【完結】青碧の魔術師~黄衣の王と黄金の姫君~

黄色いひよこ

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機械人形の思い

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「お前がそんな気弱になるとはね……いつも前向きで、押しが強く信念を持って進むお前が……」


シュリはそこまで言って口をつぐむ。

イシスの不安げな眼差しは、変わる事無くシュリの視線と絡んで。

シュリは、初めて彼女に処世術では無い微笑みを見せた。

ぎこちない、まだまだ堅い彼の微笑み。

当然と言えば当然か。

感情を何処かに置き忘れた、機械仕掛けの人形の様な彼だ。

笑みを見せようと言う行為事態が、イシスの導き出した奇跡だった。


「迷惑はしてない。お前となら、無くした何かを、取り戻せるかも知れないな」


シュリの言葉が、イシスの涙と笑顔を引き出す。

天使の微笑み。

否、女神の微笑みだ。

シュリの目が、眩しげに細められたのは、気のせいか。

イシスの細腕が、シュリの首に絡みついて、ぎゅっと彼に抱き付く。


「俺が、お前の時を奪っても良いのか?」

「心はもう既に、貴方に奪われています。なら、貴方と共に有る為に、私の時も奪って下さい」


 イシスの思いは、頑なな程強い。

それが彼女の強み。

シュリが息をのむ。


「負けたよ……。イシス。俺は君を愛する。きっと永遠に。永いぞ。覚悟は有るか?」

「勿論です。その覚悟が無ければ、貴方の力を受けてはいないでしょう」 


間髪入れずに返るイシスの返事に、シュリは「そうだな」と、呟いて彼女を抱きしめ返した。


「これで、全ては丸く治まったのかな?」


こっそり、小さな声で呟く人物がひとり。

この事件の原因にして、二人を繋ぎ留めた人物。

如月漣、その人だった。

彼の囁きが、抱きしめたままで、イシスの首筋に顔を埋めた、シュリの目線を上げさせる。

射殺す様な殺気を含むシュリの視線が、有無を言わさぬ勢いで『帰れ』と訴える。

だが漣は飄々として、気にも止めなかった。


「そんな怖い顔しないでよシュリ~」


場違いと言える漣の声。


「これ以上、此処に留まる理由が何処に有る」


飄々とした声に返したシュリの声は、頑なな程、感情の欠片も無かった。


 「シュリ~、そんな人形みたいな話し方していると、イシスちゃんに嫌われるぞぉ」

「あんたもいい加減、その話し方、慎んだらどうだ? ただの馬鹿にしか見えん」


漣がとぼけた声を出して咎めると、シュリが間髪入れずに応戦する。

本当に仲が良いのか、悪いのか。

端から見ても分かりにくい親子。

見目好い顔を、あからさまに侮蔑の形に歪めて、シュリがもう一度、言った。


「早く帰れ」


シュリの態度に漣は、肩を竦めて息を付く。


「わかりました。分かったから、そんな顔すんなって。ほんっと、からかいがいの無い奴」


少々ふて腐れ気味の漣の声音に、まだ言うかと直一層不快感を示し、言葉を返そうとしたシュリを遮って、先にイシスが漣に問うた。


「もう帰られるのですか?」

「うん? そうだねぇ。意地悪も大概にしないとシュリが爆発するから……帰るよ」


断言する漣に、イシスが寂しそうに眉根を寄せ、抱きしめるシュリの腕から、すり抜けた。


「又、いつでもいらして下さい。歓迎致します」

「しばらく来るなよ」


 イシスの言葉にシュリの言葉が重なって、


「もう……駄目ですよ。シュリさま。そんな事をおっしゃられては……」


イシスがたしなめる。

そのやり取りは、すでに亭主を尻に敷く女房さながらで。

思わず、漣の顔に柔らかな笑みが浮かんだ。

父の顔もわずかな間で、彼は、急に険しい表情を浮かべて、シュリを見た。


「シュリ。私はもう帰るけど、全て独りでしょい込むなよ。お前の問題は私の問題でもあるのだからね」


声音は至って優しいが、有無を言わせない口調に、シュリが眉を寄せる。


「何の事か解らんな」


とぼけているのか否か。

真意の見えないシュリの表情に、漣が溜め息をひとつついて、確信に迫る。


「ナイアルラトホテップ。奴をわざと逃がしただろう。奴は必ず主に報告するよ。いや、もう報告済みで、誰かこちらに、向かっているかも知れない」

「ふん……誰か、ねぇ。」

「シュリ……奴の主は誰だっけ……? とぼけるなよ」


何時にもまして強い口調の漣に、シュリもとぼけるのを止めた。


 
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