには、か細い物に変わる。

そんなイシスの肩に手を置くと、漣は彼女の顔を覗き込み、優しい笑顔を見せて言った。


「何が違うのかな? 話してくれるかぃ?」


漣の言葉に顔を上げ、彼を見つめるイシスは、目を伏せると、ぽつりぽつりと話し出した。


「私は、シュリさまが好きです。でも、あの方の心が解りません。私、命有る限り、あの方の側に居たいと……居ようと考えていました。少しでも安らぎになれればと……」

「イシスちゃん……」

「シュリさまの重荷には、成りたくは無いのです。私が、時間を共にして良いのか……」


訴えに近い、イシスの叫び。

何時も、自信有り気に胸を張っていた彼女。

そんなイシスの、初めて口にする弱さ。

漣は、イシスをそっと抱き寄せると、ぽんぽんと頭を撫でた。


 「大丈夫だよ、イシスちゃん。シュリは、君を疎んじたりしない。己を嫌悪していても、君の事は大切に思っているから」


漣の言う事に、元々根拠は無い。

だが、何故か不思議と、その言葉には説得力があった。


「私で、お役に立てるのでしたら……」

「大丈夫、大丈夫」


漣に説得させられた形で、承諾の言葉を紡ぐイシスと、これまた対称的に響く、漣の安易な言葉。

それに、難色を示した人物がいた。

当たり前と言えば、当たり前か。

言わずと知れたシスコン兄貴、エステル、その人である。


「イシス、お前、本気で信じてるのか? そいつの戯れ言を……」

「はい、お兄様。この方は、本気でおっしられています。目を見ていれば判りますわ」

「だが、イシス。お兄ちゃんはとても、心配だよ……」


やたらと、『とても』を強調するエステルに、イシスは、難い決意で臨む。

安易な気持ちでは、この兄を納得させる事は出来ない。

彼女は、その事を良く知っていた。


「お兄様。私、本当にシュリさまに愛されているのだとしたら、あの方の運命と、共にありたいと思います。側にいて、少しで良いのです、安らぎになりたい……」


両手を胸の所で組み、真剣な眼差しと声で話す。

その行いが、彼女のせつない思いを、その場にいる全ての者に伝染させた。

それ程までに、真剣なイシスの思い。


「兄様……。私、後悔したくはありません。セレナさんの様に……。私は、あの方と共に生きる事を望み、決断します」


彼女の決断。

揺らぐ事の無いその思いを、エステルは、無下に扱う事など、出来無かった。


「イシス……。お前、本気なんだね。永く生きると言う事は、お前の大切な人達が、次々とお前を置いて去って行くと言う事なのだよ。それが分かっていての、発言なんだね?」

「はい。覚悟は出来ています」

「永遠の命を持つお前を捕らえ、辛い目に合わせる輩も、現れるかも知れないよ」

「はい。承知の上です。その時は、シュリさまに上手な逃げ方を、教えていただきます」


イシスが、にっこりと笑う。

エステルはそれを見て、深い息を付いた。


 「わがまま言ってごめんなさい……」


イシスは、周囲の人々を見渡して、深く頭を下げた。

兄のエステルに、両親である国王と王妃、そして仲の良い、義姉。

皆に心配をかけるだろう。

悠久の時を生きるのだから、不安も戸惑いも有るだろう。

独りぼっちになる事さえも。

だが彼女は後悔しない。

愛する人々と、二度と逢えなくなる事になっても。


「ごめんなさい……」

「あやまらなくて良いのですよ。イシス。貴女の人生ですもの。大国の姫に生まれたからと言って、恋をしてはならない理由にはなりません。素敵な恋をしたのね……」

「お母様……」

「私も恋をして、愛する陛下の下へ嫁ぎました。今度は、貴女の番ですよ。イシス」


感極まって、母に抱き着くイシスを、王妃はやんわりと抱きしめ返す。

可愛い娘を、未知なる世界に送り出す事が、心配でない筈がない。

それでも彼等は、彼女の思う道を歩ませる事に、戸惑いは無い。

なぜならイシスには、共に歩むべき人が、存在しているから。


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