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無実の罪で投獄された令嬢
投獄された令嬢⑧
しおりを挟むヘンディクも、零の後ろに小さな馬の形で光を放ち浮かんでいる。
「改めて、初めまして。私は『女神フォルトゥナ』の代弁者。御使いをしております、レイ=ツツイと申します。此方は神馬、ヘンディク=アトラタンと言います。貴女は、キャサリン=レイアース伯爵令嬢でお間違い有りませんね。女神の要請により、貴女を保護しに参りました」
そう言って、零はキャサリンに頭を下げた。
目を見開いて呆然としているキャサリンに、零は軽く首を捻るように傾げた。
「俺の言う事、解りますよね? 運命の女神フォルトゥナの事、御存知でいらっしゃいますよね? 」
普通よりもやや乱暴な言葉使いであった彼が、丁寧な言葉使いに変えて、疑問符を飛ばす。
それこそ御使いらしい口調で。
逸れを聞いてキャサリンは、ぼんやりと彼らを見ていた事にはっと気付いて、慌てて、
「はっ、はいいっ!! 知ってますぅ、ごめんなさい! 」
と、コレが素の彼女なのだろう、砕けた言葉で非礼を詫びたのだった。
「あの……、ですね。御使い様に対し、大変申し上げ難いのですが、わたくし、お話をする時には目を見てお話しする事を心情としておりますの、宜しければ、フードを取ってお話し頂けませんか? 」
零は、キャサリンに丁寧にそうお願いされて、目を見張った。
確かに、顔を見せずに話をするのは礼儀に反していると言うのは、零にも思う所はあったのだ。
けれど顔を晒すのは彼に取って少し、嫌かなり躊躇する行為だったから、キャサリンにも目深くフードを被った形で対応していたのだが……どうやらそうも言ってられないようだった。
だから零は、キャサリンに顔を隠す理由を正直に掻い摘まんでだったが、説明する事にしたのだ。
それは、つい最近の出来事だった。
この顔が、人を狂わせる事になった。
初めて地上に降り立った時、通りかかった男女に道を聞いた。
ただ、逸れだけだった。
なのに、一瞬の内に女が零に一目惚れをした。
その時、慌ててヘンディクがやって来て、零を咄嗟に背中に乗せて、その場を後にした。
飄々として何事にも動じないように見えるが、そうしなければこの男は自分を責めて心を壊しかねない。
それだけ心が優しすぎるのだ。
零の美貌を見る事によって起こる結末を、彼にに見せる訳には行かないと、ヘンディクは結論付け、飛び立ったのだった。
ヘンディクは、この時自分の落ち度に舌打ちしたものだった。
馬だから実際には舌打ちなど出来ないのだが……。
ヘンディクが犯した落ち度とは。
その時、其処に居たのは女だけでは無かった。
男も彼女の隣に居て、二人は仲睦まじいカップルだったのだ。
その瞬間までは……。
女だけで無く、隣にいた男も零に思いを抱き、彼が欲しくなったのだ。
それはもう、死にたくなる程に。
その結果、男女は行き過ぎた喧嘩となり、それは殺し合いに発展したのだった。
思いを寄せる本人が其処に居ないと言うのにだ。
ヘンディクは、その殺し合いを見る事無くその場を立ち去ったが、彼ならみなまで見る事無く解った。
そう、己も昔、同じ体験をしたから。
『フォルトゥナの守護騎士』にならない限り魂の輝きは止まらない。
しかも、零の魂の輝きはヘンディクの比では無かった。
並外れた善行の持ち主なのだ、零と言う男は。
魂の輝きは顔と体をそれに見合った形に変化させる。
良しきに付け、悪しきに付け。
零は今、昔のヘンディクと同じ道を歩いているのだ。
けれどこの事はヘンディクしか知らない。
そして教える事も出来ない。
彼は零の後ろで見守るしか無かった。
零は己の人を魅了し、破滅に導く己の姿の事をキャサリンに説明し終え、ヘンディクにどうするか、お伺いを立てて見た。
「ヘンディク、どうだろう? 」
と。
そうすると、ヘンディクはしばし考え、
「フォルトゥナ様が会いたいと仰った女性です。彼女なら大丈夫ではないかと思います…… 」
と、言う言葉で零はフードを取る決心をし、それと同時に、ぱさりとフードを跳ね上げ、キャサリンを強い黒金剛石の瞳で見詰めた。
嫌、見つめ合ったのだ。
キャサリンの瞳も、強い力で零を見詰めていた。
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