【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

文字の大きさ
85 / 90
姫の決断




「シュリ……。お前は分かっていない。私達はね、誰も愛してはいけなかったんだよ。孤高で成らなくてはいけなかった。その意味に、お前は気付いていない」


漣の、呟く様に紡ぎ出される言葉が、室内の空気を重くする。

吐露される、偽り無い感情。

彼の過去に、一体何があったのか。

今ここで、知る事能わぬ漣の生き様。

珍しく真剣な父親の声音に、シュリはふうっと細い息を吐いた。


「ここで、家庭の事情をあからさまにする気は無い。だが、言わせて貰う」


シュリの強い意思は、ぶれる事無く明確に伝えられる。

イシスの心にも。


『本当に好きだから今度こそ、彼女の魂に自由を。ハスターから解放してやりたい……だから』


そう思う反面、どうしようもなく愛おしい。

狂おしい程欲しい女が目の前に居て、それでも彼女に自由であって欲しいと願う。

そんなシュリの思いを感じ取ってもなお、イシスの気持ちは変わらない。


『私は……いえ、私達は、謀れてシュリさまを愛した訳ではないわ。この思いは私達のもの……だって、私達も貴方に一目惚れしたのですから……。ねぇ、そうでしょう……私……』


自問自答するイシスに、シュリの、はっきりとした言葉が、聞こえてきた。


「もう、良いだろう。俺の気持ちなんてどうだっていいんだよ、彼女を自由にしてやりたい……それだけだ」

「シュリ……。思い上がってんじゃぁないよ。それを決めるのは、君じゃない。イシスちゃんなんだよ」


漣の少しきつい声が、イシスの耳を打つ。

彼にしては珍しい声音に、イシスの指がぴくんと動いた。

ごく僅かな反応。

正しくその通りだと考えた彼女は、力を貸すと約束した、三人の彼女の前世に祈りを込めた。


『私は、今、私の中にある、この力を受け入れたいの……お願い……力を貸して下さい……』


目前にある、紫青の玉を包む様な感覚が、イシスの心に沸き起こる。

それと同時に、現実に置かれた彼女の身体に、異変が起きた。

それにいち早く、気付いたのは漣だった。


「それに、イシスちゃんの決心は、堅かった様だよ。シュリ」


漣が、シュリの腕の中のイシスを指さす。

彼女は、シュリの力の玉と同じ光りに包まれていた。


 「何故……だ……?」


シュリの呟く声が、僅かに震える。

正しく、驚愕きょうがくするとは、こう言う事を言うのだろう。

シュリは、開いた口が塞がらないでいた。


「何故だ? イシス……こんな事をすると、二度と人には戻れないんだぞ……」


不安と、僅かな期待が入り混じる、シュリの声音。

そう、彼が目にした光景は、イシスの中で止まっていた、シュリの力の侵食が、再び始まっていたと、言う状況だった。

食い入る様に見つめるシュリ。

その様子からして、今度は、先程とは随分様子が違う事が伺い知れた。

苦しんでいた彼女が、今は、眠る様に穏やかに、光に身を任せている。

光の玉がまるで、イシスを護っているかの様に、見える。

元来、シュリの力とは、彼の命そのもの。

彼女を心底愛するシュリなのだから、彼の力が、イシスを傷付けたりなど、しないはずなのだ。

今、ようやく本来有るべき力の受け入れ方に、行き着いたのだった。

紫青の光が、段々収束していくと同時に、イシスの額に何か、紋様の様な物が浮かび上がる。

 それは、シュリの額にあった瞳を、絵に描いた様な物。

彼の力が、イシスの額に収束し、結晶化した物が、彼女の額に浮かび上がったのだ。

その、紫青色の結晶の周りを、囲う様に走る横長の縁取りは、よく見ると、細かな文字の収束となっていて、それらは横に開く目の様に、イシスの額に現れ出ていた。


「イシス……」


シュリが、彼女の名を、柔らかくて
甘やかな声音で囁く。

彼の声に導かれたのか、はたまた偶然だったのか、イシスの重く閉じられた瞼が小刻みに揺れ動き、やがて、ゆっくりと開いた。

ニ、三度瞬きをすると、イシスは、くりくりとした瞳で、自分を見下ろすシュリを見た。


「シュリ……さま? 私……」

「気分はどうだ? 痛い所は無いか?」


あれ程、拒絶の言葉を吐いていたシュリも、イシスを心配してか、柔らかな声と表情で彼女を迎え入れた。

それに黙っていられないのが、漣で。

間抜けにも、シュリに絡む言葉をかけた。


「シュリってば、イシスちゃんには優しいんだ~! なんか羨ましい……」


絡んだのは自分だと言うのに、漣の声は何処か寂しい。


感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〖完結〗終着駅のパッセージ 

苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。 その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。 婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。 孤独な結婚生活を送る中。 ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。 始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。 他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。 そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。 だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。 それから一年ほどたった冬の夜。 カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。 そこには彼の想いが書かれてあった。 月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。 カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。 ※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。 ※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。 稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。